スーパーに並ぶアボカドは、ほとんどが同じ木のコピーです。ハスという一品種の枝を別の木に接ぎ木して増やしているので、遺伝的にはほぼ同一。日本で買っても海外で買っても、中身は同じ一本の木の分身だと言っていい状態になっています。
いっぽうで中米の低地には、それとは似ても似つかないアボカドが、農家の庭先や畑で育ち続けています。ひとまわり大きく、色が明るく、皮がつるりとしている。スミソニアン国立自然史博物館とテキサスA&M大学を中心とする研究チームが、その葉からDNAを採って調べたところ、これらの木の祖先はおよそ5000年前、人の手で南米から北へ運ばれてきたらしいことが見えてきました。2026年7月22日付の学術誌『Plants, People, Planet』に載った論文です。

クローンで支えられる世界のアボカド
アボカドの木がもともと自生しているのは、メキシコからペルーにかけての一帯です。そこから世界中に広がり、研究チームの発表によると、2024年の生産量は1100万トンを超えました。そしてその8割以上が、ハスというたった一つの品種で占められています。
ハスがこれほど広まったのは、味や日持ちの良さに加えて、増やし方が徹底しているからです。ある木の枝を切り取って別の木にくっつける接ぎ木を繰り返しているので、実る果実は元の木とまったく同じ遺伝子を持っています。品質のばらつきが出ない、という意味では理想的なやり方です。
ただ、同じ遺伝子ということは、弱点も同じということでもあります。ハスの木を狙って枯らす病気が現れたり、気温や降水量が想定の範囲を外れたりすれば、産地がまとめて倒れかねない。バナナが特定のカビの病気で何度も壊滅的な打撃を受けてきたのは、同じ構図です。だからこそ、ハス以外のアボカドがどれだけ多様に残っているかが、産業の側から見ても重要になってきます。
1万1000年前にさかのぼる選抜の跡
そもそもアボカドは、あのタネの大きさからして不思議な果物です。あれを丸ごとのみ込んで運べる野生動物が、いまの中南米にはいません。かつて更新世に生きていたゴンフォテリウム(ゾウの仲間)やオオナマケモノのような大型動物が、実ごと食べてタネを遠くに落としていたのではないか——という説が、1980年代から知られています。あくまで仮説ですが、大型動物が姿を消したあとにアボカドが生き延びられたのは、人が育てるようになったからだ、という筋書きにはつながります。
その「人が育てはじめた」時期については、2025年に別の研究チームが手がかりを出しています。ホンジュラス西部にあるエル・ヒガンテ岩陰遺跡から出た、1万1000年ぶんのアボカドの残りかす(タネと皮)を測り続けた研究です。人がアボカドを食べていたのは1万1000年ほど前までさかのぼり、7500年前ごろには実の大きい個体、皮の厚い個体が選ばれた跡がはっきり出てくる。そして2000年ほど前には、栽培品種と呼べる形にまとまっていました。日本でいえば、縄文時代のごく早い時期から選抜が始まっていたことになります。
この2025年の論文には、今回のアボカド研究を率いたケビン・ワンさんとローガン・キスラーさんも名を連ねています。つまり今回の研究は、遺跡から出た実物で見えた流れの続きを、いま生きている木の遺伝子から追いかけたものだと言えます。
中米低地に残る別系統のアボカド
解析の結果は、地域によってはっきり分かれました。
まずメキシコ南部のチアパス州で集めたものは、メキシコ高地に古くからある系統や、商業品種と近い関係にありました。しかも在来のもの同士、在来と商業品種の間、どちらでも比較的最近の交雑(別系統同士の掛け合わせ)の跡が出ています。輸出向きのアボカドは南メキシコの標高の高い場所でよく育つので、商業栽培と在来のものが隣り合って混ざるのは、ある意味で予想どおりでした。
意外だったのは、ニカラグアとホンジュラスの低地のほうです。こちらの在来品種は、商業品種のゲノムとかなりはっきり離れていました。近いのはむしろ南のほう——コロンビア沿岸などの南米のアボカドだったのです。
研究を率いたワンさんは、この地域の在来品種を「ハスとは似ても似つかない。もっと大きく、明るく、なめらかだ」と表現しています。見た目の印象と遺伝子の系統が、そろって「別物」を指していたわけです。
遺伝子がたどった北上の痕跡
では、なぜ南米系のアボカドが中米の低地に根を張っているのか。チームが導いた答えが、冒頭の「人が運んだ」です。
遺伝データから推定される時期は、およそ5000年前。日本でいえば縄文時代の中ごろ、三内丸山遺跡に大きな集落があったあたりです。この時期は、カカオや一部のトウモロコシといった南米原産の作物が、中米の遺跡から出てくるようになる時期とも重なります。当時のコロンビア沿岸あたりに暮らしていた人々が、いまのコスタリカ方面へ北上する際に自分たちのアボカドを持って行き、現地に生えていたアボカドと混ざった——チームはそう見ています。
ただ、これを「5000年前に一度だけ起きた大移動」と考えるのは違うようです。キスラーさんは、中南米はもともとよくつながった土地で、人と作物のやりとりは絶えず往復していたと説明しています。5000年という数字は、その行き来が遺伝子に痕跡を残しはじめた時点の目安、という位置づけです。
つまり、いまスーパーに並ぶアボカドの均一さは、何千年もかけて人が広げてきた多様性の、ごく一部を切り取ったものだった。そういう話になります。

採取から解析までの手順
調べ方そのものは、地道な足仕事です。チームはメキシコ南部、ホンジュラスの太平洋岸、ニカラグアをまわり、家庭の庭や小さな農園、道ばたの木から葉を集めました。集まったのは在来品種47点(うち32点がニカラグア)と、接ぎ木で作られた商業品種3点。あわせて50個体ぶんのゲノムを浅く読み取り、すでに公表されている200系統以上のアボカドの遺伝データと突き合わせています。
同時に、木を育てている農家や住民への聞き取りも行いました。どの品種をどう扱っているか、何が育ちやすいか。研究チームがこれを重視したのは、栽培の知識そのものが在来品種の来歴と切り離せないからです。キスラーさんも、農業は人間がやっている最も影響の大きい生態的な活動のひとつで、生物多様性を考えるときに外せないと述べています。
ちなみにワンさんは、この調査で人生初のアボカドを食べたそうです。博士論文でアボカドを扱いながら「どこまで食べずにいけるか試していた」といい、4年もったところでニカラグアの農家に差し出され、断りきれなかったとのこと。感想は「おいしかった」。南メキシコでの調査中には食中毒に見舞われ、道ばたの木から葉を採っているときにハチに顔を刺されてもいます。
病気に強い在来種という資源
聞き取りから出てきた話のなかで、産業側にとって見逃せないものがひとつありました。低地の在来品種では、根腐れ病——商業栽培のアボカドを最も広く悩ませている病気——の被害が確認されていない、というのです。ニカラグアの農家のなかには、商業品種の枝を在来の木に接いで育てている人もいます。土地に合った根を使ったほうが、木がよく育つからです。
これらの木は、高温多湿の環境で何千年も生き延びてきた集団でもあります。気候の変化や新しい病気に対して、ハスよりも幅のある備えを持っている可能性が高い。ワンさんは、遺伝的な多様性の供給源としてこれ以上の場所はないと話しています。
この地域のアボカドがどれだけ複雑かを示す例も出てきました。ニカラグアで輸出向けに重要とされてきたベニック(Benik)という品種は、これまでグアテマラで人工的に作られたものが持ち込まれたと考えられていました。ところが今回の解析では、ニカラグア在来のアボカドとグアテマラの商業品種が交雑して生まれたものだと分かっています。単一品種で埋め尽くされていない土地では、こういう掛け合わせが自然に起こる、ということでもあります。
姿を消しつつある在来の木
ただし、この多様性が安泰かというと、そうではありません。在来品種は日持ちが短く、輸出市場では歓迎されない。まとまった量を作っても売り先がないため、栽培は縮んでいく方向にあります。
ワンさんが聞き取りをしたニカラグアの農家のひとりは、農園を維持するために在来の木を切り、輸出できる外来の品種に植え替えていると、はっきり伝えてきたそうです。買い手のつく品種に寄せていくのは経営としては当然の判断で、そのぶん、遺伝子の蓄えが静かに減っていきます。研究チームが在来品種の記録を急ぐ理由も、ここにあります。
解釈上の留意点
今回の研究は査読を経て学術誌に掲載されたものですが、扱っているのは「いま生きている木の遺伝子から過去を推定する」という手法です。5000年前という年代も、遺伝データの比較と、同時期に南米の作物が中米の遺跡に現れるという考古学の知見を突き合わせた推定であり、運ばれた瞬間が直接記録されているわけではありません。
どの集団がアボカドを持って移動したのかも、まだ分かっていません。コロンビア沿岸からコスタリカ方面へ、という大まかな方向が示されている段階です。また、今回調べられたのは47の在来品種で、中米にあるアボカドのすべてを網羅したものではありません。今後サンプルが増えれば、絵柄が変わる余地は残っています。
出典
- Scientists Discover Genetically Distinct Avocados in Nicaragua That People Transported From South America Thousands of Years Ago(スミソニアン協会プレスリリース、2026年7月22日)
- Ethnobotanical and genetic assessments of Central American avocado landraces reveal novel sources of biodiversity and ancient migration patterns(Plants, People, Planet、2026年7月22日)
- Ancient Genes Reveal That Big, Bright Avocados Were Carried Through the Americas Thousands of Years Ago(Smithsonian Magazine)
- Early evidence of avocado domestication from El Gigante Rockshelter, Honduras(PNAS、2025年)


コメント