1000万個の星が詰まった球状星団で、ようやく1つ目のブラックホールが見つかった

科学・宇宙
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ケンタウルス座の方向、1万8000光年先にオメガ星団があります。約1000万個の星が球状に密集した、天の川銀河でいちばん大きな球状星団です。ここには理論のうえで1万個ほどのブラックホールが潜んでいるはずでした。ところが、何十年探しても1つも見つからない。その1つ目が、ハッブル宇宙望遠鏡の20年分の画像から、ようやく姿を現しました。

見つけたのは、アメリカ・ユタ大学のマシュー・ウィテカー氏らのチーム。論文は2026年7月13日付でThe Astrophysical Journal Letters誌に掲載されています(査読済み)。

1万個いるはずのブラックホール

球状星団は、数十万から数百万個の星が重力でひとかたまりになった、宇宙でも古い部類に入る天体です。オメガ星団はその中でも別格で、直径わずか150光年ほどの空間に1000万個の星が詰まっています。太陽の近所では、いちばん近い恒星プロキシマ・ケンタウリまででも4.2光年ある——そう考えると、この星団の混み具合が少し想像しやすくなります。年齢は約120億年。宇宙が生まれてまもない時期にできた、古株の星の集まりです。

これだけ古くて大きな星団なら、重い星が寿命の最後に超新星爆発を起こして残したブラックホールが、大量にあるはずです。実際、星団全体の動きを説明しようとするモデルは、オメガ星団に1万個ほどの恒星質量ブラックホール(星がつぶれてできる、太陽の数倍から数十倍のブラックホール)があると見積もってきました。

ところが、それが見つからない。電波でも、X線でも、星の速度のふらつきを測る方法でも探されましたが、どれも空振りでした。理由ははっきりしています。ブラックホールは自分から光を出さないので、見つける手は限られる。ひとつは、周囲のガスを飲み込むときに出る電波やX線をとらえる方法。もうひとつは、近くの星がその重力で振り回されている様子をとらえる方法です。オメガ星団のブラックホールは飲み込む相手のいない静かな状態にあるとみられ、前者の手はそもそも使えませんでした。

2024年には、星団の中心に中間質量ブラックホール(恒星質量のものよりずっと重く、銀河中心の超大質量ブラックホールほどではない中くらいのもの)がある証拠が、やはりハッブルの観測から報告されています。それでも、数のうえでは主役のはずの恒星質量ブラックホールは、ゼロのままでした。

わずかな位置のずれを追う手法

今回のチームが使ったのは、これまでとは別の道でした。アストロメトリ(位置天文)——星が空のどこにいるかを、時間をかけて何度も精密に測る方法です。

星団の星は、それぞれ一定の向きに一定の速さで動いています。もしその星が単独なら、長い年月のあいだ、空の上をほぼまっすぐ進んでいくはずです。ところが見えない相手と連星を組んでいると、共通の重心のまわりを回るぶんだけ、直線からわずかにずれる。このずれを拾えば、光っていない相手の存在と重さがわかる、という理屈です。

材料になったのは、ハッブルが2002年から2023年にかけて撮りためたオメガ星団の画像でした。チームはそこから使える351回分の観測を選び出し、さらにジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラNIRCamで2024年と2025年に撮った画像を足しています。合わせて23年分。ウィテカー氏は、この測定の精度を「検出器のピクセル1個の何分の1という細かさ」と表現しています。2台の宇宙望遠鏡がなければ届かなかった精度です。

その中に、明らかに直線から外れてカーブを描いている星が1つありました。

中性子星説をくつがえした質量

この星は太陽の0.78倍の質量を持つ、水素を燃やしている段階のふつうの星です。位置がずれる幅から逆算すると、相手の重さは太陽の4.46倍と出ました。誤差を1σの幅で見ても3.4〜5.7倍の範囲に収まります。

この数字が決め手でした。星がつぶれてできる暗い天体には中性子星という選択肢もありますが、きちんと質量が測られた中性子星でいちばん重いものでも太陽の約2.08倍。4.46倍は、その2倍以上あります。中性子星では支えきれない重さです。つまり、見えない相手はブラックホール——チームはこれをoMEGACat BH-2と名づけました。オメガ星団の観測プロジェクト「oMEGACat」のデータで見つかった2つ目のブラックホールという意味で、1つ目は2024年に報告された中心の中間質量ブラックホールにあたります。

おもしろいのは、この連星自体は初めて見つかったわけではないという点です。2024年に別のチームが同じハッブルのデータの一部を解析し、「暗い相手を連れている星」の候補として報告していました。そのときの見積もりは、周期13年、相手の重さは太陽の1.36倍——中性子星だろう、という結論です。今回のチームは、そこに含まれていなかった2009年以前の古い観測を足しました。すると、13年周期ではデータを説明できなくなった。過去の写真をもう一度引っぱり出したことで、中性子星だと思われていた天体が、ブラックホールに書き換わったわけです。

94年周期と最接近のタイミング

軌道の形もわかりました。周期は94年。これまでに見つかったブラックホール連星の中でいちばん長い周期です。人ひとりの一生をかけても、この星は1周を回りきれません。

見えている星が描く楕円の長半径は約31天文単位。太陽から海王星までがおよそ30天文単位なので、それに近い大きさの軌道です。しかも楕円はかなりつぶれていて、離心率は0.72。円からは程遠い、細長い軌道になっています。

ここに、この発見のいちばん運のよかった部分があります。細長い軌道の星は、周期の大半を相手から遠く離れた場所でゆっくり過ごし、最接近の前後だけ急に速く動きます。逆に言えば、その速い時期を観測できていなければ、位置のずれは小さすぎて誰も気づけません。オメガ星団のこの星が最接近を迎えたのは、2012年ごろ。ハッブルが撮り続けていた期間のちょうど真ん中でした。

チームがシミュレーションで確かめたところ、94年前後の周期を持つ連星をこのデータで検出できる確率は15〜20%ほど。つまり、8割方は見逃していた計算になります。この低さは、逆にひとつのヒントにもなります。運よく1つ見つかったというより、この星団には長い周期のブラックホール連星がもっとあると考えたほうが自然だ、というわけです。

重元素の乏しい環境と想定外の軽さ

もうひとつ、研究者を驚かせたのが質量そのものです。太陽の4.46倍という値は、ブラックホールとしてはかなり軽い部類に入ります。

オメガ星団は、水素とヘリウムより重い元素(天文学ではまとめて「金属」と呼びます)が乏しい環境です。星の材料に重元素が少ないと、星は一生のあいだにガスを外へ吹き飛ばしにくく、質量を保ったまま最期を迎えます。その結果、残るブラックホールも重くなる——というのが従来の予想でした。理論モデルは、この程度の重元素量なら太陽の20〜40倍あたりが典型と見積もっています。実際、重力波でとらえられているブラックホール同士の合体も、太陽の30倍前後という重いものが目立ちます。

4.46倍は、その予想からはずいぶん外れています。共著者のアニル・セス氏は、重元素の少ない星からもこういうブラックホールができるとわかった以上、どうやってできるのかを解き明かす必要がある、と述べています。論文では、外層をほぼ完全に吹き飛ばすタイプの爆発や、いったん飛び散った物質が中心へ落ち戻る過程などが候補として挙げられていますが、決着はついていません。

ちなみに、天の川銀河の球状星団で力学的に確認された恒星質量ブラックホールは、これまでNGC 3201という星団の2つだけでした。そちらも太陽の10倍を超えない程度と見積もられています。重元素の乏しい星団で見つかった3つがそろって軽いというのは、偶然にしてはできすぎているのかもしれません。星団の中では重いブラックホールほど弾き出されやすいので、残ったのが軽いものばかりという可能性もあります。

約8億年という連星の寿命

この連星は、あまり長くは続きません。

星団の中の連星は、2つの天体を結びつける力と、まわりを飛び交う星の勢いとの綱引きの中にあります。結びつきが強いものは「ハード」、弱いものは「ソフト」と呼ばれ、ソフトな連星は通りすがりの星に少しずつエネルギーを奪われて、やがてほどけてしまう。oMEGACat BH-2は、この分類でいうとはっきりソフトでした。星団中心部の星の速度と比べると、2つを引き離すのに必要な速度のほうが小さいのです。

チームが散乱の計算を重ねたところ、この組み合わせがほどけるまでの時間は中央値でおよそ8億年と出ました。星団の年齢120億年に比べれば、ほんの一瞬です。ブラックホールも星も消えてなくなるわけではなく、ペアが解消されてそれぞれ星団の中を漂うことになります。

この短さは、連星の生い立ちも語ります。8億年しかもたないなら、120億年前の星団誕生時から連れ添っていたはずがない。ブラックホールがあとから星団の中で相手をつかまえた、いわば後づけのペアだということです。それでいて8億年という長さは、私たちがたまたま珍しい瞬間に立ち会っているわけでもない、と言える程度には長い。ちょうどいい寿命なのです。

重力波観測への波及

星団のブラックホールを数えることには、遠回りに見えて大事な意味があります。重力波でとらえられているブラックホール同士の合体は、まさにこうした密集した星団の中で起きていると考えられているからです。セス氏は、ブラックホールがどう生まれ、どう連星を組むのかを理解することが、重力波の観測結果を読み解く力に直結すると説明しています。

今回の「軽さ」は、その足元を少し揺らします。星団のシミュレーションはどれも、もっと重いブラックホールが並ぶ結果を出す。観測とのこのずれは、星がどんな質量のブラックホールを残すのかという出発点の想定を、見直す必要があるかもしれないことを示しています。

次の一手はすでに動いています。ジェイムズ・ウェッブによる追加の観測が2027年と2028年に予定されており、これが加われば周期と質量の幅はかなり絞り込めるはずです。さらに、ハッブル並みの解像度でずっと広い範囲を繰り返し撮影できるナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡が、2026年8月30日の打ち上げを予定しています。同じやり方で見えない天体を探す舞台は、これから一気に広がります。

解釈上の留意点

いくつか押さえておきたい点があります。まず、ブラックホールそのものを見たわけではありません。見えている星の動きから、相手の重さを割り出した結果です。

また、観測できたのは1周のうち4割ほどにすぎず、軌道の値には大きな幅が残っています。周期94年という数字も、下は50年台から上は150年超まで幅があり、質量も1σで太陽の3.4〜5.7倍、2σまで広げると2.7〜7.3倍です。もっとも短い周期の解を採った場合、ごくわずかですが「異常に重い中性子星」や「中性子星と白色矮星のような小さな天体どうしのペア」が完全には排除しきれない領域が残ります。その場所にパルサーもX線源も見つかっていないことから、チームはこれらの可能性は低いと見ていますが、決着は今後のウェッブの観測を待つことになります。

「1万個あるはず」という数字もモデルの見積もりで、チーム自身が過大評価の可能性に触れています。中心の中間質量ブラックホールを組み込まないまま計算された値だからです。

「初めて」の範囲も正確に書いておくと、これはオメガ星団で初めて見つかった恒星質量ブラックホールであり、球状星団で位置測定によって見つかった初の例です。天の川銀河の球状星団で力学的に確認された恒星質量ブラックホールとしては3例目にあたります。

出典

・論文:A Long Period Stellar-mass Black Hole Binary in ω Centauri(The Astrophysical Journal Letters, 2026)

・プレプリント(無料で読めます):arXiv:2606.18350

・NASAプレスリリース:NASA’s Hubble Discovers First of Star Cluster’s Missing Black Holes

・ESA/Hubbleプレスリリース:heic2610

・解説記事:Hubble Discovers the First “Missing” Black Hole in this Famous Star Cluster(Universe Today)

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