AIが超伝導体の探し方を変えた——「カゴメ格子」の新物質を2つ発見

科学・宇宙
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電気を抵抗ゼロで流せる「超伝導体」を、機械学習で一気に探し出す——そんな手法が実際に成果を出しました。ほぼ無限にある材料の組み合わせの中から、AIが有望な候補だけをふるい分け、これまで知られていなかった超伝導体を2つ見つけたという報告です。長年の目標である「室温で使える超伝導体」に一歩近づく話ですが、室温超伝導そのものが実現したわけではありません。速くなったのは、物質そのものではなく「探し方」のほうです。

超伝導と「室温」という長年の目標

超伝導とは、金属などに電気を流したときの抵抗がゼロになる現象です。ふつうの電線は電気を流すと少しずつ熱としてエネルギーを失いますが、超伝導体ではそれが起きません。すでにMRIのような医療画像装置、量子コンピューター、核融合炉、リニアモーターカーなど、いろいろな技術で使われています。

ただし、この性質が出るのは、ごく低い温度に冷やしたときだけです。多くの超伝導体は絶対零度(約-273℃)に近いところまで冷やす必要があり、そのための冷却装置がとにかく高くつく。もしこれが室温のまま使えるようになれば、送電やデータセンターでの電力ロスを大きく減らせるはずで、だからこそ世界中の研究者が「室温超伝導体」を追いかけています。

問題は、その候補がとても見つけにくいことです。元素の組み合わせは事実上いくらでも作れますが、そのうち実際に超伝導になるものはごくわずか。研究チームによると、これまでに見つかった超伝導体は7,000種を超えるものの、その多くは偶然に発見されたもので、理論計算からあらかじめ「これはいけそうだ」と予測できたのは、わずか20種ほどにとどまるといいます。1つの候補を計算で確かめるだけでも膨大な計算量が要るため、しらみつぶしに調べるのが現実的でなかったのです。

見つかった2つの新物質

今回、Aalto(アールト)大学のPäivi Törmä(パイヴィ・テルマ)教授が率いる国際チームが、機械学習を使ってこの絞り込みを高速化し、実際に2つの新しい超伝導体を見つけました。YRu3B2(イットリウム・ルテニウム・ホウ素の化合物)と、LuRu3B2(ルテチウム・ルテニウム・ホウ素の化合物)です。

この2つが超伝導になるカギは、電子の並び方にあります。原子が「カゴメ(籠目)格子」と呼ばれる形に並ぶことで、電子が特殊なふるまいを見せる。籠目とは、竹かごなどに見られる、三角形と六角形が組み合わさった日本の伝統的な編み目模様のことです。物質名の由来にもなっているこの格子構造の中で、電子がほとんど動けずにエネルギーの「平らな帯(フラットバンド)」を作り、それが超伝導につながっていると考えられています。

ここで正直に書いておきたい点があります。この2つの物質が超伝導になるのは、どちらも約1ケルビン(約-272℃)を下回るあたりで、室温にはまったく届いていません。つまり今回の研究がすごいのは、見つかった物質の温度そのものではなく、「有望な候補を高速で見つけ出す道すじ」を示せたところにあります。研究チーム自身も、これを「概念実証(うまくいくことを実際に示した試作)」と位置づけています。

機械学習と量子計算の組み合わせ

手法は大きく2段構えです。まず機械学習で、膨大な元素の組み合わせの中から「超伝導になりそうなもの」をざっと事前選別する。次に、その中で見込みのある候補だけに絞って、量子物理にもとづく詳しい計算をかけ、本当に超伝導になりそうかを見極めます。全部をていねいに計算するのではなく、AIで下ごしらえをしてから本命だけを精査する、という段取りです。

計算だけで終わらせていない点も大事なところです。理論で有望と分かったあと、Rice(ライス)大学のEmilia Morosan(エミリア・モロサン)教授のチームが実際に元素を化合させて試料をつくり、超伝導になることを測定で確かめました。予測して、合成して、実測で裏づける——そこまでやって初めて「見つけた」と言える、という流れです。

探索が速くなることの意味

この手法の価値は、扱える候補の数を桁違いに増やせるところにあります。従来はごく一部しか理論予測できなかったのに対し、テルマ教授は、機械学習を使えば処理できる材料の数を数十億のスケールまで押し上げられるかもしれない、と話しています。候補を広く速くさらえるほど、その中に「室温に近い温度で動く超伝導体」が紛れている可能性も上がる、という考え方です。

このチームが所属するSuperC(スーパーC)というコンソーシアムは、2023年に発足した国際的な共同研究で、2033年までに室温超伝導体を見つけることを目標に掲げています。もしそれが実現すれば、コンピューターやデータセンターの消費電力を大きく減らせる可能性がある、というのがチームの見立てです。今回の成果は、その長期目標に向けた土台づくりの一歩という位置づけになります。

解釈上の留意点

いくつか、受け取り方を間違えないための注意点があります。まず、くり返しになりますが、これは室温超伝導が達成された話ではありません。見つかった2物質はどちらも極低温でしか超伝導にならず、実用の温度からは遠いところにあります。ニュースの見出しだけを見ると「室温超伝導に近づいた」と読めてしまいますが、近づいたのは目標そのものではなく、そこへ至るための探索方法です。

もう一つ、AIが有望と示した候補でも、実際には合成が難しかったり、大きな量に増やせなかったりして使えないものが多い、という壁は残ります。候補を速く挙げられるようになったこと自体は前進ですが、そこから実用材料までの道のりは依然として長い。数十億という数字も「これだけ処理できる可能性がある」という見通しで、すでに達成された実績ではない点に注意してください。なお、この研究は査読を経た論文として『Physical Review Research』に掲載されています。

出典

元論文:Machine-learning-guided discovery of kagome superconductors YRu3B2 and LuRu3B2(Physical Review Research, 2026)

プレスリリース:Researchers identify new superconductors, unlocking process that could yield thousands more(Aalto University)

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