DNAといえば二重らせん、というのが学校で習う姿です。2本の鎖がねじれながら向かい合っていて、AにはT、GにはCがぴたりと収まる。この形が遺伝情報の入れ物として説明され、図鑑やニュースのイラストも、たいていこの形で描かれます。
ただ、DNAがいつでもこの形を保っているわけではありません。塩基の並びによっては、1本の鎖が自分だけで折り畳まれて、まったく別の立体になることがあります。そのひとつが「Gカドラプレックス(G4)」と呼ばれる4本鎖の構造です。細胞の中でなら、これまでにも見つかっていました。
今回、ドイツのケルン大学を中心とするチームが、この4本鎖を人の血液の中から、折り畳まれたままの状態で捕まえたと報告しています。2026年9月10日に生物学の論文公開サイト bioRxiv に載った、査読前のプレプリントです。

グアニンが積み重なってできる4本鎖
G4の材料は、DNAの4種類の塩基のうちのG(グアニン)です。グアニンが4つ集まると、互いに手をつないで小さな四角い面を作ります。この四角が2枚、3枚と上に積み重なると、鎖はその周りをぐるりと巡る形に折り畳まれ、二重らせんとは似ても似つかない、ぎゅっと詰まった立体になります。
1本の鎖が折れて4本鎖になる、と聞くと不思議ですが、鎖の中にグアニンの続く区間が4か所あれば、その4か所が寄り集まって四角を作れます。相手の鎖はいりません。だから、グアニンの多い配列があるところには、G4ができる可能性がついてまわります。
ヒトのゲノムには、このG4を作れそうな配列が何十万か所も見つかっています。しかも、その多くは遺伝子のスイッチのはたらきをする領域に集まっていて、いくつかの種類のがんの細胞ではG4が多くなっている、という報告もあります。細胞の中では、それなりに意味のある構造として研究されてきたわけです。
血液の中を漂う、極端に短いDNA
ここからが血液の話です。体のあちこちで細胞が死ぬと、中にあったDNAが細かくちぎれて血液に流れ出します。これが「細胞外DNA(cfDNA)」で、採血だけで胎児の異常やがんの気配を調べる検査は、この断片を読むことで成り立っています。
断片の長さはだいたい160塩基くらいがふつうです。ところが数年前、それよりはるかに短い、50塩基前後の1本鎖の断片が血漿の中にたくさんあることが分かってきました。「超短鎖cfDNA」と呼ばれています。あまりに短くて、しかも1本鎖なので、ふつうの解析手順ではふるい落とされてしまい、長いこと気づかれずにいたものです。
この超短鎖cfDNAの配列を調べていくと、気になる特徴が出てきました。遺伝子のスイッチに関わる領域に由来するものが多く、グアニンの多い配列、つまりG4を作れそうな配列がやたらと目立つのです。今回のチームも、健康な20人の血漿データを絞り込んで調べ、同じ傾向を確かめています。実際に細胞の中でG4を作ることが観察されている場所や、血液細胞で開いているゲノム領域と、超短鎖cfDNAの由来がよく重なっていました。
ここで、ひとつの仮説が浮かびます。この短い断片は、折り畳まれてG4になっているから、分解されずに血液の中に残っているのではないか。折り畳まれた構造は酵素に食われにくい、という性質があるからです。
折れそうな配列と、折れている構造の違い
ただし、これはあくまで配列から立てた予想でした。グアニンの多い配列があることと、それが血液の中で実際にG4に折り畳まれていることは、別の話です。折り畳めるひもが見つかっても、それが結ばれているとは限りません。
チームはまず、超短鎖cfDNAでとくに多かった配列を人工的に合成し、円二色性という光の性質を測る方法で調べました。結果は、たしかにG4を作る。しかも「平行型」と呼ばれる、鎖が同じ向きに走るタイプが主でした。作れることは確かめられたわけです。
次の一手が、この研究の中心です。血液の中で、本当に折り畳まれているのか。それを見るには、血漿の中の核酸を、形を崩さずに取り出す必要があります。
ところが、DNAを血漿から取り出すふつうの手順は、この目的にはまったく向いていません。タンパク質をはがすために強い試薬を使い、加熱し、精製する。その途中でG4がほぐれてしまうかもしれないし、逆に、試験管の中でたまたま折り畳まれてしまうかもしれない。最後にG4が見えたとしても、それが血液の中にあったものなのか、実験室で生まれたものなのか、区別がつかなくなります。
そこでチームは、抽出も加熱も、鎖をいったんほぐして貼り直す操作も、いっさい行わない方法をとりました。血漿の中の核酸の末端に、A(アデニン)が長く続く「尾」を酵素でつなぎ、その尾を手がかりに、核酸を表面に釣り上げて固定する。取り出すのではなく、血漿の中にいるままの形で、そっと捕まえるやり方です。
捕まえた核酸に、2種類の検出役を当てました。ひとつはBG4という、折り畳まれたG4の形だけを見分ける抗体。もうひとつはNMMという小さな分子で、G4に結合すると光り出します。この2つは仕組みがまったく違うので、片方が勘違いしても、もう片方までそろって間違うことは考えにくい。そして、どちらも反応しました。
念のための確認も重ねています。G4を作れないように設計した配列を同じやり方で捕まえると、信号は出ませんでした。さらに、抗体ともNMMとも化学的に無関係なピリドスタチンという第3のG4結合分子を先に加えると、抗体の信号もNMMの信号も下がりました。3つの別々の分子が、同じ形の上で場所を取り合っている。血漿の中に、折り畳まれたG4が実在すると考えるしかない結果です。
捕まえた構造の正体は不明
ここまで読むと、話はきれいに閉じたように見えます。ところが、この研究はもうひとつ謎を残しています。捕まえたG4が、DNAなのかRNAなのか分からないのです。
研究の出発点は超短鎖のDNAでした。しかし、RNAも同じようにグアニンの四角を積み重ねてG4を作ります。そして、抗体もNMMも「G4という形」を見ているだけで、その下にある分子がDNAかRNAかは見分けません。血漿にはRNAの断片も漂っているので、今回の信号の一部、あるいは大部分がRNA由来だった可能性は否定できません。Hänsel-Hertsch 氏自身も、ScienceAlert の取材にこの点を大きな制約だと認めています。
次の一手として考えられているのは、捕まえた核酸をDNAだけ壊す酵素、あるいはRNAだけ壊す酵素で処理してから、同じ測定をやり直すことです。どちらで信号が消えるかで、正体が分かります。さらに、折り畳まれた分子だけを取り出して配列を読めれば、ゲノムのどこから来たものかも突き止められるはずです。
ほかにも分かっていないことは多いです。どの臓器から出てきたのか。細胞の中で折り畳まれた状態のまま流れ出たのか、血液に出たあとで折り畳まれたのか。健康な人の血液を集めて調べたので、病気のときに何が変わるかも、まだ何も言えません。
診断への応用は、まだ先の話
G4は遺伝子のスイッチ領域に多く、がんで増えるという報告もある。血液から捕まえられる。この2つを並べると、血液検査でがんが分かる、という筋書きを思い浮かべたくなります。実際に研究チームも、配列だけでは見えない情報が構造には含まれている、という見方を示しています。
ただ、今回の研究がやったのは「血漿の中に折り畳まれたG4がある」ことを示すところまでです。がんの人と健康な人を比べてはいませんし、量を測る方法も確立していません。分子の正体さえ分からない段階で、検査の話をするのは早すぎます。病気によってG4の量や由来や中身が意味のある形で変わるのか、それは患者と健康な人の集団をきちんとそろえて調べてみるまで、誰にも分かりません。
それでも、この研究が示したことの意味は小さくありません。血液の中のDNAは、これまで「文字列」として読まれてきました。どんな並びか、どれくらいの長さか、ゲノムのどこから来たか。今回の結果は、その文字列がどんな形に折られているかという、これまで読まれてこなかった情報が血液の中にあることを、初めて実験で示したものです。
二重らせんの絵の続きには、4本鎖の絵もある。それは細胞の中だけでなく、採血管の中にも入っている。読み方はまだ分かっていませんが、読むべきものが増えたのは確かです。
留意点
この研究は査読前のプレプリントで、専門家による審査を経ていません。今後、内容が修正される可能性があります。また、責任著者の Hänsel-Hertsch 氏は、抗体などを扱う試薬会社 Active Motif のコンサルタントを務めていることを論文中で明らかにしています。研究の結論そのものを左右するものではありませんが、読む側が知っておいてよい情報です。
出典
Gajarský M., van Ray O., Akkermann T., Hunold P., Cucchiarini A., Mergny J.-L., Trantírek L., Hänsel-Hertsch R. “Nucleic Acid Capture from Human Blood Plasma Uncovers G-Quadruplex Structures.” bioRxiv, 2026年9月10日公開(査読前)。https://doi.org/10.64898/2026.09.05.747829
ScienceAlert, “Scientists Discover Strange 4-Stranded Genetic Structures in Human Blood”(Esra Öz、2026年9月)。https://www.sciencealert.com/scientists-discover-strange-4-stranded-genetic-structures-in-human-blood


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