時計を1時間ずらすだけで、目の血管の病気の診断が増えたり減ったりしていた——。米ノースウェスタン大の研究チームが、1264万人分の医療記録をたどって、サマータイムの春と秋の切り替えの前後で目の病気の新規診断がどう動くかを調べた。すると、春に時計を進めた直後はある種の目の病気が増え、逆に秋に時計を戻した直後は減っていた。1時間の睡眠の増減が、体のいちばん奥のほうにある目の血管にまで響いているのかもしれない、という話だ。
サマータイム(夏の間だけ時計を1時間進める制度)は日本では使われていないので、ぴんとこない人も多いかもしれない。ただ、時計を無理にずらすと体の中で何が起きるのか、という点は、時差ぼけや夜ふかしの延長として誰にでも関わってくる。

サマータイムと体内時計
サマータイムの切り替えは、体内時計(体のなかにある約24時間周期のリズム)を乱すことが知られている。とくに春、時計を1時間進める「スプリング・フォワード」では睡眠が1時間削られ、そのぶん体のリズムがずれる。この時期に心臓発作や脳卒中が増える、という報告はこれまでにいくつも出ていた。
研究チームが目をつけたのは、網膜(目のいちばん奥にある、光を受け取る膜)だった。網膜は体のなかでも代謝が活発で、細い血管が複雑に張りめぐらされている組織で、体内時計とも深く関わっている。心臓や脳の血管で起きることが、同じように網膜の血管でも起きているのではないか——というのが出発点だった。
1264万人分のデータ解析
調べたのは、米国の民間医療保険のデータベースに2012年から2014年のあいだ加入していた、18〜64歳のおよそ1264万人分の記録だ。このなかから、目の血管に関わる4つの病気が新しく診断された人を数え上げた。網膜動脈閉塞(もうまくどうみゃくへいそく=目の奥の動脈がつまる)、網膜静脈閉塞(同じく静脈がつまる)、増殖糖尿病網膜症(糖尿病が進んで網膜の血管が傷んだ状態)、そして滲出型加齢黄斑変性(しんしゅつがたかれいおうはんへんせい=ものを見る中心部に異常な血管ができるタイプ)の4つだ。
そのうえで、春の切り替え後・秋の切り替え後・比較用の平常期(夏や冬)で、新規の診断がどれだけ出たかを突き合わせた。ずれの起きた時期に病気が集中しているかどうかを、統計の手法で丁寧に見比べた、という流れになる。
春と秋で分かれた明暗
結果は季節ではっきり分かれた。時計を進めた春の切り替えのあと、1か月のあいだに増殖糖尿病網膜症の新規診断はおよそ3割、滲出型加齢黄斑変性はおよそ2割、多くなっていた。睡眠が削られる側の切り替えで、目の病気が増える方向に振れていたことになる。
逆に、時計を戻して1時間長く眠れる秋の切り替えのあとは、網膜静脈閉塞と増殖糖尿病網膜症の新規診断がおよそ2割少なかった。同じ「1時間」でも、削られたときと増えたときで、目の血管の病気が逆向きに動いていた。
つまり、睡眠を1時間失うと目の病気が増える側に、1時間得ると減る側に傾く——そんな左右対称の関係が、大きなデータのうえに浮かび上がった。
睡眠が守りに働く可能性
チームは、この動きの背景に炎症や代謝の乱れがあるのではないか、とみている。1時間の睡眠不足と体内時計のずれが体に炎症を起こし、代謝のバランスを崩す。反対に睡眠が増えれば、それが守りに働く。心臓や脳卒中で示唆されてきた仕組みが、網膜でも同じように起きているのかもしれない、という見立てだ。
研究をまとめたルクサナ・ミルザ医師は、1時間の変化でも患者の健康に影響しうるとし、とくに春の切り替えのあとに新しい目の症状を訴える人は、より注意して診たほうがよいかもしれない、と述べている。実生活に引き寄せるなら、春に時計が変わる前後は少し早めに寝て睡眠を確保しておく、というくらいの心がけが、いまのところ持ち帰れる話になりそうだ。
解釈上の留意点
気をつけたいのは、これがあくまで過去の記録をさかのぼって関連を見た観察研究だという点だ。「サマータイムの切り替えが目の病気を引き起こす」と因果を証明したものではなく、あくまで「切り替えの時期と診断の増減に関連が見られた」という段階にとどまる。炎症や代謝という説明も、いまのところは仮説だ。
対象が18〜64歳の民間保険加入者に限られている点も押さえておきたい。加齢黄斑変性はふつうもっと高い年齢で増える病気なので、この年齢層で見えた傾向を、そのまま高齢者や別の集団に当てはめることはできない。また、増えたり減ったりしたのは糖尿病網膜症のように、もともと糖尿病などの持病がある人に起きる病気が中心だ。健康な人がサマータイムで急に目を悪くする、という話ではない。
使ったデータも2012〜2014年の3年分と短く、研究チーム自身、別のより大きなデータベースで同じ結果が再現できるか確かめたい、と今後の課題を挙げている。関連の強さや仕組みがはっきりするのは、これからの検証を待つ必要がある。
出典
研究の内容は、以下の一次情報で確認できます。
Daylight Saving Time Impacts Risk of Retinal Vascular Disease(ノースウェスタン大学 公式リリース、2026年7月17日)
Daylight saving could affect your risk of developing eye disease(New Atlas、2026年7月22日)


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