防風林のそばでヒバリが7割減。「木を植えれば生きものが増える」とは限らない

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農地に木を植えれば、生きものは増える。農業と生物多様性の話では、長いことそう考えられてきました。ヨーロッパの生け垣(ヘッジロー)が鳥を支えているという研究がいくつもあり、各国の農業環境政策も「樹林帯を残す、植える」方向を後押ししてきたからです。

ところが石川県の干拓地で実際に鳥を数えてみると、防風林のすぐ隣では、ヒバリやキジといった草原性の鳥が約70%少なかった。広島大学などのチームが2026年1月に発表した研究です。

農地緑化をめぐる従来の前提

農業の集約化——区画を大きくし、雑草地や水路まわりの草むらを削り、機械が入りやすい形に整えていく流れは、世界中で農地の鳥を減らしてきました。その対策として各国の農業環境計画が推してきたのが、防風林や生け垣林といった「農地の中の樹林帯」を維持・植栽することです。木があれば営巣場所も隠れ場所も餌もある、という理屈になります。

ただ、その根拠になっている研究の多くは、ヨーロッパや北米の畑地・草地で行われたものでした。アジアのモンスーン気候帯に広がる水田やハス田のような、水を張った農地——研究チームの言い方では「農業湿地」——で同じことが成り立つかは、ほとんど検証されていません。

これは細かい話に見えて、実は重要です。自然の湿地が埋め立てられて減った地域では、水田やハス田がその代わりの湿地として機能しています。渡り鳥の中継地としても使われている。もし樹林帯を増やすことが湿地性・草原性の鳥にとって逆効果なら、生物多様性を守るつもりの行動が、守りたかったものを削ることになります。

この研究の出発点は、著者である広島大学大学院先進理工系科学研究科の久野真純(ひさの ますみ)助教が、イギリスやアイルランド、ブルガリア、スイスなどの農地を見て回ったときの違和感でした。畑や草地の境目に生け垣が連なり、緑の線が景観を区切っている。日本の農村風景とはずいぶん違う。そこから、共同研究者の出口翔大博士(福井市自然史博物館)との議論を重ねて、「ヨーロッパで良いとされている植栽が、日本の農地でも同じ結果をもたらすのか」という問いにたどり着いたと、広島大学のプレスリリースで振り返っています。

河北潟干拓地での現地調査

調査地に選ばれたのは、石川県のほぼ中央にある河北潟(かほくがた)の干拓地です。県内でいちばん大きかった潟を1960年代から国営事業で干拓し、約1,356ヘクタール(13.5平方キロメートルほど)が陸地になりました。今は水田、ハス田、畑、牧草地が混ざり合った農地になっています。

日本海側で冬の季節風が強い土地なので、農地の風害を防ぐために、畑の縁に沿って防風林が並んでいます。一方でこの一帯は、東アジア・オーストラリア地域フライウェイ(渡り鳥の主要な移動ルート)の中継地でもあり、これまでに約300種の鳥が記録されています。防風林と開けた湿地環境が同じ景観の中に同居している、比較にはうってつけの場所でした。

調査は2021年の2月・3月(越冬期)と、2023年の6月(繁殖期)に行われました。方法はポイントカウント法。決めた地点に立って、見えた鳥と鳴き声で分かった鳥を数えていきます。日の出から6時間の間に限り、雨や強風の日は避ける。上空を通過しただけの個体は、その環境を実際に使っているか判断できないので数から外す。数分前に記録した方向から飛んできた個体も、二重に数えないよう除外しています。

記録した種は、暮らし方をもとに「藪・林縁性」「草原性」「湿地性」「環境を選ばない種」の4つに分けられました。そのうえで、防風林があるかどうか、防風林からどれだけ離れているかで、種数と個体数がどう変わるかを統計モデルで比べています。

防風林の周辺で増えた鳥

まず、想定どおりの結果から。防風林の周りでは、藪や林の縁を好む鳥が種類も数も増えていました。オオヨシキリ、ホオジロ、シジュウカラ、コゲラなど。ムクドリも増えています。

これは納得のいく話で、開けた農地の中にぽつんと連なる木立は、こうした鳥にとって営巣場所にも隠れ場所にもなります。ヨーロッパの生け垣研究が示してきたのと同じ方向の結果です。

開放環境に依存する種の減少

問題は、同じ場所で反対のことも起きていたことでした。

草原性の鳥、具体的にはヒバリとキジは、防風林に隣接する地点で個体数が大きく落ち込んでいました。防風林から約1キロ離れた開けた場所と比べると、約70%少ない。10羽いた場所が3羽になる、それくらいの差です。

湿地性の鳥のほうは、減り方の出方が違いました。こちらは個体数というより種数——つまり顔ぶれの多様さが減っていました。ケリなどのチドリ類、サギ類、カモ類といった、広く見通しのきく水辺を必要とする鳥たちです。

つまり防風林は、鳥の多様性を一律に押し上げる装置ではなかった。そこに住める鳥の顔ぶれそのものを、静かに入れ替えていたわけです。

見通しの悪さと捕食リスク

なぜ、木があると開けた場所の鳥が減るのか。研究チームが挙げている説明のひとつが、捕食される危険の変化です。

ヒバリもケリも、地面に巣を作る鳥です。木の枝の高い場所ではなく、草の間や裸地のくぼみに卵を産む。だから彼らにとって「見通しがきく」ことは、近づいてくる危険を早く見つけられるという意味を持ちます。

そこに木の列があると、キツネのような地上の捕食者は身を隠しながら移動できます。猛禽類(もうきんるい)にとっては、開けた農地を見下ろす見張り台になる。地上営巣の鳥から見れば、防風林のそばは、危険が隠れる場所と危険が見張る場所を同時に抱えた土地ということになります。

加えて、実際に使える開放環境そのものが細切れになります。幅の狭い一列の並木でも、鳥にとっては景観を区切る仕切りとして働く。久野助教はこれを「生態的な壁」と表現しています。

一律の植栽より配置の設計

この研究が言っているのは「木は農地に悪い」ということではありません。防風林は風害から作物を守るために必要なもので、藪・林縁性の鳥にはちゃんとプラスに働いていました。

研究チームが提案しているのは、木を良いか悪いかで判断するのをやめて、どこにどれだけ置くかを設計する、という考え方です。防風林を農地全体に一律に増やしていくよりも、開けた環境が途切れずに連続するように配置と管理を工夫したほうが、農地全体で見たときの生物多様性は保たれやすい。林縁性の鳥を支えつつ、草原性・湿地性の鳥の居場所も残す配置は、原理的には両立します。

この話は日本国内にとどまりません。水田を中心とした農業湿地はアジアのモンスーン気候帯に広く分布していて、そこで同じ「木を植えれば生物多様性が上がる」という前提が使われているなら、同じ見直しが必要になる可能性があります。

解釈上の留意点

この研究は、木を植える前と後を追いかけた実験ではありません。すでにある防風林の隣の地点と、そこから約1キロ離れた開けた地点を比べた観察研究です。統計モデルで他の環境要因は考慮されていますが、「防風林があるから減った」という因果関係を実験的に切り分けたわけではない点は押さえておく必要があります。

捕食リスクの説明についても同様で、これはこの研究の中で直接確かめられた仕組みではなく、結果から考えられる説明のひとつです。捕食者の行動そのものを追跡した研究は、今後の課題として挙げられています。

調査の範囲も限られています。河北潟という1つの地域で、2021年の冬と2023年の夏の2シーズン。防風林の幅や高さ、間隔、樹種の違いが結果をどう変えるかは、まだ分かっていません。他の地域や季節でも同じ傾向が出るかは、これからの検証を待つことになります。

あわせて、約70%という数字が指しているのは草原性鳥類の個体数であって、湿地性の鳥で減っていたのは種数のほうです。この2つは混ざりやすいので、引用するときは分けておくと安全です。

出典

Masumi Hisano, Shota Deguchi, Wenhuan Xu, Xike Xiao, Keinosuke Sannoh, Xinli Chen, Ken Motomura, “Shelterbelts support edge birds but limit grassland and wetland specialists in agricultural landscape”, Journal of Environmental Management, 398 (2026) 128583. DOI: 10.1016/j.jenvman.2026.128583

広島大学プレスリリース「防風林近くの農業湿地では、ヒバリ、ケリなど草原や湿地に棲む野鳥が減少することを確認」(2026年2月4日)

Hiroshima University, “Planting tree belts on wet farmland comes with an overlooked trade-off“(英語版プレスリリース)

本研究は、NPO法人河北潟湖沼研究所(河北潟研究奨励助成)、日本学術振興会(科研費・若手研究:21K17912)、広島大学スタートアップ経費の支援を受けて実施されました。

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