Spotifyの「AIが作った曲」を、有志が勝手に追跡し始めた

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いま流れているその曲を、人間が作ったのかどうか。Spotifyの画面を見ても、それを確かめる方法はほとんどない。曲名の横にAI生成かどうかを示すしるしはなく、アーティストのプロフィールも写真も、それらしく整っている。

5月には、こんな一件があった。ラスベガス出身の新人R&Bシンガーが、ある雑誌のインタビューで「AIではないか」という指摘を否定した。媒体側もそれを疑惑の打ち消しとして掲載したのだが、のちに記事の末尾へ注記が加わる。実際にはAIのアバターだった、という内容だった。このアーティストの月間リスナーは10万人を超えている。

Spotifyが表示しないなら自分たちで一覧を作る——そう考えた人たちが立ち上げたのが、AIとみられるアーティストを集めたデータベース「Soulless Music」と、曲を判定するツールを備えた「SlopTracker」の二つだ。米テックメディアの404 Mediaが7月27日、この動きを取り上げた。

AI楽曲の流入量

そもそも、AIで作られた曲はどれくらい流れ込んでいるのか。Spotifyはこの種の数字を公表していない。手がかりになるのは、競合のDeezerが定期的に出している集計だ。

Deezerは2025年1月から、AI生成楽曲を検出する自前のツールを動かしている。今年4月の発表では、1日に届く新曲のうち約44%、7万5千曲ほどがAI生成だった。それが7月21日の発表ではさらに上がり、6月のピーク時には1日約9万曲、新規アップロードの半分を超えたという。

ただし、大量に届くことと、大量に聴かれることは別だ。Deezerによれば、AI生成楽曲が実際の再生に占める割合は1〜3%にとどまる。検出した曲をおすすめや公式プレイリストから外しているためで、さらにAI楽曲に付いた再生の最大85%は不正な水増しと判定され、報酬の分配から除かれている。

これはあくまでDeezerの数字であり、Spotifyでも同じ比率になっている保証はない。それでも、生成ツールが吐き出す曲が配信網の入り口でどれだけの水位になっているかは伝わってくる。

なりすましと模倣の手口

量の問題と並んで語られるのが、他人の名前や作品を使う手口だ。404 Mediaは昨年、すでに亡くなった実在のミュージシャンの名義で、AI生成の曲がSpotifyに公開されていた例を報じている。名前の知名度に相乗りして再生収入を得ようとしたとみられるもので、その報道の後には、同じ目に遭ったという存命のアーティストからも連絡があったという。4月にはデンマークで、現地のジャズ・ミュージシャンの名前が勝手に使われていたことが地元メディアに報じられている。

Soulless Musicを作ったグレアム・フルトン氏が動き出したのも、そうした声がきっかけだった。何がAIで何がそうでないのか自分でも分からずにいたところ、SNSの短編動画で「自分の曲をそっくり真似たアーティストが現れた」と嘆く投稿を次々に目にした、と404 Mediaに語っている。曲だけでなく、見た目や雰囲気ごと寄せてくる例もあったという。

有志が立ち上げた二つのサイト

Soulless Musicは、Spotifyに潜むAIアーティストの一覧を掲げるサイトで、7月28日時点で232組を掲載し、823曲を分析したとしている。利用者が怪しいと思った曲を投稿でき、フルトン氏が自分の目で確かめてから登録する仕組みだ。作品を真似されたと訴えるミュージシャンのSNS投稿を集めたページも併設している。

もう一方のSlopTrackerは、選び出した49組をプロフィールの画面写真つきで並べ、検出した楽曲は6,976曲にのぼるとしている。曲のリンクを貼れば判定にかけられるツールも備える。運営しているのは自身もミュージシャンの人物で、アンビエント(環境音楽)の棚が実体のない大量生成で埋まっていくのを見かねて作った、と説明している。

判定のしくみ

では、どうやってAIかどうかを見分けているのか。

Soulless Musicの判定器は、公開されている複数のモデルを組み合わせたものだ。中心にあるのは「SONICS」で、2025年の国際会議ICLRで発表された研究にもとづく。SunoやUdioが生成した曲を含む9万7千曲規模のデータセットと、音をスペクトログラム(周波数の時間変化を絵にしたもの)として扱って見分けるモデルが公開されている。これに、AIが歌声を合成するときに残る周期的なくせを拾う別の検出器を重ね、さらに曲のメタデータ(制作ツールなどの付帯情報)に生成ツールの痕跡がないかを調べ、Wikipediaに項目があるかどうかも自動で確認する。判定に使うのは各ストアで聴ける30秒のプレビュー音源で、コードはMITライセンスで公開されている。

SlopTrackerのほうは、周波数のパターンと、演奏のわずかな揺らぎ(タイミングやリズムの微細なばらつき)の二方向から調べ、「人間」「加工されたAI」「完全なAI」に分類すると説明している。完全なAIについては99.9%以上の精度だとしつつ、第三者によるマスタリングで結果が変わりうること、これは判断材料の一つであって最終的な結論ではないことを、サイト自身が書き添えている。

推計されるロイヤリティ

両サイトが金額を前面に出しているのは、Spotifyの分配のしくみと関係している。Spotifyは有料会員費と広告収入をいったん一つのプールにまとめ、再生回数の比率に応じて権利者へ配る。曲ごとに単価が決まっているわけではないので、誰かの再生が増えれば、その分だけ他の取り分は薄まる。AI楽曲の再生が積み上がることを「実在のアーティストから吸い上げている」と表現するのは、この構造を指している。

Soulless Musicは、月間リスナー数が公開されている225組について、年間およそ570万ドル(月47万ドル台)が支払われていると見積もる。最も多い1組だけで年150万ドル規模だ。SlopTrackerも、選定した49組について1秒あたり0.1188ドルが流出しているとするカウンターを回している。

ただし、これらは実際の支払い記録ではない。Soulless Musicの計算式は「月間リスナー数×1人あたり2回再生×1再生0.004ドル」で、真ん中の2回という数字は自分たちでも当て推量だと認めている。国や会員種別によって1再生の価値は何倍も変わるし、年間1,000再生に満たない曲には録音印税が付かない。桁の感覚をつかむための数字であって、実額ではない。

Spotify側の表示制度

Spotifyが何もしていないわけではない。2025年9月、同社はAIをめぐる三つの方針を発表した。無断の声のクローンを禁じる規定、大量アップロードなどを弾くスパムフィルター、そしてDDEX(音楽業界の標準規格をつくる団体)の規格に沿って、AIの関与をクレジットに表示する仕組みだ。あわせて、直前1年間に7,500万曲のスパム楽曲を削除したことも明らかにしている。

表示のほうは今年4月16日にベータ版が動き出した。アーティストがレーベルや配信代行会社を通じて申告すると、ボーカル・歌詞・制作といった項目ごとに、スマホアプリの楽曲クレジット欄へAIの関与が出る。

問題は、これが自己申告に基づく仕組みだという点にある。Spotify自身、申告に頼っている以上、クレジットが付いていないことはAIを使っていないことを意味しない、と説明している。申告に対応していない配信代行会社もまだ多い。404 Mediaの記者も、記事のために数十曲を確認したがAIの表示は見当たらなかったと書いている。ちなみに、記事が取り上げたイラン風ジャズのチャンネルの場合、YouTubeにある同じ曲の動画には小さくAI生成の表示が付いていた。ただしチャンネル自身が付けたのか、YouTubeが付けたのかは分からない、とも添えられている。

404 Mediaによれば、Spotifyは同誌の取材に回答していない。

解釈上の留意点

いちばん大きいのは、AI判定に誤検知が付きものだということだ。フルトン氏自身、仕組みは完璧ではないと認めており、人が作った曲をAIと判定してしまった経緯をサイトの技術記事として公開している。AIでAI生成物を見分けるという手法そのものが原理的に不確かで、リストに載っている=AI確定、とは読めない。

実際、推計収入で最上位に来る1組も、サイトが示すAIらしさの数値は58%にとどまる。9割超の表示が並ぶ一覧の中では、むしろ判断が付いていない部類だ。名前が挙がっているアーティストを断定的に扱わないほうがいい。

金額の推計が実額ではないことは前述のとおりで、Deezerの比率もDeezerのプラットフォーム上の話にすぎない。そしてSpotifyは取材に答えていないため、この件で語られているのは、いまのところ追跡する側の見立てが中心になる。

出典

Spotify’s AI Problem Is So Bad Random People Are Stepping In to Track the Slop(404 Media, 2026年7月27日)

Spotify Strengthens AI Protections for Artists, Songwriters, and Producers(Spotify Newsroom, 2025年9月25日/2026年4月更新)

Deezer: AI music has surpassed 50% of new music uploads for the first time(Deezer Newsroom, 2026年7月21日)

SONICS: Synthetic Or Not – Identifying Counterfeit Songs(arXiv/ICLR 2025)

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