脚を失ったヘビの出発点は一つではなかった——8000万年前の化石が示す初期の多様性

古生物学
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ブラジル・サンパウロ州の採石場で2020年に掘り出された小さなヘビの化石が、新種として Nature に記載されました。名前は Tametara mirim(タメタラ・ミリム)。7500万〜8500万年前、恐竜がまだ地上を歩いていた時代のヘビです。

頭骨をCTでスキャンして中身を調べると、視覚に関わる脳の領域が小さく、平衡感覚をつかさどる内耳がふくらみ、頭の天井の骨が分厚い。頭から土に潜って暮らす動物の特徴が、そろって出てきました。初期のヘビが地中で生活していたことを示す証拠としては、これがいちばん確かなものになります。

ただ、この研究の本当の見どころはその先にあります。同じ手法でほぼ同時代のアルゼンチンのヘビ、ディニリシア・パタゴニカを調べると、正反対の答えが返ってきたのです。こちらは地表で暮らす作りをしていた。つまり、初期のヘビは「水から」か「地中から」のどちらか一方を出発点にしたのではなく、早い段階からいくつもの暮らし方に分かれていた——そういう話になります。

ヘビの起源をめぐる三つの仮説

ヘビは、ざっくり言えば極端に改造されたトカゲです。恐竜時代のどこかで、あるトカゲの系統が脚を失い、体を細長く伸ばした。問題は、なぜそうなったのか。ここに100年以上、大きく三つの説が並び立ってきました。

一つめは水中説です。長くて脚のない体はウナギのように泳ぐのに向いているので、最初のヘビは水に進出した仲間だった、という見方。二つめは地表説。落ち葉や下草が茂った地面を縫って進むなら、短い脚はむしろ邪魔になる、という理屈です。三つめが地中説で、頭から土に潜り込んで進む暮らしに合わせて脚が消え、体が伸びたと考えます。いまも地面の下でミミズのように暮らしている小型のヘビたちが、そのイメージに近い。

どれも筋は通っていて、決着がつかない理由もはっきりしています。証拠になる化石が足りないのです。中生代(恐竜が生きていた時代)を通して、骨がつながった状態で見つかったヘビの化石は10体に届きません。しかも押し潰されず立体のまま残っているものは、アルゼンチンのディニリシアとナジャシュ、インドのサナジェの3例だけでした。今回の化石は、その4例目に加わったことになります。

採石場から出た「飾られた小さいもの」

化石が見つかったのは、サンパウロ州プレジデンテ・プルデンテにある採石場です。地層はアダマンチナ層。同じ場所からは首の長い大型の草食恐竜やワニ、原始的な鳥の化石も出ていて、水辺の緑豊かな環境だったことがわかっています。

残っていたのは、頭骨の後ろ半分と下あご、そしてそこにつながった首から胴の前半にかけての背骨で、背骨の数はおよそ103個。残存部分だけで長さは約42センチ、頭骨の残っている部分は17.8ミリでした。頭骨まるごとの長さは33ミリほどと見積もられており、体の前半分ほどが残っている標本なので、生きていたヘビはもう少し長かったことになります。研究チームの見立てでは、頭骨の約6割、背骨の約7割が保存されている計算です。

学名には、ブラジルの先住民が使うトゥピ・グアラニー語が当てられました。属名の Tametara は「飾られた」という意味で、頭のてっぺんを前後に走る目立った骨の隆起(矢状稜〈しじょうりょう〉)にちなんでいます。種名の mirim は「小さい」。全体で「飾りのある小さなもの」という名前です。

頭の中身から読み取れる暮らし方

ここからが今回の研究の核心です。ヘビの脳は、頭の骨の内側の空間にぴったり収まっています。人間の脳のように液体に浮いてはいないので、化石の頭骨の内側を型取りすれば、生きていたときの脳の形にかなり近いものが得られる。この「頭の中の空洞から作る型」をエンドキャストと呼びます。

研究チームはサンパウロ大学の高解像度CT(1ボクセルが17マイクロメートル、髪の毛の太さの5分の1ほど)で頭骨をスキャンし、脳・脳から出る神経・内耳の形をまとめて復元しました。ステムグループ(現生のヘビの共通祖先より前に枝分かれした、いわば本流の外側の仲間)のヘビとしては、これまででいちばん詳しい復元だそうです。

出てきた形には、地中で暮らす動物の特徴が並んでいました。においの情報を受け取る嗅球(きゅうきゅう)が短く、大脳のふくらみは控えめ。目から来た情報を処理する視蓋(しがい)の輪郭がぼやけていて、視覚にあまり頼らない動物の作りです。内耳では、平衡感覚に関わる前庭が大きくふくらみ、三半規管は逆に単純化していました。これは現在の掘るヘビに共通する特徴です。

骨そのものの微細構造も、同じ方向を指しました。頭から土に潜る動物は、頭の天井の骨を厚く、密に作ります。頭を掘る道具として使うので、その負荷に耐えるためだと考えられています。この特徴は掘るトカゲの系統でも何度も独立に現れているもので、タメタラの頭骨はまさにその組み合わせを備えていました。統計にかけると、いま生きている「頭から掘る」専門家たちのど真ん中、それもかなり極端な位置に入ります。

同時代のもう一種との対比

比較対象になったディニリシア・パタゴニカは、9000万年前ごろのアルゼンチンにいた全長2メートルほどのヘビです。白亜紀のヘビの代表格として長く研究されてきた化石で、脳の入る空間の保存状態がよく、同じ手法をかけられる数少ない相手でした。

結果は、タメタラとは逆でした。ディニリシアは地中生活の側には入らず、地表で暮らす種に近いと判定されたのです。しかも、両者の脳の形の隔たりは、いま生きているヘビのどの2種を比べたときよりも大きいくらいでした。

論文の共著者で、ヴィクトリア博物館研究所のロイ・エベル氏は、この対比をこう説明しています。これほど詳しく調べられる最古の2種のヘビが、現生のヘビの系統どうしよりも脳の形で離れていた。タメタラは暗い場所で過ごす動物の弱い視覚を持ち、ディニリシアの感覚は開けた環境に合わせて整えられていた——ヘビは歴史のいちばん初めから、感覚を別々の環境に合わせて調整していた、というわけです。

脚を失った過程への影響

系統解析では、タメタラはステムグループのヘビの中でもかなり早い時期に分かれた枝に置かれ、後ろ脚が残っていた白亜紀のヘビ・ナジャシュと姉妹関係になりました。同時にヘビ全体の誕生はジュラ紀中期(1億7000万年前ごろ)、現生ヘビの共通祖先の登場は白亜紀後期の初めごろ、という従来の推定も支持されています。しっかりした脚を持つ化石ヘビはすべてステムの側に並び、後ろ脚の消失は早い段階で一度起きた、と読める結果でした。

ここで大事なのは、ステムのヘビたちの暮らし方が、現生ヘビの祖先の姿をそのまま映しているとは限らないという点です。白亜紀のステムのヘビには、海に出たシモリオフィス類、地中のタメタラ、地表のディニリシアと、少なくとも三通りの暮らし方が並んでいました。骨格の作りは「トカゲからヘビへの途中」に見えるのに、脳の形はすでにばらばらに散っている。研究チームはこれを、ゆるやかな一本道の変化ではなく、素早い生態の試行の跡だと表現しています。

エベル氏は、自分たちは「何がヘビをヘビにしたのか」という100年来の問いに答えを出すつもりだったのに、むしろ問いの立て方そのものを変える必要が出てきた、と書いています。海か土か、という二者択一ではなかった。それが今回の答えでした。

解釈上の留意点

いくつか、押さえておきたい線引きがあります。

まず、この化石に脚は残っていません。前脚については、骨のつながり方と保存状態、CTスキャンの結果から「なかった」と判断されていますが、あばら骨の保存が悪いため完全に言い切れるわけではないと論文自身が書いています。後ろ脚は、それがあるはずの位置(胴の後端付近)が保存されていないので、あったかなかったかを判定できません。脚を失っていく途中の姿を捉えた化石ではなく、初期のヘビにどれだけ幅があったかを示す化石だと考えるのが正確です。

「ヘビの起源が判明した」と言える段階でもありません。三つの仮説のうちどれが正しかったかが決まったのではなく、初期のヘビが一つの暮らし方に収まっていなかった、という点が示された研究です。

暮らし方の判定も、あくまで統計モデルによる推定です。タメタラは地中生活と判定される確率が99.2%と高く出ていますが、モデル全体の的中率は65%で、地中生活の判定がとくに当たりやすい(85.6%)一方、水中生活の判定は苦手(22%)という偏りがあります。エンドキャストも化石の変形を受けているため、比較は脳の前方部分に絞られています。標本は現時点で1点だけで、今後よく残った化石が加わればこの絵は描き替わる余地があります。

なお、この論文は査読を通ったもので、Nature 誌でオープンアクセス公開されているため誰でも全文を読めます。

出典

Simões, T. R. et al. “Exceptional brain and ecological diversity in the earliest snakes.” Nature、2026年7月22日オンライン公開(査読済み・オープンアクセス)。DOI: 10.1038/s41586-026-10809-9

参考:Sci.News(2026年7月23日)Science News(2026年7月22日)Smithsonian Magazine(2026年7月29日)The Conversation(ロイ・エベル氏による解説)

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