映画やCMでよく見る、なめらかに動く移動ショット。いまはその多くを空撮ドローンが担っている。ただ、カメラを地面すれすれの高さに置きたいとなると、ドローンは急に苦手になる。GPSで測る高度は精度が荒く、低い位置では周りの障害物をよけるのも難しいからだ。そこを地上から埋めにいったのが、Dane Kouttronさん(ハンドルネーム Transistor Man)が作った「チェイスカメラ・ローバー」だ。1/5スケールの大きなRCカーの車台に三軸ジンバルを載せ、遠隔操作でカメラを走らせる一台である。

ドローンが届かない低い視点
狙いは、地面すれすれの高さから被写体を追いかける映像だ。凍った湖を疾走する自作カートを真横から流し撮りしたり、走行中のサスペンションがどう沈むかを間近で観察したり——こうした「低くて速い」画は、空を飛ぶドローンだと撮りにくい。地上を走るローバーなら、その低さがそのまま強みになる。
製作の過程は、うまくいった部分だけでなく、失敗もそのまま記録されている。妙な車台を拾ってくるところから、電波が繋がらずに苦しむところ、走行テストで部品が折れるところまで、順を追って公開されているのが読みどころになっている。
中古の寄せ集めで組んだ車体
この一台の面白さは、主要な部品がほとんど中古の型落ち品でそろっている点にある。土台になった車台は、マサチューセッツにある放出品店で見つけた、用途のわからない大きなRCシャシー。上部に妙な直動アクチュエータが付いていたが、これは外して使っている。値段は税別で50ドルほどだったという。
カメラを揺れから守るジンバルには、Freefly社の初代フルサイズ機「Movi M10」を中古で約124ドルで入手している。設計したのはこの分野で知られるShane Colton氏で、発売からおよそ10年経ったいまも作り続けられていること自体が、完成度の高さの裏づけだと本人は書いている。
映像を離れた場所へ飛ばす無線リンクも、2015年発売のAmimon「CONNEX」という機材を中古で使っている。もともとはドローン向けの製品で、通信距離は1km、5.8GHz帯、遅延は1ミリ秒未満とうたわれる。送受信のペアが100ドル前後で手に入った。この手の型落ち品が効く背景には、いまの相場もある。アメリカではFCCがDJI製の多くの機材を規制対象に加えたことで、現行世代の送信機が単体で1100ドル前後まで高騰している。だからこそ、10年ほど前の放出品を掘り出す価値が出てくるわけだ。

「なくしても惜しくない」カメラ選び
載せるカメラにも、この用途ならではの割り切りがある。木に突っ込んだり水をかぶったりで、いつ壊れてもおかしくない。だから「失っても痛くない価格帯」であることが、性能と並ぶ大事な条件になる。最初に使われたのはパナソニックのGH4で、いまや発売から10年以上が経つ古参機だ。あえてこの機種を選んだ理由の一つが、ボディ内手ブレ補正(IBIS)を積んでいないこと。カメラ側の手ブレ補正とジンバルの補正が互いに打ち消し合い、かえって映像が揺れてしまうことがあるためだ。
のちに、同じくパナソニックのGH5s(型名の「s」は手ブレ補正を積まないことを指す)へ、中古で約400ドルで乗り換えている。4K60fpsで撮れ、色の情報量が増え、フルサイズのHDMI端子を備える。どちらもマイクロフォーサーズ機で、決してハイエンドではないが、中古の手頃な値段でここまで撮れる、という選択になっている。
強度より、しなり —— TPUという答え
この製作記でとくに実用的なのが、3Dプリント部品の素材選びをめぐる試行錯誤だ。最初はどの部品も硬いPLAで作っていた。ところが最初の走行テストで、バッテリーを固定するマウント(壁を6重にして充填率75%で刷ったPLA部品)が、衝撃であっさり破断してしまう。
作り直したのは、柔らかいTPUフィラメントを厚壁で刷った部品に、アルミの板を組み合わせたものだった。TPUが衝撃を吸収し、金属板が力を逃がす。タイヤ周りの泥よけ(フェンダー)も同じで、最初に試した柔らかめの85A硬度のTPUは印刷が安定せず、少し硬い95Aに切り替えている。フェンダー1枚を刷るのにPrusa MK4で1日半ほどかかったという。
ここから得られた学びははっきりしている。激しく揺さぶられるものを3Dプリントするとき、ひたすら硬く丈夫に作るのが正解とは限らない。しなって衝撃を受け流す素材のほうが持ちこたえることがある。結果として、最初からTPUで作っていなかった部品も、その多くがTPUで作り直された。
氷上レースと縁石ジャンプ
テストの舞台に選ばれたのは、凍った湖だ。奇妙に思えるが理由がある。実験的な乗り物を作っても、公道で走らせれば罰金の対象になりかねず、限界を試すだけの広さもない。サーキットは料金が高く、行くのにも時間がかかる。その点、凍結した湖にはルールらしいルールも障害物もほとんどなく、思い切り速度を出せる。
本番では、DeWaltの電動工具用バッテリー2本で30分近く走り回れたという。硬いカートが凸凹の氷上を跳ねながら走っても、ローバー側が撮った映像はなめらかに仕上がっていた。
耐久性を確かめる乱暴なテストもある。時速18マイル(約29km/h)で高さ5cmほどの縁石に突っ込ませ、車体を一回転させてみた。それでも本体もジンバルもカメラもすべて無傷で、5分ほどバランスを取り直しただけで走行を再開できたという。派手に転がった一部始終は、別のハイエンド機(Freefly Ember 5K)で第三者視点から撮影されている。
型落ち機材で一級の映像が撮れる時代
Hackadayはこの製作記から二つの学びを挙げている。一つは、いま述べたTPUの話——激しく動くものには、しなる素材が味方になるということ。もう一つは、機材の進歩が一段落した(頭打ちになった)おかげで、掘り出しさえすれば、10年落ちの放出品を寄せ集めても最高峰クラスの映像機材が組める、ということだ。これは趣味の作り手や小規模なスタジオにとって、素直に嬉しい変化だといえる。
もっとも、製作者本人は正直な限界も書き残している。操縦と構図の調整、被写体を画面に収め続ける作業を一人でこなすのはかなり難しく、実際には二人がかりの活動だと結論づけている。カメラが進行方向を向いていないと前方が見えず障害物をよけにくいこと、遠隔ズームは撮影のセッティング時にこそ役立つこと、自動追尾は今後の課題であること——できることと、これからの宿題が、はっきり切り分けられている。
裏を返せば、掘り出し物のソフト・ハードと3Dプリンターがあれば、個人でもここまで挑戦できる時代になった、ということでもある。派手な新品をそろえなくても、工夫と手数で映像は撮れる。そんな地に足のついた説得力が、この一台にはある。
出典
Dane Kouttron(Transistor Man)「Camera Chase Vehicle」(製作者本人による製作記)/Hackaday「Overpowered RC Car + Gimbal Cam = The Greatest Chase Vehicle We’ve Ever Seen」(2026年7月9日)


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