宇宙が生まれてから今日までに爆発した超新星は、数え切れないほどある。そのすべてが放ったニュートリノは、消えることなく宇宙にたまり続けているはずだ——理論家がそう予言してから、40年近くが経つ。この「超新星背景ニュートリノ」の兆候を、岐阜県飛騨市の地下1000mにあるスーパーカミオカンデが世界で初めて捉えた。東北大学と東京大学宇宙線研究所が6月26日に発表した。
ただし、捉えたのは「兆候」であって、検出が確定したわけではない。そこは最初に押さえておきたい。

すべての超新星が残す「背景」
太陽の8倍以上の重さを持つ星は、燃料を使い果たすと中心が自分の重さで一気に潰れ、その反動で外層を吹き飛ばす。重力崩壊型超新星と呼ばれる爆発だ。あとには中性子星やブラックホールが残り、まき散らされた物質が次の世代の星や惑星の材料になる。
この爆発は、宇宙全体で見れば毎秒数回という頻度で起きている。そして爆発のたびに、莫大な数のニュートリノが放たれる。ニュートリノは電荷を持たず、物質をほとんど素通りしてしまうため、いったん飛び出せば途中で吸収されることもなく、宇宙空間をどこまでも進み続ける。
つまり、宇宙が誕生してから現在までに起きたすべての超新星爆発のニュートリノが、拡散しながら宇宙に積み重なっている。それが超新星背景ニュートリノ(Diffuse Supernova Neutrino Background、DSNB)だ。特定の1回の爆発ではなく、宇宙の歴史全体の「合計」がそこに刻まれている。
ここが、この信号の面白いところでもある。光で見える超新星は、望遠鏡が向いていた方向の、明るいものだけだ。一方でニュートリノの背景は、見えなかった爆発も、遠すぎた爆発も、すべて足し合わせた数字になる。ただし、そのぶん信号は途方もなく薄い。
約5000日分のデータに現れた超過
どれくらい薄いのか。1987年に大マゼラン雲で超新星SN 1987Aが爆発したとき、16万光年という「ご近所」の出来事だったにもかかわらず、当時のカミオカンデが捉えたニュートリノは11個だった。それより何桁も遠い銀河から、しかも拡散しきって届く背景ニュートリノとなれば、桁違いに難しい。
スーパーカミオカンデ国際共同研究グループは、純水で運転していた期間(2008年〜2020年のうち3349日)と、水にガドリニウムを溶かした期間(2020年〜現在のうち1653日)を合わせた約5000日分のデータを解析した。その結果、エネルギーが13.3〜81.3MeVの範囲で、背景ノイズだけでは説明のつかない事象の超過が見つかった。
統計的な有意度は2.6σ、信頼水準にして99.5%。「信号がまったく無い」という仮説は99.5%の水準で棄却され、最もよく合う値としては、1平方センチメートルを毎秒3.6個のニュートリノが通過している計算になる。つまり、宇宙の全超新星が残した“合唱”らしきものが、たしかにデータに顔を出した——ということになる。
チェレンコフ光とガドリニウム
スーパーカミオカンデの中身は、5万トンの超純水をたたえた巨大なタンクだ。壁面には光電子増倍管という高感度の光センサーが約1万3000本並び、水の中で起きるかすかな発光を見張っている。ニュートリノが水中の粒子と反応すると、そこから飛び出した荷電粒子が水中の光速を超えて走り、チェレンコフ光という青白い光の輪を残す。装置が地下1000mに埋まっているのは、地上に降り注ぐ宇宙線が邪魔になるからだ。

今回の解析で効いたのが、2020年と2022年に水へ加えたガドリニウム(原子番号64のレアアース)だ。この元素は中性子を捕まえる能力が飛び抜けて高い。反電子ニュートリノが水と反応すると中性子が生じるが、ガドリニウムがそれを捕まえて別の光信号を出してくれる。「光ってから少し遅れてもう一度光る」という二段構えの合図が付くことで、目当ての反応と、それ以外のノイズを区別できるようになる。
この共同研究には、日本・アメリカ・韓国・中国・ポーランド・スペイン・カナダ・イギリス・イタリア・フランス・ベトナムの約60機関から、およそ250人が参加している。実施責任機関は東京大学宇宙線研究所。装置が観測を始めたのは1996年で、DSNBの検出は計画の当初からの目標だった。実験のスポークスパーソンである東京大学の関谷洋之准教授は、この結果を「計画開始以来の長年の悲願」と表現している。
星形成史をたどる新しい手段
もし今後の観測で確定すれば、この信号は「宇宙で今までにどれだけの星が生まれ、どれだけが超新星として死んだか」を数える物差しになる。中性子星やブラックホールがどのくらいの割合でできてきたのか、重い元素がどのように増えてきたのか——これまで主に光の観測と理論モデルで推定してきた宇宙の化学進化を、まったく別の窓から検証できる。
研究チームは、スーパーカミオカンデの観測を続けながら、後継となるハイパーカミオカンデのデータと組み合わせて感度を上げる計画を進めている。東北大学の芦田洋輔助教は、両者を合わせた将来の共同解析で精度をさらに高めたい、としている。
解釈上の留意点
2.6σ・99.5%という数字は、日常の感覚だとかなり確からしく聞こえる。ただし素粒子物理の世界では、これは「発見」とは呼ばない。偶然のゆらぎで説明できる確率がおよそ200回に1回、という水準だからだ。この分野で発見を宣言する基準は5σ(偶然である確率がおよそ350万回に1回)で、今回の結果はまだそこに届いていない。研究グループ自身も「検出」ではなく「兆候(indication)」という言葉を使っている。
もう一点、この成果は2026年6月25日にカリフォルニア大学アーバイン校で開かれた国際会議「NEUTRINO 2026」での発表であり、査読を経た論文として出版された段階ではない。数値や解析手法は今後の論文化・追試の過程で調整されうる。
過去にも、有望に見えた超過が統計を積むうちに消えていった例は珍しくない。逆に、本物なら統計が増えるほど有意度は上がっていく。どちらに転ぶかは、これから数年のデータが決める。
出典
東北大学プレスリリース「スーパーカミオカンデが超新星背景ニュートリノの兆候を捉える ― 宇宙の歴史に刻まれた「かすかなささやき」の手がかり ―」(2026年6月26日):https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2026/06/press20260626-03-superkamiokande.html
英語版プレスリリース(Tohoku University):Super-Kamiokande Unveils a Clue to the Faint “Whispers” Imprinted Across Cosmic History
学会発表:Hiroyuki Sekiya, “Supernova Neutrinos in Super-Kamiokande”, NEUTRINO 2026(2026年6月25日):https://indico.global/event/15740/contributions/155621/
報道:Universe Today「Listening for the Universe’s Faintest Whispers, a Billion Supernovae at Once」(2026年7月13日):https://www.universetoday.com/articles/listening-for-the-universes-faintest-whispers-a-billion-supernovae-at-once


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