2万年前、ハチは骨の“歯の穴”をゆりかごにしていた

古生物学
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フクロウが食べ残した動物の骨。その、歯が抜けたあとに残った小さな穴。そこを大昔のハチが、赤ちゃんを育てる小部屋として使っていた——骨の中でハチが子育てをしていた、世界で初めての証拠が見つかりました。カリブ海の島の洞窟から出てきた、ちょっと奇妙で愛おしい古生物ネタです。

骨の中に見つかった小部屋

舞台は、カリブ海に浮かぶイスパニョーラ島(いまのドミニカ共和国のあたり)にある、石灰岩の深い縦穴の洞窟です。この一帯は石灰岩が多く、あちこちに縦穴(シンクホール)が口を開けています。その一つに、フクロウが何世代にもわたって住みついていました。

フクロウは獲物を丸のみしたあと、消化できない骨や毛をかためて口から吐き出します。これをペリットと呼びます。長い年月のあいだにこの吐き戻しがたまり、洞窟の床にはげっ歯類やナマケモノ、鳥、爬虫類など、50種類を超える動物の骨が層になって積もっていました。研究チームは、その骨をていねいに調べているうちに、妙なものに気づきます。

顎(あご)の骨に並んだ、歯が抜けたあとの穴——歯槽(しそう)といいます——の中が、なめらかな面でふさがれていたのです。ただ土がたまっただけなら、こんな整った、少しくぼんだかたちにはなりません。しかもそれが、いくつもの骨で同じように見つかりました。研究をまとめたフィールド自然史博物館のラサロ・ヴィニョラ=ロペスさんは、それを見て「ハチの巣に似ている」と直感します。学生時代に、泥でできたハチの仲間の巣(繭のような小部屋)を見せてもらった記憶が、ここでつながりました。

壊さずに中身を確かめる工夫

とはいえ、思いつきと証明は別物です。貴重な化石を割って中を見るわけにはいきません。そこでチームは、骨をCTスキャンにかけました。いろいろな角度からX線をあてて、内部を立体的に写し取る方法です。おかげで、化石も中の土も傷つけずに、歯槽の奥に何があるのかを3次元で確かめられました。

浮かび上がってきたのは、いまのハチの一部が泥でつくる巣室と、そっくりな構造でした。ひとつひとつは楕円形の小さな部屋で、内側の壁はなめらかで、何層にも重なった防水の裏打ちがされています。単独で暮らすハチは、卵と幼虫を守るために、こうした水をはじく仕上げを巣室に施すことが知られています。大きさは、鉛筆の先についた消しゴムよりも小さいくらい。そのいくつかには、化石になった花粉の粒まで残っていました。母バチが、生まれてくる幼虫の食料として詰めておいたものです。

群れないハチの意外な暮らし

ハチというと、ミツバチやスズメバチのように大きな巣で群れて暮らす姿を思い浮かべがちです。でも実際には、ハチの9割以上は群れをつくらず、一匹で暮らす単独性のハチです。多くは地面に穴を掘り、その中に卵を産んで花粉を置いていきます。木に穴をあけるものや、空いた構造物を巣に使うものもいて、ヨーロッパやアフリカには空になったカタツムリの殻を巣にする種までいます。

今回のハチは、その「空いた構造物を使う」路線を、かなり思い切った方向に伸ばしていたことになります。研究チームは、この行動がいくつかの条件が重なって生まれたのだろうと見ています。この地域は石灰岩の上に土がほとんどなく、地面に穴を掘りにくい。だからハチは、巣づくりの場所として洞窟に目をつけた。そしてその洞窟が、たまたまフクロウの骨だらけだった。歯槽や、歯の根がおさまっていた空洞、背骨の中を通る穴——骨にあいたそうした空洞が、小さな巣室にちょうどいいサイズだったというわけです。骨の中に卵を隠しておけば、卵をねらう寄生バチのような天敵からも守りやすかったのかもしれません。

骨の中の化石という新カテゴリー

見つかったのはハチの巣そのものであって、ハチの体ではありません。やわらかい虫の体は、この高温多湿の環境ではほとんど残らないため、どんな種類のハチだったのかは特定できていません。いまも生きている種かもしれないし、すでに絶滅した種かもしれない、という段階です。

ただ、巣のかたちがこれまで知られているどのハチの巣とも違っていたので、チームはこの巣に学名をつけました。生き物の体ではなく、巣穴や足あとのように「生き物の活動の跡」が化石になったものを生痕化石(せいこんかせき)と呼びます。今回の巣はその一種として、Osnidum almontei(オスニダム・アルモンテイ)と名づけられました。属名はラテン語の「骨(ossis)」と「巣(nidum)」を組み合わせたもの。種名は、この洞窟を最初に見つけたフアン・アルモンテ・ミランさんにちなんでいます。つまり、名前からして「骨の巣」。中身をそのまま言い当てたような命名です。

骨の空洞にできた巣が、既存の化石の中から新しく見つかった。この「化石の中の化石」という視点は、研究者にとっても学びになったようです。ヴィニョラ=ロペスさんは、もし過去にハチの巣を見た経験がなかったら、骨を掃除するときにこのなめらかな土をこすり落としてしまっていたかもしれない、と振り返っています。大きな動物の骨を探しているときでも、そこに残る虫の痕跡に目を向けると、その場所の生態系まるごとの物語が見えてくる——そんな教訓も含んだ発見でした。

解釈上の留意点

この洞窟の骨は、多くの報道でおよそ2万年前のものとされています。ただ、堆積が長い年月をかけて層になって積み重なったものなので、年代には幅があり、ぴたりと一点に定めるのは難しい点は押さえておきたいところです。巣をつくったハチの正体が分かっていないこと、営巣の理由が今のところ推測であることも同じで、今後さらに研究が進めば、細かいところは描き直されていくかもしれません。

それでも、フクロウの食べ残した骨の穴を、小さなハチが赤ちゃんのゆりかごに変えていた——という情景は、想像するとなかなか印象に残ります。生き物は、私たちが「ふつう」と思っている枠を、ときどき軽々と超えてくる。そのことを、2万年ごしに小さな骨の穴が教えてくれました。

出典

元論文:Lázaro W. Viñola-López et al. “Trace fossils within mammal remains reveal novel bee nesting behaviour.” Royal Society Open Science 12(12): 251748, 2025.(2025年12月1日公開・査読済み・オープンアクセス)DOI: 10.1098/rsos.251748

参考:Sci.News(2025年12月17日)ScienceDaily(フロリダ自然史博物館プレス)

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