家庭用の血圧計に表示される「130 / 85」のような2つの数字。あの上下の値、じつは機械が両方とも直接測っているとは限りません。数千円で買える電子血圧計の多くは、片方の圧力しか実測しておらず、上下の数字は「たぶんこのくらい」と推定した結果を表示している——。Hackaday Europe 2026 でのミロシュ・ラシッチ(Milos Rasic)さんの講演は、そんな血圧計の中身をかみくだいて見せてくれる内容でした。
上と下、2つの数字が意味するもの
血圧は、心臓の動きに合わせて絶えず変化しています。心臓の筋肉がぎゅっと縮んで血液を押し出す瞬間がいちばん圧力が高く、これが上の数字、収縮期血圧(しゅうしゅくきけつあつ)です。反対に、心臓がゆるんで次に備えている間がいちばん低く、これが下の数字、拡張期血圧(かくちょうきけつあつ)にあたります。だから血圧は「140 / 90」のように2つの数字で表します。
目安として、標準的な値はおよそ120 / 80 mmHg。上が130・下が80を超えると高血圧、逆に90 / 60を下回ると低血圧とされます。
昔ながらの測り方
ラシッチさんがまず強調するのは、昔ながらの手押しポンプ式のカフ(腕帯)と聴診器を使う方法が、いまでも十分に正確だということ。腕を締めつけたカフの空気を少しずつ抜きながら、医師が血管の拍動が聞こえ始める点と消える点を耳で拾い、そのときのカフの圧力を目盛りで読み取ります。これはコロトコフ法(聴診法)と呼ばれ、訓練を受けた人がやれば信頼できる測り方です。
問題は、家庭やクリニックで広く使われている電子式の腕カフ型のほうに潜んでいます。
安い電子血圧計の「オシロメトリック法」
おおよそ30〜50ドル(数千円)で売られている電子血圧計の多くは、オシロメトリック法という方式を使っています。脈に合わせてカフの中に生じる、ごく小さな圧力の揺れを読み取る方式です。
手順はこうです。まずカフを、ふつうの収縮期血圧よりずっと高い圧力までふくらませ、そこから少しずつ空気を抜いていく。カフの圧力が収縮期血圧より下・拡張期血圧より上にある間は、心臓の拍動に合わせてカフ内の圧力が細かく揺れます。この揺れの大きさ(振幅)は、平均血圧(へいきんけつあつ)——脈による圧力の変動をならした値——にあたるところで最大になります。
測るのではなく「推定」する仕組み
ここが今回いちばんの肝です。オシロメトリック法が「揺れが最大になる山の頂点」として実際につかまえているのは、この平均血圧のところ。私たちが気にしている上の値(収縮期)と下の値(拡張期)そのものを、直接測っているわけではありません。
ではどうやって上下の数字を出しているのか。ラシッチさんによると、多くの機種は揺れの大きさの山(オシレーションの包絡線)に対して、たとえば振幅が最大の40%・80%になる地点をそれぞれ拾い、そこを収縮期・拡張期の値としているそうです。つまり、実測した1点(平均血圧)を手がかりに、残り2つの数字は割合を当てはめて推定している。しかも、この換算に使うアルゴリズム(計算のルール)を公開しているメーカーはほとんどなく、機種ごとに中身がどうなっているかは外からは分かりません。
この方法は、直接測っているわけではない以上、あくまで「よくできた近似」だということになります。

電子血圧計の精度の目安
では、その近似はどのくらい当たるのか。ラシッチさんが挙げた一例では、「カテゴリーA」とされる血圧計でも、測定の85%が誤差±15 mmHg以内に収まっていればよい、という水準だといいます。上が15違えば、130なのか145なのかで受ける印象はだいぶ変わります。裏を返せば、1回きりの測定値をそのまま鵜呑みにしすぎないほうがいい、ということでもあります。
スマートウォッチの血圧表示
ちなみに、腕時計型デバイスが表示する「血圧」については、記事のコメント欄でさらに手厳しい指摘が飛び交っていました。安価なスマートウォッチのなかには、脈すらまともに検出していないのに、それっぽい数字を出しているだけのものがある——机の上に置いても平気で「血圧」を表示してしまう、というわけです。ここは講演そのものというより読者からの指摘ですが、腕カフ型の血圧計以上に、腕時計の血圧表示は参考程度に受け止めておくのが無難でしょう。
仕組みを検証する自作の測定器
ラシッチさんは、こうした測り方の精度をきちんと調べるために、Open Cardiography Signal Measuring Device という測定器を自作しています。カフの圧力を測れるのはもちろん、指などにつけて光で脈を読む光電容積脈波(PPG=血中の酸素飽和度も分かる方式)、心電図、電子聴診器の信号も取り込める、いわば「血圧測定の実験台」です。設計はGitHubで公開されていて、誰でも中身を見られます。
これを使って、市販の血圧計が実際どれだけ正確かを検証したり、メーカーが使っているのとは別のアルゴリズムを試したりしている、とのこと。脈のリズムが安定しない人では正確に測るのが難しい、といった課題にも触れています。
測定を左右する条件
最後に、機械の精度とは別に、測り方そのもので数字が動く点も見逃せません。ラシッチさんは、測る前に5分ほど静かに座って落ち着くことの大切さを挙げています。カフェインや直前の運動、ちょっとした緊張——たとえば階段を上っただけでも——血圧はその場で大きく変わるからです。同じ条件で測らなければ、前回との比較そのものに意味がなくなってしまいます。
つまり、家庭用の電子血圧計は「だいたいの傾向をつかむ道具」として付き合うのがちょうどよさそうです。1回きりの数字に一喜一憂するより、同じ時間帯・同じ姿勢で何度か測って傾向を見る。そして数字が気になるときは、自己判断せず医療機関で測ってもらう。仕組みを知っておくと、そのくらいの距離感で機械と付き合えるようになります。
出典
元記事:Hackaday Europe 2026: Is Your Blood Pressure Monitor Lying To You?(Hackaday)


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