約49光年先の岩石惑星に「大気」の兆候——ハビタブルゾーンでは初めて

科学・宇宙
スポンサーリンク

太陽系の外にある岩石の惑星で、大気があるらしい——そんな兆候が初めて捉えられました。舞台は地球から約49光年先にある LHS 1140 b(エルエイチエス1140b)。この惑星は、星からの距離がちょうどよく、条件しだいで液体の水が保てる「ハビタブルゾーン」にあります。岩石でできていて、なおかつハビタブルゾーンにある惑星で大気の手がかりが見つかったのは、これが初めてだと研究チームは説明しています。成果は科学誌 Science に発表されました(査読を経て公開された論文です)。

決め手になったのは、惑星の上空から宇宙へ逃げ出しているヘリウムでした。

まず、この惑星がどんな星なのかを簡単に。LHS 1140 b は岩石でできた惑星で、大きさは地球の約1.7倍、重さは約5.6倍あります。いわゆる「スーパーアース(地球よりひとまわり大きい岩石惑星)」です。25日ほどで星のまわりを1周し、受け取る光は地球の4割ほど。ハビタブルゾーンにあるといっても暖かいわけではなく、大気による保温がなければ、表面は氷点下数十度になる計算です。それでも、厚い大気があれば表面に液体の水を保てる可能性がある——そんな位置にいる惑星です。

赤色矮星のそばで大気を保つという難題

LHS 1140 b が回っているのは、赤色矮星(せきしょくわいせい=小さくて暗い赤い星)と呼ばれるタイプの星です。太陽よりずっと小さくて温度も低く、宇宙でいちばんありふれた星でもあります。生命探しでよく候補に挙がるのも、こうした赤い星のまわりの惑星です。星が小さいぶん、そばを回る地球サイズの惑星の様子を見分けやすい、という観測上の利点があるからです。

ところが、赤色矮星には厄介な一面があります。とくに若いころ、X線や紫外線といった強い放射をたびたび浴びせるのです。そばを回る惑星の大気は、この放射で少しずつ——ときには一気に——宇宙へ剥ぎ取られてしまいます。そのため「赤色矮星のまわりの岩石惑星は、そもそも大気を残せていないのではないか」と長く心配されてきました。実際、これまで調べられた似たような惑星の多くは、大気の手がかりがはっきりしませんでした。

LHS 1140 という星は、年齢がおよそ30億歳で、いまは比較的おとなしい状態にあります。もしこの惑星がその長い時間ずっと大気を抱えてきたのだとしたら、赤色矮星の惑星でも大気を保てる場合がある、という実例になります。研究チームは、確認されれば大気の年齢は最大で約30億年——星が生まれてからずっと、という規模になりうるとしています。

手がかりは逃げていくヘリウム

研究チームがつかまえたのは、惑星の上空から逃げ出しているヘリウムが残した光の跡でした。星の強い放射で上層の大気が熱せられると、軽い気体は宇宙へ流れ出していきます。その流れ出したヘリウムが、背後にある星の光の一部を吸収する——その吸収のあとを望遠鏡でとらえた、というわけです。

ここから研究チームは、この惑星の大気が層になっていると考えています。いちばん外側はヘリウムが多く、水素はほとんどない。そして水などの物質は、もっと下の、地表に近いところに閉じ込められている、という見立てです。逃げやすい軽い気体が上へ抜け、重い成分は下に残る、という具合に、成分ごとに分かれているらしいのです。

ちなみに、同じ星を回るもうひとつの惑星 LHS 1140 c では、こうしたヘリウムの兆候は見つかりませんでした。c のほうが小さく、星からの放射も強く受けています。同じ星系の似た惑星でも、大気を保てるものと保てないものに分かれる——研究者が「宇宙の渚(なぎさ)」と呼ぶその境目の、ちょうど両側に b と c がいるのかもしれません。

観測の方法と大気の時間変動

観測に使われたのは、南米チリのラス・カンパナス天文台にある口径6.5メートルのマゼラン望遠鏡と、そこに新しく取り付けられた高分解能の分光器です。惑星が星の前を横切る「トランジット」のタイミングを狙い、星の光がどの波長で弱まるかを細かく調べました。ヘリウムが吸収する特定の波長で光が弱まれば、そこにヘリウムがある証拠になります。

面白いのは——そして慎重に扱うべきなのは——この兆候が「いつ見ても出る」わけではなかった点です。2024年の観測ではヘリウムの流出が捉えられましたが、翌2025年の観測では見えませんでした。同じデータを別の解析方法で処理し直しても、この差は変わらなかったといいます。つまり、大気が逃げ出す勢いは一定ではなく、時期によって変わっているらしいのです。

これは「惑星の大気が、人の一生ほどの短い時間で変化する様子を見られた」という点で珍しく、研究者も驚いています。その一方で、「では、そこに腰の据わった安定した大気が本当にあるのか」という新しい問いも生まれました。

生命探しにとっての意味

大気は、私たちが知っているような生命にとって欠かせないものです。地表を温め、有害な放射をやわらげ、水を液体のまま保つ役割を果たします。だからこそ「ハビタブルゾーンの岩石惑星に大気があるのか」は、生命探しの大きな分かれ道でした。

今回の結果は、その問いに「少なくとも1つは大気を保っていそうだ」という手がかりを与えてくれました。生命が見つかったわけではありませんが、「生命を探すなら、まずこういう惑星を詳しく調べる価値がある」という方向づけとしては、大きな一歩です。

研究チームは、次はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を使って、この惑星の大気に水があるかどうかを数年かけて探す計画だとしています。もし水が見つかれば、逃げていくヘリウムは一時的な「げっぷ」ではなく、安定した大気から漏れ出しているものだ、と考えやすくなります。

解釈上の留意点

いくつか、押さえておきたい点があります。

まず、これはあくまで大気の「兆候」であって、大気の全体像や成分がすべて分かったわけではありません。研究チーム自身も、今回の検出を「大気がある可能性を示すもの」という慎重な言い方で説明しています。

次に、上で触れたとおり、ヘリウムの流出は2024年には見えて2025年には見えず、時期によって変わっていました。安定した大気があると言い切るにはまだ早く、今後の観測での確認が必要です。

そして、これは生命の発見ではありません。ヘリウムそのものは生き物と関係のない気体で、今回わかったのは「大気があるらしい」というところまでです。「生命の証拠」や「第二の地球」といった話とは、まだ距離があります。すごい話ですが、研究が言っている範囲を超えないように受け止めたいところです。

出典

元になった研究論文と、参考にしたニュース記事は次のとおりです。

・原著論文(Science、DOI: 10.1126/science.aea9708。本文は有料の場合があります):Helium escaping from the atmosphere of a nearby rocky exoplanet orbiting in a habitable zone

・Space.com の記事:Astronomers discover 1st atmosphere around a rocky Earth-like planet in the habitable zone

・Sci.News の記事(無料で読めます):Potential Atmosphere Detected on Habitable-Zone Exoplanet LHS 1140b

コメント

タイトルとURLをコピーしました