浜辺で拾えるのがアサリで、腕足類でないのはなぜか——史上最大の大量絶滅が残した答え

古生物学
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浜辺で貝殻を拾うと、出てくるのはアサリやハマグリ、サザエやタカラガイ。あたりまえのようですが、これは決してあたりまえではありません。2億5000万年前の海底を埋めつくしていたのは、まったく別の生き物だったからです。

その主役の座がひっくり返った理由を、スタンフォード大学が主導した研究が突き止めました。生死を分けたのは、体のつくりでも殻の硬さでもなく、「代謝」でした。

入れ替わった海の主役

約2億5200万年前、ペルム紀の終わりに、地球史上で最大の大量絶滅が起きました。「大絶滅(The Great Dying)」と呼ばれる出来事で、海の生き物の約96%、陸の動物の約70%が姿を消したとされます。

ただし、被害は生物の系統のあいだで平等ではありませんでした。それまで動物の歴史のおよそ2億8000万年にわたって海底を支配していたのは、腕足類(わんそくるい)とウミユリでした。腕足類は見た目が二枚貝そっくりですが、貝の仲間ではなく、まったく別の門に属する動物です。ウミユリは名前も姿も植物のようですが、ヒトデやウニに近い動物です。この2グループは、大絶滅でほぼ一掃されました。

一方、アサリやサザエを含む軟体動物は、絶滅したのはおよそ半分にとどまりました。生き残った二枚貝・巻貝と、魚類、ヒトデやウニといった棘皮動物(きょくひどうぶつ)が、その後の海を握り、いまも握り続けています。

数字にすると、逆転ぶりがはっきりします。大絶滅より前は腕足類のほうが二枚貝より多かったのに、現在生きている腕足類は約400種。対する二枚貝は1万〜1万5000種と見積もられています。

生死を分けた代謝の差

7月6日付で米国科学アカデミー紀要(PNAS)に載った今回の研究は、「絶滅した側」と「生き延びた側」の両方について、生き物としての反応を測って比べた初めての研究です。そして、両者を分ける違いはひとつに絞り込まれました。暖かく、酸素の少ない水に、代謝が対応できたかどうかです。

代謝というのは、体の中でエネルギーを作り出して生きていくための化学反応ぜんぶをまとめた言い方です。古生代の海を支配していた腕足類・ウミユリ・一部のサンゴやイソギンチャクは、たいてい海底に貼りついたまま動かず、水中の粒を漉して食べる、代謝の遅い生き物でした。

これに対して、大絶滅のあとに栄えた顔ぶれは、もっと活発です。泳ぎ回る魚。ゆっくりでも自分で移動する巻貝やウニ。そしてアサリやカキ、ムール貝といった二枚貝は、筋肉質の「足」を持っていて、砂に潜り、這って動きます。体も厚みがあり、そのぶんエネルギーをたくさん使う。研究チームのエリック・スパーリング准教授(同大地球惑星科学)は、この違いを食卓の話にたとえています。クラムチャウダーはあっても、腕足類のチャウダーがないのは、腕足類にほとんど身がないからだ、と。

意外なことに、実験では古生代型の生き物のほうが、低い酸素濃度には強いという結果が出ました。現代型の生き物なら窒息してしまうような水でも、平気で生きていられるのです。

ところが、水温が上がった瞬間に立場が入れ替わります。水が温まると体内の化学反応が速まり、どの生き物も酸素をより多く必要とするようになります。このとき、古生代型の生き物は必要な酸素量が急激に跳ね上がるのに、遅い代謝ではそれに追いつけない。現代型の生き物は、もともと多くの酸素を使う代わりに、それを送り込むための筋肉とエラを備えていて、需要が増えても対応できる。つまり、酸素が少ないだけなら古生代型は耐えられた。耐えられなかったのは、水温が上がることのほうだった——これが答えでした。

そして当時の海は、まさにその「温かくて酸素の少ない海」になっていました。大規模な火山活動が二酸化炭素とメタンを大量に噴き出し、地球を急激に温めたためです。

生きた腕足類を使った呼吸実験

2億5000万年前に死んだ動物の代謝を、どうやって測るのか。ここが今回の研究の勘どころです。

チームは、いまも生きている「昔ながらの顔ぶれ」を実際に捕まえてきました。腕足類は、米ワシントン州のサンファン諸島などにまだ普通にいます。そこで採集した腕足類と、現代型を代表するウニ・二枚貝などを、現地の臨海実験所とスタンフォードの研究室に持ち込み、密閉した容器に入れて、水温を変えながら酸素をどれだけ消費するかを一種ずつ測っていきました。得られた生理データを、生息域の分布から推定した特性値と合わせて、酸素の需給バランスのモデルに組み込む——という手順です。

この研究には下敷きがあります。2018年にプリンストン大とスタンフォード大のチームが、温暖化と酸素低下が大絶滅の主因だと結論づけた研究です。ただしそのときの生理データは、現代の海の生き物、それも商業的に重要な魚や甲殻類に偏っていました。「実際に絶滅した側」の生理がすっぽり抜けていたのです。今回はそこを埋めにいった、というわけです。

ちなみに、海の酸性化(二酸化炭素が溶けて海水が酸性寄りになり、殻を作りにくくなる現象)も大絶滅の要因としてよく挙げられます。今回の結果では、酸性化も一枚噛んではいたものの、温暖化と酸素低下に比べればずっと小さかった、と見られています。

現在の海への含意

研究チームがこの成果を「現代への警告でもある」と位置づけているのは、大絶滅が始まる前の海の状態が、いまの海とよく似ているからです。比較的冷たく、酸素がよく溶けている海。そこに膨大な二酸化炭素が一気に注ぎ込まれた結果が、あの大絶滅でした。

ただし、規模とスピードは分けて考える必要があります。大絶滅のときの水温上昇は8〜12℃で、数千年をかけて起きました。現在の予測では、2100年までの上昇幅は産業革命前と比べて1.5〜4℃です。上げ幅は当時より小さい一方で、それが100〜200年という短い時間で進む、という違いがあります。スパーリング准教授は「最悪シナリオの予測ではペルム紀・三畳紀級の温暖化の軌道に乗っている」と述べつつ、まだ手を打てる段階にある、とも付け加えています。

もうひとつ、この研究には身も蓋もない含みがあります。海の顔ぶれが一度入れ替わると、元には戻らないということです。恐竜が消えたあとの陸で哺乳類が主役の座を握り、爬虫類に返さなかったのと同じで、腕足類は2億5000万年たっても400種のままです。

日本では、有明海などでミドリシャミセンガイ(現地名メカジャ)という腕足類がわずかに残り、古くから食用にされてきました。ただしこちらも生息数が減り、いまでは気軽に食べられる存在ではなくなっています。かつて海底を埋めつくしていたグループの、これが現在地です。

解釈上の留意点

今回の研究は査読を経てPNASに掲載されたもので、根拠としては堅い部類です。とはいえ、いくつか押さえておきたい点があります。

まず、実験に使ったのは「現在生きている腕足類」であって、2億5000万年前の腕足類そのものではありません。現生の腕足類は、当時よりずっと狭い環境にしか住んでいない生き残りです。体のつくりが似ていれば生理も似ているはずだ、という前提が置かれていることは意識しておく必要があります。

また、スパーリング准教授は今回の結果を「原因論争にとどめを刺すもの」と表現していますが、これは研究者自身の評価です。絶滅の要因は複数が絡み合っていた可能性が高く、酸性化や火山灰、海洋循環の変化などをどう位置づけるかは、なお議論の余地があります。

そして、現在の温暖化との重ね合わせも、慎重に扱うのが妥当です。「同じことが必ず起こる」と読める話ではなく、「同じ方向の変化が海の生き物に何をするかを、過去の実例から推し量れる」という話です。研究者たちも、生き物の脆弱性を測るための手がかりとして、この結果を提示しています。

出典・もっと知りたい人へ

論文(PNAS・査読済み・2026年7月6日公開):Differences in physiological tolerance to global warming caused the Permian–Triassic transition between the Paleozoic and Modern faunas(DOI: 10.1073/pnas.2533086123)

プレスリリース(スタンフォード大学 Doerr School of Sustainability・2026年7月8日):Researchers confirm cause of Earth’s biggest mass extinction

関連ニュース(ScienceDaily):Scientists finally solved the mystery of Earth’s greatest mass extinction

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