影の真ん中に光る点――200年前の実験が生む「光のスキルミオン」

物理
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丸い板に光を当てると、うしろに影ができます。ところがその影のちょうど中心に、なぜか明るい点がぽつんと現れる。「ポアソンの輝点(きてん)」と呼ばれる現象で、光が波であることを決定づけた、物理の教科書の定番です。

シンガポールの南洋理工大学(NTU)を中心とするチームが、この200年前からある現象を使って、「光のスキルミオン」という最先端の光の構造を作り出しました。使ったのは、レーザーと小さな円板(えんばん)だけ。これまで必要とされてきた特殊な人工材料は要りません。

影の中心が光る現象

まずポアソンの輝点そのものから。19世紀の初め、光は粒なのか波なのかで物理学者が割れていました。粒なら光はまっすぐ進むだけなので、丸い板のうしろは一様に暗いはずです。ところが波だとすると、光は板の縁を回り込んで広がる——回折(かいせつ)と呼ばれるふるまいをします。

ここが面白いところで、円板の縁はどこも中心軸から等しい距離にあります。だから縁のあらゆる場所を回り込んだ波が、影の中心にぴったり同じタイミングで到着し、互いに強め合ってしまう。結果として、いちばん暗いはずの場所に明るい点ができる、という予測が導かれます。

あまりに直感に反するので、当時は波動説を否定する材料として持ち出されました。ところが実際に実験してみると、輝点は本当にそこにあった。こうしてポアソンの輝点は、光が波として広がることを示す証拠として教科書に載ることになります。

光のスキルミオンという構造

いっぽうのスキルミオンは、素粒子・原子核の理論から出てきた考え方で、その後、磁性体の研究でよく知られるようになりました。ひとことで言えば「向きの模様」です。

光にも「向き」を持つ性質がいくつもあります。電場や磁場のベクトル、偏光(へんこう。光の波が振動する方向)、スピン(回転のようなふるまい)など。これらの向きが場所ごとに少しずつ変わり、中心では真上、外へ行くほど倒れていって、いちばん外側では真下を向く——そんなふうに一周ぶんきれいに「巻いた」模様ができることがあります。これが光のスキルミオンです。矢印を並べて描くと、ハリネズミの背中の針が中心から外へ寝ていくような絵になります。

この模様がありがたいのは、多少ゆがめたり引き伸ばしたりしても、巻きの回数そのものは変わらないという性質を持っている点です。丈夫な模様なので、情報を載せる器として使えるのではないか、と期待されてきました。磁性体のスキルミオンが次世代メモリの候補として注目されてきたのと同じ発想を、光でやろうという話です。

ただし、これまで光のスキルミオンを作るには、メタマテリアルと呼ばれる人工の微細構造や、専用の光学系が必要でした。設計も製作も手間がかかり、気軽に試せるものではありませんでした。

円板ひとつで生まれる巻き模様

今回のチームがやったのは、レーザー光を小さな円板に当て、その影の中に生まれたポアソンの輝点の中身を、丁寧に調べることでした。

すると、輝点のまわりで光の各種のベクトルが、まさにスキルミオンの巻き模様を描いていた。しかも一種類ではありません。スピンのスキルミオン、偏光の状態(ストークスパラメータ)のスキルミオン、電場のスキルミオン、磁場のスキルミオン——最大で四種類のトポロジカルな模様が、たったひとつの輝点の中に同時に現れていたのです。つまり、教科書に載っている古い実験を組めば、そのまま光のスキルミオンが手に入る、というわけです。

研究を率いたNTUのシェン・イージエ(Shen Yijie)助教は、高価で複雑な人工材料や特殊な技術に頼らず、光が物体を回り込むという素朴な効果だけで光のスキルミオンが作れる点が特筆すべきところだ、と述べています。作るハードルが下がれば、研究者がスキルミオンを扱いやすくなり、性質を調べる人も増えます。

四つが同居することの意味

「四種類が同時に出る」のは、単に数が多くて得、という話ではありません。

光の電場・磁場・スピン・偏光は、たがいに深く結びついています。ところが今回の輝点の中では、これらが必ずしも同じ模様を描いていませんでした。同じ光なのに、見る性質を変えると巻き方が違って見える。シェン助教は、ひとつの系の中で複数のスキルミオンを作って見比べられることが、光の各種の性質どうしの新しいつながりを見つける手がかりになる、と話しています。

これまでは一種類ずつ別々に作って調べるのが普通でした。それが同じ場所で同時に観察できるようになると、どうやって生まれ、どう変化し、どう影響し合うのかを、条件をそろえたまま比較できます。

情報処理への応用と現在地

スキルミオンが注目されているのは、模様がしぶといからです。多少の乱れでは壊れない情報の載せ方ができれば、記録や通信、計算に使える可能性がある——そういう文脈で、データストレージや光を使った情報処理の候補として名前が挙がってきました。今回の成果も、そうした先を見据えた基礎研究にあたります。

とはいえ、ここは冷静に見ておきたいところです。今回わかったのは「作りやすい方法が見つかった」ことであって、これでコンピュータができるわけではありません。研究チーム自身も、トポロジカルな光のさらなる研究の土台になり、フォトニクスや材料、情報処理・計算への応用を将来的に支えうる、という言い方にとどめています。実際の装置に組み込むには、模様を自在に書き換える、読み出す、集積する、といった段階がこの先に何段も待っています。

解釈上の留意点

いくつか補足しておきます。

この研究は査読を経て学術誌Opticaに掲載されたもので、プレプリント(査読前の原稿)ではありません。ただし、四種類のベクトル模様のうち電場・磁場そのものの向きは、光の場を直接カメラで写せるものではなく、シミュレーションや解析を通して示されている部分があります。プレスリリースでも、模様は計算結果の矢印図として提示されています。「輝点の中に四つの渦が見えた」というより、「輝点の光の場を調べたら、四種類の巻き模様が成立していた」と受け取るほうが正確です。

また、ポアソンの輝点そのものは新発見ではありません。新しいのは、その中にスキルミオンの構造が備わっていると見抜き、生成手段として使えると示したところです。「200年前の実験が未来のコンピュータを作る」という見出しは、話としては痛快ですが、実際には研究の入口が広がった段階だと考えておくのがよさそうです。

出典

論文:Jun Yao, Xi Xie, Yuan Meng, Sheng Sun, Jun Hu, Yijie Shen, Yuanjie Yang「Optical skyrmions in Poisson spots」Optica, Vol. 13, Issue 6, p.1184(2026年6月18日公開)
DOI:10.1364/OPTICA.591840

プレスリリース:Creating complex light patterns using a two-century-old light phenomenon(NTU Singapore, 2026年6月23日)

関連記事:A 200-year-old physics experiment could help build future computers(ScienceDaily)

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