ファンを1つも回さないまま、CPUの温度が19℃下がった。使ったのは、3Dプリントでこしらえた筒を水冷ラジエーターの上に積み上げただけの装置だ。ただし、最後まで積み上げた筒は高さ1.1メートルに達した。
オーバークロッカーとして知られる der8auer 氏が、自身のYouTubeチャンネルで公開した実験である。理屈は暖炉の煙突とまったく同じで、目新しい発想ではない。おもしろいのは、その古い理屈がどれくらいの規模で何度ぶんの効き目になるのかを、段階を追って温度計で追いかけたところにある。
煙突効果のしくみ
暖められた空気は、まわりより軽くなって上に昇る。ただ、開けた場所ではすぐ横へ散ってしまい、それ以上のことは起きない。ところが、その空気を筒で囲ってやると話が変わる。筒の中には外より軽い空気が閉じ込められた状態になり、筒が高いほど、内と外の重さの差が縦方向に積み上がっていく。その差が上向きに押し上げる力になり、押し出されたぶんを補うように、筒の下側は外から冷たい空気を吸い込む。
これが煙突効果、あるいはスタックエフェクトと呼ばれるものだ。暖炉の煙が横に広がらず煙突をまっすぐ昇っていくのも、高層ビルの階段室やエレベーターシャフトで火災の煙が上階へ回ってしまうのも、同じ現象である。大事なのは、この力が筒の高さでほぼ決まるという点だ。低い筒では大したことは起きない。

ファンを外したラジエーターの弱点
実験は、まずスモークで現状を見せるところから始まる。水冷のラジエーターは、細かいフィン(放熱用のひだ)のあいだに空気を通して熱を捨てる部品だ。ところがファンを外してしまうと、そのフィンの隙間に空気を通す力がどこにもない。温まった空気は自然にゆらゆらと昇っていくだけで、ラジエーターを貫くような流れは生まれない。
熱を受け渡す面積はたっぷりあるのに、そこへ空気を送り込めないので使い切れていない、という状態になる。筒を載せるという発想は、この足りない「吸い出す力」を、モーターではなく空気の重さの差で作ろうというものだ。
筒の高さと温度の関係
テスト台に載っていたのはAMDのRyzen 7 9800X3Dで、水冷のループを組んだ構成。水そのものの温度も追えるように、配管の継手に温度センサーが追加されている。
最初に載せたのは、高さ10センチの筒。結果はほとんど変化なしで、下がったのは0.5℃ほどだった。この時点で水温は61℃。そこへ20センチぶんを継ぎ足して合計30センチにすると、30分ほど落ち着くのを待ったあいだに、さらに5℃ほど下がった。ただしスモークを焚いてみても、空気の流れ方に目立った違いは見えなかったという。
最後に用意したのが、20センチの部品を4つつないだ80センチぶん。既存のぶんと合わせて全高110センチになる。これを載せた瞬間から温度が動き出し、撮影用にカメラを構え直しているあいだに55℃を割り込んだ。5分後には水温が50℃まで落ちている。ここでスモークを焚くと、ラジエーターの下からすっと吸い込まれた煙が、筒の中を昇っていく様子がはっきり写った。ファンが付いているとしか見えない流れ方だ。
CPU側の数字はもっと分かりやすい。それまで90℃まで上がっていたピーク温度が、この状態では71℃で頭打ちになった。差し引き19℃。つまり、効いていたのは「筒を付けたかどうか」ではなく「どれだけ高く積んだか」のほうだった。

パソコンケースにある前例
この原理をパソコンに持ち込んだのは、今回が初めてではない。2000年に登場したPower Mac G4 Cubeは、本体にファンを持たず、ケースの中を空気が下から上へ抜けていく構造だけで冷やす設計だった。SilverStoneのRavenシリーズ、たとえばRV02は、マザーボードを90度回転させて搭載する。発熱する部品の排気がまっすぐ上を向くので、自然に昇る空気の流れと逆らわずに済む。
どちらも「暖かい空気は上へ行く」をケースの形に織り込んだものだ。今回の実験に新しさがあるとすれば、発想そのものではなく、その効き目を段階ごとに測って数字にしたところにある。
圧力差という共通点
動画の終盤で、der8auer 氏は話を現代のパソコンのファンへ引き戻している。煙突がやっているのは、上と下に圧力の差をつくって空気を動かすこと。ファンがやっているのも、結局はまったく同じことだ。違うのは、その圧力差を得るのに何が必要かという一点で、煙突なら1.1メートルの筒がいるところを、ファンなら厚さ数センチの羽根で片が付く。
物理としては筋が通っているが、装置としては割に合わない——実験の結論はそこに落ち着く。ファンという解決策が、なぜここまで当たり前になったのかを裏側から確かめた形になっている。
解釈上の留意点
数字の扱いには少し注意がいる。これは個人が自分の環境で測った結果で、室温や負荷のかけ方、センサーの位置といった条件が第三者に検証されたものではない。19℃という差も「この構成でこう出た」という一例として読むのが妥当で、別の環境で同じだけ下がると約束するものではない。筒を継ぎ足すたびに温度が落ち着くまで待つ必要があるぶん、条件をきれいにそろえるのが難しい種類の測定でもある。
また、これは真似を勧める話ではない。まず机の上に高さ1.1メートルの筒が立つことになるし、3Dプリントによく使われる樹脂には60℃あたりから柔らかくなるものもあるので、ラジエーターから出る空気にさらし続ける材料選びは軽く考えられない。筒の内側にほこりが溜まれば、そのぶん通りも悪くなる。ファンのないパソコンが実用になる、という結論を引き出せる実験ではない。
それでも、教科書に一行で書かれている「暖かい空気は上に昇る」が、机の上で19℃という数字になって出てくるのは見ていて気持ちがいい。目に見えない空気の重さの差を、スモークと温度計だけで可視化してみせた実験として、素直におもしろい。


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