廃棄スマホ2,000台でつくる「データセンター」——GoogleとUCSDが挑む低炭素コンピューティング

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捨てられたスマホが、AIの計算需要を支える「サーバー」に生まれ変わる。そんな実験が、Googleとカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の手で動き出そうとしている。引退したPixelを2,000台束ねて小さなデータセンターに仕立て、2026年秋の稼働を目指すという計画だ。AIブームで新しい計算チップに巨額が投じられる一方、まだ使えるプロセッサが大量に廃棄されている——その二つの現実を橋渡ししようという発想である。

捨てられるスマホの中で眠る計算力

人はおよそ4年ごとに端末を買い替える。新しい機能や新モデルへの欲求が主な理由で、壊れたから替えるわけではないことが多い。つまり引退したスマホの多くは、プロセッサもメモリもストレージも生きたまま、引き出しの奥や廃棄物の山に消えていく。

その規模は小さくない。WEEEフォーラムの集計では、2022年だけで50億台を超える携帯電話が廃棄されたとされる。元記事のNew Atlasは、これらの端末に残る計算力を仮に足し合わせるとどれほどになるかを試算している。フラグシップ級のチップが平均3.2ワット程度で動くと仮定して2022年の廃棄台数に当てはめると、理論上はおよそ16ギガワット分の計算能力がゴミになっている計算だという。半分が生きていたとしても8ギガワット。世界最大級とされる新設データセンター構想が目標に掲げる規模が5ギガワット前後であることを思えば、決して無視できない数字だ。あくまで机上の見積もりで、現実はもっと込み入っているという但し書き付きではあるが、その一部でも拾えれば計算のカーボンフットプリントは意味のある形で縮む、というのがこのプロジェクトの出発点になっている。

狙いは「作る前に出る炭素」

コンピューティングの二酸化炭素排出には二つの顔がある。一つは稼働中に電気を使うことで出る運用炭素(operational carbon)。もう一つが、ハードを製造する段階で出てしまう埋め込み炭素(embodied carbon)だ。運用炭素は省エネやクリーン電力である程度対処できるが、製造由来の排出はもっと厄介で、半導体製造は世界でもっともエネルギーを食う工程の一つに数えられる。

この試みが狙うのは、後者の埋め込み炭素である。すでに製造されて「炭素の借金」を返し終えた既存のプロセッサを再び働かせれば、新たに一台分のサーバーを作らずに、一台分の計算力を得られる。新品を一つ減らせるぶん、製造で出るはずだった環境負荷をまるごと避けられるという理屈だ。

スマホをマザーボードだけにする理由

とはいえ、スマホをそのままラックにねじ込んでもサーバーにはならない。ディスプレイ、バッテリー、筐体、カメラといった部品は、計算には不要なうえ場所も取る。バッテリーのようにデータセンター環境に向かない材料を含むものもある。そこで各端末は、計算の核であるマザーボードだけを残すところまで分解される。

この「基板だけ残す」という判断には根拠がある。Googleの内部評価によれば、マザーボードは一台のスマホの埋め込み炭素のおよそ半分を占める。画面やバッテリーを外すぶん一部の炭素は取り戻せずに終わるものの、もっとも効いてくる部分を救い出しているわけだ。

ソフト側にも手が入る。AndroidはもともとLinuxベースだが、そのユーザー空間は消費者向け端末に最適化されていてクラウド用途には向かない。そこで汎用のLinuxディストリビューションに置き換える。これでプログラムしやすい環境になると同時に、個人のスマホには必要でもサーバーには不要な保護機構——メモリを食うアプリを抑え込む仕組みなど——を外せる。残るのは、小さくて効率のいいLinuxサーバーそのものだ。

スマホは本当にサーバーになれるのか

気になるのは性能である。Googleによれば、最新スマホの高性能コアのシングルスレッド性能は、現代のマルチコアサーバーの1コアあたり性能と同等か、それを上回るという。実際、2023年発売のPixel FoldとASUSのサーバー「RS720A-E11」をSPECベンチマークで比べたところ、Pixel側の大コアが多くの項目でサーバーの基準コアを上回った。

もちろん、スマホ一台がサーバー一台に等しいという話ではない。本物のサーバーはコア数もメモリも桁違いに多く、帯域やI/O、連続運用のための設計も段違いだ。スマホ側は少数の性質の異なるコアと8〜12ギガバイト程度のメモリしか持たない。SPECの結果では、25〜50台のスマホでようやく現代サーバー1台に匹敵するとされ、実際に端末は25〜50台単位の自己管理クラスターにまとめられる。要は、この制約に収まる仕事、あるいは多数の小さなノードにきれいに分割できる仕事を狙うのがコツになる。

Pixel 2,000台で何ができるか

UCSDが最初の的にしているのは、教育と研究向けの計算だ。大学では課題の自動採点やJupyterノートブックのホスティングなど、クラウド上で動く軽めの処理が数多くある。その大半は、スマホ一台で十分にまかなえる規模だという。標準的な採点処理も、AWSでいえば「t3.micro」(2 vCPU・メモリ1ギガバイト)のような小さなインスタンスで動く程度のものだ。

Googleの実験では、わずか20台のクラスターで75人を超えるクラスの課題提出ピークをさばけたうえ、採点にかかる時間は既定のAWSバックエンドより短かったという。これを2,000台に広げれば、そうしたクラスを100個同時に支えられる見込みだ。Googleはこの規模を「通常のごく一部のコストで、サーバー約50台に相当する計算力」と表現している。

研究チームの顔ぶれも興味深い。ブログの筆頭には、コンピュータアーキテクチャの大家として知られ、チューリング賞も受けたデイビッド・パターソン氏の名が並ぶ。使い捨てにされる端末を計算資源として捉え直す視点は、性能とコストを突き詰めてきた設計者の発想とも地続きなのだろう。

まだ答えの出ていない部分

もっとも、計画は初期段階にある。最大の未知数は信頼性だ。消費者向けのスマホは、何年も昼夜を問わずフル稼働し続けるようには作られていない。分解した基板を並べて連続で回したとき、どれくらいの割合で壊れていくのか——その答えは誰も持っていない。だからこそこのプロジェクトは、スマホベースの計算を大規模に走らせたときに消費者向けハードがどこまで持つかを見極める実証実験(テストベッド)という位置づけを、はっきりと掲げている。

シリコンの周りにも課題は残る。大量の端末を安全に分解し、バッテリーなど環境に合わない部品を外す手間。そして、その一連の流れを研究のショーケースを超えて成り立たせられるだけの経済性があるのか。こうした地味な摩擦こそが、この発想が本物のインフラになるかどうかを分ける。答え合わせは、この秋の稼働で始まる。

まとめ

新品のチップに1兆ドル規模の投資が向かう裏で、まだ動くプロセッサが山のように捨てられている。GoogleとUCSDの試みは、その落差そのものに手を突っ込む実験だ。2,000台という数は、毎年生まれる膨大な電子廃棄物から見ればごくわずかで、これで問題が解決するわけではない。それでも、「古い」と切り捨てた端末の中にまだ使える計算力が眠っているという事実は、私たちがどれだけの新しいインフラを本当に必要としているのかを問い直させる。引き出しの奥で眠っているあなたの前の携帯は、もしかすると誰かの授業を支える一台になれるのかもしれない。

参考:Google Research「A low-carbon computing platform from your retired phones」New Atlas「Google gets creative with AI recycling」

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