サウジアラビアで、高さ1キロメートルを超える超高層ビルが着々と姿を現しつつあります。「JECタワー」と呼ばれるこの建物は、2026年に入って100階を突破しました。完成すれば、いまの世界一の高さを誇るドバイのブルジュ・ハリファ(828メートル)を抜いて、人類が初めて建てる「高さ1キロの建造物」になります。
長らく工事が止まり、もう完成しないのではとも言われた計画でした。それが再び動き出し、いまや紅海沿いの街の空に、その細い三叉の姿がはっきりと立ち上がっています。

三つの名前を持つタワー
この建物には、これまで三つの名前がありました。最初は「キングダムタワー」、次に建設地の名を取って「ジッダタワー」、そして現在は開発会社ジッダ・エコノミック・カンパニー(JEC)にちなんで「JECタワー」と呼ばれています。海外の報道では今も「ジッダタワー」と併記されることが多く、同じ建物を指しています。
場所は、サウジアラビア西部、紅海に面した港湾都市ジッダの北部です。タワーはそれ単体で建つわけではなく、「ジッダ経済都市」と呼ばれる大規模な都市開発の中心に据えられています。計画を主導してきたのは、投資会社キングダム・ホールディングを率いるアルワリード・ビン・タラール王子。設計を手がけたのは、シカゴを拠点とする建築家エイドリアン・スミス氏です。実はスミス氏、いまの世界一であるブルジュ・ハリファを設計した張本人でもあります。世界一を、自らの手で更新しにきた格好です。
1キロという未踏の高さ
JECタワーが目指すのは、1000メートル超という前人未到の高さです。最終的な正確な高さは完成時まで公表しない方針とされていますが、少なくとも157階建てになることは設計事務所が認めています。エッフェル塔のおよそ3倍、アメリカで最も高い超高層ビル(ニューヨークのワン・ワールド・トレード・センター、541メートル)と比べても、ほぼ2倍の高さです。
そもそも300メートルを超える建物は「超高層(スーパートール)」と呼ばれ、世界でも建設中のものが90棟ほどしかありません。100階を超える建物にいたっては、世界で25棟前後。JECタワーはその節目を、この数か月で通過したことになります。内部には世界で最も高い位置にある展望台のほか、高級ホテルや住宅、オフィスが入る予定です。二階建てのエレベーターが秒速10メートルで人を運ぶといい、これはかなりの速さですが、上海タワーのエレベーターはその倍近い速度で動いているので、突出して速いわけではありません。
5年の凍結からの再始動
この計画は順風満帆だったわけではありません。設計が公開されたのは2011年、着工は2013年。ところが2018年ごろ、63階・高さ約250メートルまで積み上がったところで工事が完全に止まってしまいます。背景には、2017年にサウジアラビアで行われた大規模な汚職摘発(いわゆる粛清)がありました。この計画に関わる王子や施工会社の会長が拘束され、労働問題が発生。そこに新型コロナの流行も重なり、タワーは3分の1ほどできた状態で、約5年ものあいだ街の空に凍りついたまま放置されました。
状況が変わったのは2023年。完成に向けた新たな入札が行われ、計画チームが組み直されて、2025年1月に工事が再開します。ここからのペースが尋常ではありませんでした。構造設計を担当するエンジニアリング会社が「猛烈(blistering)」と表現したほどで、3〜4日におよそ1階分を積み上げる勢いです。2026年1月に80階、4月に100階、6月には102階と、あっという間に階を重ねてきました。

壁だけで支える巨大構造
これだけの高さを、砂漠の国でどう建てているのか。構造設計を担うソーントン・トマセッティ社によれば、鍵は「コンクリート」です。同社は「中東ではコンクリートが王様だ」と述べ、地元で調達しやすく、扱い慣れた材料を活かす方針を取ったといいます。
構造そのものは、意外なほどシンプルに設計されています。柱も、途中で荷重を受け渡す梁もなく、すべての壁が互いにつながって、風の力と建物の重さの両方を一緒に受け止める仕組みです。速く効率よく建てられるよう、最初からそう考えられています。そして地面の下では、厚さ5メートルの巨大なコンクリートの土台を、直径1.8メートルの杭270本が支えています。杭が届く深さは最大105メートル。地上の高さばかりが目を引きますが、それを成り立たせているのは、地中に沈められた見えない足元です。
脱石油をかけたサウジの巨大計画
JECタワーは、サウジアラビアが石油依存から抜け出すために掲げる国家構想「ビジョン2030」の一部でもあります。この構想のもとでは、直線状の未来都市「ザ・ライン」や、巨大な立方体の建物「ムカーブ」など、いくつもの「ギガプロジェクト(巨大計画)」がぶち上げられてきました。
ただし、その多くは計画の縮小や中止に追い込まれています。誇大に語られた未来都市が、そのまま実現するとは限らない――ここは冷静に見ておく必要があります。そのなかでJECタワーは、5年の停滞を経てなお、いまのところ最も着実に進んでいるプロジェクトだと位置づけられています。完成予定は2028年とされていますが、これはあくまで予定です。総工費もタワー単体で12億〜27億ドルと見積もりに幅があり、確定した数字ではありません。
それでも、街の空に日ごとに伸びていく実物のシルエットは、これまでの「いつか建つかもしれない構想」とは重みが違います。1キロという未踏の高さに人類が手を届かせようとしている現場が、いま確かに動いています。今後の進捗にも、折を見て触れていきたいと思います。
参考リンク
World’s new tallest building races toward completion in Saudi Arabia(New Atlas)
Jeddah Tower Construction Update: 100 Floors Completed(Thornton Tomasetti)


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