レーザーといえば、金属を溶かして切ったり、彫刻したりと「熱で加工する道具」のイメージが強い。ところが条件をうまく整えると、レーザーは逆に、ものを冷やせる。この意外な性質を、コンピューターのチップ冷却に持ち込もうという研究が進んでいる。
取り組んでいるのは、米国のサンディア国立研究所と、ミネソタ州のスタートアップ Maxwell Labs、それにニューメキシコ大学の3者だ。チップ上の「ホットスポット」——特に温度が上がる小さな一点——だけをレーザーで狙って冷やす技術を試している。ねらいは、電力を大量に消費するデータセンターの冷却を、もっと省エネにすることだ。

データセンターの電力を食う冷却
データセンターは、メールやウェブ検索、AIの学習といった処理を、何千台ものサーバーでこなしている。機械が動けば必ず熱が出るので、サーバーを冷やし続ける大がかりな冷却設備が欠かせない。
この冷却に、施設が使う電力の3〜4割が消えているという。プロジェクトを率いるサンディアの物理学者ラクティム・サルマ氏によれば、地域によっては冷却に使う水の量が地元の水資源を圧迫することもある。電気代も水も、データセンターをめぐる大きな悩みになっている。冷却をもっと効率よくできれば、そこに効く、というのがこの研究の出発点だ。
熱するはずのレーザーで冷やす理屈
なぜ、熱するはずのレーザーで冷やせるのか。ざっくり言うと、特定の波長(光の色)の光を、ごく小さくて純度の高い材料にぴったり合わせて当てると、材料から出ていく光が、入ってきた光より少しだけ強いエネルギーを持って飛び出すことがある。その「上乗せ分」は、材料の中の熱——原子の細かな振動——から持ち出される。熱を光にのせて外へ運び出すわけで、結果として材料は冷える。量子コンピューターで、レーザーを使って原子を極低温に保つのも、これと同じ性質を利用したものだ。
ただしサルマ氏は、この方法で家一軒や大きな塊を丸ごと冷やすことはできない、と釘を刺す。効くのは小さな一点だけだ。「冷やす必要があるのは、せいぜい数百マイクロメートル——ほこりの粒くらいの大きさ——の範囲だ」と言う。裏を返せば、チップのように狭い場所だけが熱くなる相手には、この「狙い撃ち」がうまくはまる。
ホットスポットを狙い撃つ光の冷却プレート
いまのチップ冷却では、銅のプレートに刻んだ細い流路に冷たい水を流し、熱を吸わせるやり方が広く使われている。Maxwell Labs が目指すのは、これを光でやる「フォトニック冷却プレート」だ。プレートには、ウイルスほどの大きさ——髪の毛の太さのおよそ1000分の1——の微細な構造を刻み、冷却用のレーザー光をチップのホットスポットへ導く。水冷を丸ごと置き換えることも、組み合わせて補うこともできる設計だという。
さらにおもしろいのは、チップから抜き取った熱が「光」の形で取り出される点だ。この光は電気に戻して回収できる、と Maxwell Labs は説明する。ただ熱を捨てるのではなく、一部をエネルギーとして再利用する道が開ける、というわけだ。同社のジェイコブ・バルマCEOは、自社のモデル計算では水冷よりチップを低温に保てる見込みで、従来の冷却では成り立たなかった省エネの仕組みにつながる、としている。
鍵を握る高純度のガリウムヒ素
この冷却プレートの大部分を占めるのが、ガリウムヒ素(がりうむひそ)という半導体だ。シリコンの仲間で、Maxwell Labs の設計の中心になっている。
ここで難しいのが「純度」だ。材料に不純物が混じっていると、レーザー光がその不純物を温めてしまい、せっかくの冷却効果が消えてしまう。だから、ガリウムヒ素をきわめて純粋な、薄い結晶の層として作る必要がある。この高純度の半導体づくりを担うのがサンディアだ。同研究所は核兵器用のチップを長年つくってきた半導体づくりの本職で、分子線エピタキシーと呼ばれる方法を使い、原子1層より細かい精度で厚みを制御しながら、超高真空の中で結晶を積み上げていく。役割分担は、Maxwell Labs が設計を描き、サンディアが素子を作り、ニューメキシコ大学がその冷却性能を評価する、という形になっている。
省エネ・節水と性能向上の両立
うまくいけば、得られるものは冷却の省エネや節水だけではない。熱の逃がし方に余裕ができれば、チップをこれまでより高い性能で動かしても熱で音を上げにくくなる。つまり、消費電力を抑えつつ、同時に性能も引き上げられる可能性がある。
この「性能」の話には、少し込み入った背景がある。いまの高性能チップには数百億個ものトランジスタ(電気のスイッチ)が詰め込まれているが、じつは全部を一度に動かすことはできない。全部動かすと、狭い場所に熱が集中して手に負えなくなるからだ。使いたくても、熱のせいで眠らせておくしかない部分がある。これは「ダークシリコン」と呼ばれている。ホットスポットが生まれる先から冷やせれば、この眠っている部分をもっと使えるようになる、という期待もある。Maxwell Labs 自身の試算では、第一世代の装置でも、空冷と水冷を合わせたものの2倍の熱を逃がせる見込みだという。
現段階での位置づけ
ここまで景気のいい話が続いたが、いまはまだ「研究開発の途中」であることは押さえておきたい。このニュースの中身は、3者が正式に共同研究の契約(CRADAと呼ばれる産学官の連携枠組み)を結び、これから実際に素子を作って試していく、という段階のものだ。性能の裏づけは主にモデル計算やシミュレーションで、「モデル通りにいけば」という前提がついてまわる。上で触れた2倍という数字も、実機で測って確かめたものではない。
サルマ氏らは、光を使ってコンピューターを冷やそうという試みはこれがおそらく初めてだ、としている。裏を返せば前例のない挑戦で、これから実機で確かめるべきことが多く残っている、ということでもある。省エネの切り札になりうる有望なアイデアだが、実用化までにはまだ距離がある——それくらいの受け止めが、いまはちょうどよさそうだ。
出典・もっと知りたい人へ
発表元(サンディア国立研究所)のプレスリリース:A surprise contender for cooling computers: lasers(Sandia National Laboratories)
技術のより詳しい解説(Maxwell Labs の研究者による寄稿・英語):Laser Precision: Cooling Chips With Photonics(IEEE Spectrum)
今回のきっかけになった紹介記事(英語):New Atlas「Laser cooling breakthrough could make data centers way greener」


コメント