ゴムひもの逆をいく構造——引っ張るほど内側へ縮む「逆向きスナップ」

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ゴムひもを引っ張れば伸びる——これは考えるまでもない当たり前です。ところが、引っ張ると逆に内側へ縮み込む構造を、オランダの研究チームが作りました。しかも、力をゆるめたから縮むのではありません。引く力を強めていく途中で、ある瞬間にパチンと短くなる。「カウンタースナッピング(counter-snapping)」と名づけられたこの動きは、実験で確かめられたのは今回が初めてだといいます。

ゴムひもの常識に反する動き

モノを引っ張れば、引っ張った向きに伸びる。バネもゴムも、加えた力に素直に従って形を変えます。力を強めればさらに伸び、ゆるめれば戻る——私たちがふだん目にする材料は、ほぼ例外なくこの通りに動きます。

今回オランダのAMOLF(アモルフ)とARCNLの研究チームが作ったのは、この常識にまっこうから逆らう構造です。両端を引っ張って力を上げていくと、ある地点で突然、内側へキュッと縮む。縮んだあとの長さは、引っ張り始める前よりむしろ短くなっています。引く手をゆるめたわけでもないのに縮む、という点がこれまでの材料と決定的に違います。

研究チームを率いるバス・オーフェルデ氏は、機械的なシステムをこんなふうに——一見あべこべに見える動きをするように——設計できることを示した、と説明しています。この動きが実験で観測されたのは初めてだ、というのが研究チームの主張です。

「スナップ」を逆向きにした仕組み

手がかりになるのが「スナップ」という現象です。パチンと留まるスナップボタン、押すと勢いよく形が変わるおもちゃ、パッと開く折りたたみ式のテント——これらはどれも、ある力を境に一気に別の形へ飛び移る仕掛けを持っています。専門的には「飛び移り座屈」と呼ばれ、閾値(しきいち=切り替わりの境目)を越えると、それまでの形が急に別の安定した形へ切り替わります。

ふつうのスナップでは、この飛び移りは力を加えた向きに起きます。押されれば押された側へ、引かれれば引かれた側へ形が動く。カウンタースナッピングは、この飛び移りをあえて逆向きに設計したものです。引っ張る力が閾値を越えた瞬間、構造は伸びる代わりに縮む状態へ飛び移ります。

どうやってこんな動きを作ったのか。研究チームは、複雑な挙動をひとつの部品で一気に実現しようとするのではなく、単純な部品をいくつか用意し、それぞれの「力と伸びの関係」を計算したうえで特定の組み合わせにつなぎ合わせる、という進め方を取りました。部品は3Dプリンターで作られています。一つひとつは素直な動きしかしない部品でも、うまく組み合わせると、力を強めるほど縮むという全体の振る舞いが生まれる——第一著者のポール・デュカルム氏は、機械の新しい「部品(ビルディングブロック)」を見つけたようなものだ、と表現しています。

研究チームが見せたわかりやすいデモに、カップ持ち上げの実験があります。構造の先にカップを吊るし、そこに少しずつ重りを足していく。重さが増すほど張力(引っ張る力)は強まっていきますが、あるところで構造が縮み、カップがふいに持ち上がる——力を足しているのに位置が上がる、という逆転が目に見える形で起きます。

想定される応用先

研究チームは、この縮む構造からいくつかの一風変わった性質が引き出せることを示し、応用の候補を挙げています。

ひとつは、モーターや電子部品を使わずに一方向へだけ進む動きです。ふつうのバネのように行きつ戻りつするのではなく、同じ向きへ少しずつ進む動きが作れるため、体内を進む医療用のやわらかいロボットのように、後ろへすべり戻らずに前へ進みたい場面に向くかもしれない、としています。

もうひとつは、硬さをその場で切り替えられる性質です。ふだんは動きやすくやわらかいのに、必要な瞬間だけ硬くこわばって体を支える——身につける外骨格(パワードスーツ)や義肢のように、動くときは柔軟で、支えや安全のためには即座に硬くなってほしい用途が想定されています。しかもこの切り替えは、いまの長さや掛かっている荷重を変えずに行える点が特徴だといいます。

三つめは、余分な揺れをひとりでに抑える性質です。飛行機や風力発電の風車、地震の多い地域の建物のように、揺れが増幅して手に負えなくなるのを防ぎたいシステムで、外から制御しなくても揺れを吸収する部材として使える可能性がある、という位置づけです。

さらに、この構造を単体で使うだけでなく複数を組み合わせると、直列につないだ部品が雪崩のように一斉に切り替わる、といった集団的な振る舞いも見られました。共同研究者のマルティン・ファン・ヘッケ氏は、これはコンピューターのように振る舞うメタマテリアル(人工的に設計した特殊な材料)への入口になりうる、と述べています。

現時点での位置づけ

ここで挙げた応用は、いずれも「こう使えるかもしれない」という段階の話です。研究として示されたのは、カウンタースナッピングという動きを設計・実証できたこと、そしてそこから複数の変わった性質が引き出せることまでで、医療ロボットや建物といった具体的な製品ができあがったわけではありません。実際の機器に組み込むには、材料や耐久性、大きさや作りやすさなど、これから詰めるべきことが多く残っています。

とはいえ、飛び移り座屈という昔から知られた現象を逆向きに設計し直すだけで、これまでになかった動きが引き出せると分かったこと自体が、新しい部品箱を手に入れたようなものだ、というのが研究チームの見立てです。折りたたみ式のテントや宇宙で展開する構造物のように、ふつうのスナップがすでにあちこちで使われているのと同じく、その逆向きの動きにも使い道が広がっていくのか——今後の展開が気になる成果です。

出典

元論文:Paul Ducarme, Bart Weber, Martin van Hecke, Johannes T.B. Overvelde, “Exotic mechanical properties enabled by countersnapping instabilities,” Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), April 14, 2025. https://doi.org/10.1073/pnas.2423301122

研究機関プレスリリース(AMOLF):These structures shrink when pulled

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