データセンターは1年で建つ。電気を通すのに7年かかる

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2026年7月22日の朝、ワシントンD.C.からシカゴにかけて、家庭の照明がちらつきました。エアコンや冷蔵庫が普段と違う音を立てた、という報告も出ています。原因は嵐でも落雷でもなく、バージニア州北部で送電線1本が停止したことでした。それを検知した周辺のデータセンター群が、自分の機器を守るために一斉に送電網から切り離れ、非常用電源へ切り替えた。消えた需要は3ギガワットを超え、その時点の送電網全体の需要のおよそ3%にあたります。3ギガワットは、大型の原子炉3基分の出力に近い規模です。

この揺れが起きた送電網は、PJMインターコネクション(PJM)が運用しています。バージニア州やニュージャージー州、ミシガン州など13州とワシントンD.C.にまたがり、6,700万人分の電力をまとめて面倒を見ている、全米最大の系統(送電網)です。停電の宣言までは至りませんでしたが、通常なら1000分の1秒単位で収まる電圧の乱れが、このときは10分ほど続きました。

この一件が浮かび上がらせたのは、AIブームを支える計算施設と、そこへ電気を届けるインフラのあいだにある時間差です。データセンターは1年かからずに建ちます。ところが、電気を運ぶ送電線のほうは、認可が下りてから完成までに7〜8年、長ければ10年以上かかります。

建設1年、送電線7年という時間差

この時間差の中身を、エネルギーコンサルタントのスザンヌ・グラッツ氏が404 Mediaに説明しています。同氏は、データセンターが送電網に与える影響をまとめたジョンズ・ホプキンス大学のレポート(2025年6月)の共著者でもあります。

グラッツ氏によれば、まったく新しい送電線を1本引く場合、認可の日から数えて7〜8年、それ以上かかることも珍しくないといいます。理由は1本ごとに違います。通す土地の地形、扱う電圧の高さ、長さ、途中で通過する地域社会——景観への影響も含まれます——環境への影響、既存の送電線や変電所とどこでつなぐか、そもそも何のために必要でどんな代替案があるのか。こうした条件をひとつずつ詰めていく作業が、計画・用地選定・設計・工事の各段階に積み上がります。既存の送電線を建て替えるだけでも問題にぶつかって遅れることがある、とも述べています。

送電線だけの話ではありません。電気を届けるには変圧器(発電所から送られてきた電気を、家庭や施設で使える電圧に変える装置)も必要になります。この変圧器は、データセンターブームが始まる前から、業界が需要に追いつく数を作れずにいた品目でした。グラッツ氏の説明では、大型の電力用変圧器は発注から1〜2年かかり、実際にはそれより長引いたり、輸送そのものが難題になったりしています。電柱や鉄塔も待たされる品目ですが、大型変圧器ほどではないとのことです。そこへ関税が乗って、価格の面でも状況が悪くなっている、という指摘も添えられています。

自前発電という回避策

送電網の増強を待っていられないなら、送電網を使わずに自分で発電すればいい——というのが、いま実際に選ばれている回避策です。業界では「アイランド型(islanded)」、つまり公共の送電網から切り離された島のような発電設備と呼ばれています。

その最大級の例が、ユタ州ボックスエルダー郡で進む「ストラトス・プロジェクト」です。米テレビ番組「シャーク・タンク」の投資家として知られるケビン・オリアリー氏が、オリアリー・デジタル社を通じて進めている計画で、総額1,000億ドル規模。敷地は4万エーカー、東京23区の4分の1ほどの広さにあたります。フル稼働時の電力は9ギガワットで、これはユタ州全体が現在使っている電力の2倍を超えます。第1段階では3ギガワットからのスタートを予定しています。

電気は全量を敷地内で作る計画です。近くを通る天然ガスのパイプライン「ルビー・パイプライン」(ワイオミング州からオレゴン州まで約680マイルを結ぶ州間ガス管)から直接ガスを引き込み、送電網からは「1個の電子も取らない」と、州の関係機関の責任者は郡の議会で説明しました。余った電力は逆に送電網へ流せる可能性もあるといいます。送電網につながる順番待ちが何年も続く現状を、そもそも回避する設計です。

ただし、地元の反応は静かではありませんでした。2026年5月、郡の3人の委員が全員賛成で計画を承認しましたが、その場には情報開示を求める住民が集まり、会議は途中で非公開に切り替わりました。住民が挙げた懸念は、電気代の上昇、大規模な天然ガス燃焼による大気への影響、そして承認の進め方の速さでした。承認後には住民投票を求める動きも出ています。地元紙ソルトレイク・トリビューンは、この計画によって州の炭素排出量が64%増えうると報じました。ユタ州知事は、この施設を完全に天然ガスだけで動かすべきではなく、いずれは原子力・太陽光・風力が電力を担う必要があると述べています。なお「100%天然ガスで動かす」という州側の説明と、オリアリー氏本人が風力・太陽光を混ぜる可能性にも言及している点は、公には整理されていません。

許可なしで動くガスタービン59基

自前発電はすぐに動き出せるわけでもありません。この方式が頼るのはガスタービン(天然ガスを燃やしてタービンを回して発電する装置)ですが、PJM圏での議論では、新しいガスタービンの納入待ちが最長5年に達するという数字が挙がっているとグラッツ氏は話しています。

そして、実際に動き出したあとにも問題が起きています。イーロン・マスク氏のxAIは、テネシー州メンフィス近郊で大規模データセンター「Colossus 2」を運用しており、その電力を59基の天然ガスタービンでまかなっています。ロイターが2026年7月14日に報じた調査によれば、この59基は連邦の大気関連の許可を取らずに設置されたもので、そのうち少なくとも57基は州境を越えたミシシッピ州サウスヘイブンに置かれています。xAIが2026年1月に自ら認めていた台数は27基でしたから、記録上の数はその倍以上ということになります。この数字は、xAI側の環境コンサルタントとミシシッピ州の規制当局のあいだのやりとりを、公文書請求で入手して確認されたものです。

xAIと同州の環境品質局は、これらのタービンは「可搬式・一時利用」にあたるため大気関連の許可はいらない、という立場です。同州は2026年3月に恒久設置のタービン41基分の許可を出していますが、その許可は実際に動いている可搬式のタービンをカバーしていません。2026年4月にはNAACP(全米黒人地位向上協会)などがこの運用を大気浄化法(Clean Air Act。アメリカの大気汚染規制の基本法)違反として訴え、6月には司法省が「xAIのシステムは米軍の作戦を支えており、稼働を止めることは国家安全保障に関わる」として訴訟への介入を申し立てました。

ロイターの試算では、59基のうち30基が能力の80%で回り続けた場合、窒素酸化物(NOx。呼吸器の病気やスモッグと関係が深い大気汚染物質)の年間排出量は2,500ショートトン近くになります。大気浄化法で許可が必要になる基準は年100ショートトンです。周辺は、もともと肺の病気の割合が高いと推定されている黒人住民の多い地域でした。

ジェットエンジンと原子力という選択肢

手っ取り早く動く電源が足りないなかで、発想の方向はかなり広がっています。航空機エンジンのリースと整備を手がける米FTAIアビエーションは、2025年12月に「FTAIパワー」という事業を立ち上げました。やることは、退役が近い旅客機のエンジンを地上用の発電機に作り替えることです。素材に選んだのはCFM56——ボーイング737などに載っている、商用航空機で最も多く使われてきたエンジンです。これを25メガワットのガスタービンに転用し、2026年から生産を始め、年100基超まで増やす計画を掲げています。同社の最高執行責任者デビッド・モレノ氏は、AI事業者からの需要が急速に膨らんでおり、電力をより速く、より柔軟な形で届ける必要が生まれている、と説明しています。

この転用は難しい改造ではありません。燃料の噴射口をジェット燃料用から天然ガス用に替え、機首側の大きなファンを発電向きの小さいものに替える。おおまかにはこの二つです。航空機エンジンをもとにした発電機は「航空転用型(エアロデリバティブ)」と呼ばれ、軽くて起動が速いのが特徴です。同じ発想の会社は他にもあり、ProEnergyはボーイング747向けのCF6-80C2エンジンを最大48メガワットの発電機に転用し、すでに1ギガワット分以上をデータセンター向けに売っています。多くは、本格的な電源が整うまでの「つなぎ」としての導入です。

もう一つの方向が原子力です。メタ、アマゾン、グーグルはいずれも原子力による電源確保を進めており、マイクロソフトはスリーマイル島原発1号機の再稼働を後押ししています。ここは時間の感覚をつかむのにちょうどいい例なので、少し細かく見ておきます。

この1号機は、1979年に事故を起こした2号機とは別の炉で、40年以上動いたのち2019年に経済的な理由で停止しました。2024年9月、コンステレーション・エナジーがマイクロソフトと20年間の電力購入契約を結び、故クリストファー・クレイン前CEOの名を冠した「クレイン・クリーン・エネルギー・センター」として再稼働させる計画を発表します。このとき示された運転開始の目標は2028年でした。その後、送電網への接続を先行して認める手続きが通ったことで、目標は2027年へ前倒しされています。2026年6月には、別の発電所が持っていた760メガワット分の接続権をこの炉へ移す例外措置が連邦エネルギー規制委員会に認められ、大きな関門が一つ外れました。

2026年7月末の時点では、原子力規制委員会(NRC)の環境審査と運転許可の変更手続きが続いており、燃料の搬入は年内、運転開始は2027年の後半という線で進んでいます。つまり、建物も炉も配管もすでに現地にあり、あとは点検して許可を取って燃料を入れるだけの設備でも、発表から実際の発電までに3年前後かかる、ということです。新しく建てる原子炉なら、この比ではありません。小型モジュール炉(SMR)に取り組む企業は「あと5年で実現する」と言い続けてきましたが、その5年は10年前から動いていない、という見方も出ています。

大気浄化法の適用範囲をめぐる判断

時間差が埋まらないなかで、規制の側にも動きがありました。2026年7月27日、米環境保護庁(EPA)が、大気浄化法の中の「酸性雨プログラム」は公共の送電網につながっていない発電設備には適用されない、という解釈を示す指針を公表しました。酸性雨プログラムは、発電所から出る二酸化硫黄と窒素酸化物に上限をかける仕組みです。

EPAの説明はこうです。酸性雨プログラムが対象にしているのは、電気を売る設備か、発電設備としてエネルギー省への報告義務がある設備である。送電網から切り離されたアイランド型の設備はどちらにも当たらないので、このプログラムの対象にはならない。ただし、いま送電網につながっていない設備を、あとで送電網につないだ場合には、対象になりうる——という条件も明記されています。EPAの大気・放射線担当のアーロン・サボ次官補は、AIでの優位を保つことは国家安全保障と経済に関わる一方、電気料金の値上げから地域を守ることも同じくらい重要であり、この指針は両方を進める道になる、と述べています。

ここで注意しておきたいのは、適用外とされた範囲です。「大気浄化法そのものの対象外になった」と読める形で報じられた例もありますが、EPAの発表が対象にしているのは大気浄化法の中の酸性雨プログラムという一つの仕組みであり、対象は公共の送電網につながっていない設備に限られています。この判断への評価は政治的に大きく割れているので、ここでは「こういう決定が2026年7月にあった」という事実として記録しておきます。

一般利用者に回るコストとリスク

電源が追いつかないあいだも、データセンターの建設は止まっていません。そして計算施設が増えるたびに電力需要が押し上げられ、近くに住む人の負担が上がっていきます。バージニア州ヘンリコ郡には37か所のデータセンターがあり、郡は2026年6月末、行政施設と学校で払う電気料金が25%上がる見込みだとして、職員に節電への協力を求めました。ただし、この25%という数字は周辺の複数自治体が加盟する電力購買団体が交渉したレートで、郡の通知そのものはデータセンターに触れていません。燃料費の上昇も理由の一部だと当局者は説明しており、値上げの原因をデータセンターだけに帰することはできません。

もう一つの負担は、供給余力の縮小です。グラッツ氏は、PJMが今後数年のうちに供給不足に陥り、顧客への停電につながりうる状況を示していると指摘しています。対策として同氏らが提案しているのは、新しい電源を用意せずに送電網につないだデータセンターについては、他の利用者より先に電力の供給を絞る(curtailment)という順番づけです。ただし、そうなればデータセンターは効率の劣る非常用の発電機で自分の運転をまかなうことになる、とも付け加えています。需要の伸びと供給の確保見通しを並べると、予備の余力は薄くなっていく方向で、需要が最も高くなる猛暑のような極端な日ほど、電源が足りなくなるリスクは高くなります。

7月22日にバージニア州北部で起きた揺れは、こうした構図が実際に動いた場面でした。1本の送電線の停止が、そこから1,000キロ以上離れた家庭の照明まで届いた。しかもこの規模の一斉切り離しは、2024年に60か所のデータセンターが同時に切り離れて1.5ギガワットが消えた出来事の、ちょうど倍にあたります。データセンターがPJMの需要に占める割合は当時6%程度で、2040年には24%まで上がるという試算もあります。

日本での系統接続という制約

制度も地名もアメリカの話ですが、時間差そのものは日本でも同じ形で現れています。

電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、2024年度の供給計画からデータセンターと半導体工場の新増設分を個別に積み上げて需要想定に織り込んでいます。2025年度の想定では、データセンターの新増設に伴う最大需要電力は2025年度の47万キロワットから2034年度に616万キロワットへ増え、半導体工場の99万キロワットと合わせると、2024年度比で715万キロワットの増加になる見通しでした。

ここで面白いのは、この想定の積み上げ方です。OCCTOは、送電網への接続の申し込みがどこまで進んでいるかを見て計上しています。具体的には、工事費の負担金契約を結ぶ段階まで来た案件は実現の見込みが高いとして必ず数えます。つまり需要想定そのものが、送電網につなげるかどうかで決まっている。日本でデータセンターの立地と拡大のペースを実際に縛っているのは、電力需要の総量ではなく、それを受け止める送電網の空き容量と増強の工期だということです。

2026年1月21日に公表された2026年度の需要想定では、この事情がはっきり数字に出ました。データセンター関連の最大需要電力は、2033年度までは前回の想定を下回る形に修正されています。需要が減ったからではありません。事業者側の工事の延期や遅延、設計変更によって、運転開始の時期が数年単位で後ろへずれたためです。2034年度以降は前回想定を上回っており、投資意欲そのものは落ちていません。ずれたのは電源とインフラが間に合う時期のほうでした。

負担を誰が持つのかという論点も、日本でも動いています。送配電網の増強費用を、受益者であるデータセンター事業者が負うのか、それとも託送料金(送配電網の使用料。電気料金に含まれ、すべての利用者が払う)を通じて広く分けるのか。資源エネルギー庁の審議会では、過大な投資が積み上がればエリアの託送料金の負担に影響しうる、という指摘が出ています。需要側の効率化についても、省エネ・非化石転換法に基づいてデータセンター事業者に電力使用量やPUE(施設全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った指標。1に近いほど効率がよい)の報告を求める仕組みが、2026年4月に整えられました。

1年で建つ箱と、7年かかる電線。この差が埋まらないあいだ、すき間を埋めるのはガスタービンと自前発電、そして規制の解釈になります。

受け止め方の留意点

数字の性質を少し補っておきます。

「認可から7〜8年、長ければ10年以上」というのは、まったく新しい送電線を1本引く場合について、グラッツ氏が404 Mediaに語った見立てです。米国の制度と地理を前提にした数字で、あらゆる送電線に当てはまる普遍的な値ではありません。日本の工期に直接置き換えられるものでもありません。

Colossus 2の59基という台数は、ロイターが規制当局とのやりとりを確認して報じたもので、xAI側は許可は不要という立場を取り続けています。窒素酸化物の排出量も、59基のうち30基が能力の80%で連続運転した場合の推計で、実測値ではありません。

ユタ州の9ギガワットは、フル稼働時の計画値です。第1段階は3ギガワットで、計画自体も訴訟や住民投票の請求を抱えています。承認済みとはいえ、規模も工程も今後動く余地があります。

EPAの指針については、対象が大気浄化法全体ではなく酸性雨プログラムであること、適用外となるのは公共の送電網につながっていない設備に限られることを、もう一度確認しておきます。

ヘンリコ郡の25%も、先に触れたとおり、データセンターが直接の原因だと公に示されたものではありません。データセンターの集積が地域の電気代を押し上げる傾向自体は各地で観測されていますが、この郡のこの値上げについては、404 Mediaがデータセンターという文脈のなかで報じたという距離感で受け取るのが正確です。

出典

元記事:Data Centers Are Easy to Build. Powering Them Is Complicated, Slow, and Expensive(404 Media、Matthew Gault、2026年7月29日)

EPAの発表と指針:EPA Issues Permitting Guidance to Further President Trump’s Agenda Promoting Data Centers and Safeguarding Communities(米環境保護庁、2026年7月27日)

7月22日のPJMでの電圧の乱れ:PJM grid hit by voltage disturbance after data center load abruptly drops offline(Data Center Dynamics)One fallen power line exposed a growing AI data center problem(TechCrunch、2026年7月25日)

データセンターと送電網に関するレポート:Johns Hopkins Datacenters Playbook(ジョンズ・ホプキンス大学エネルギー研究所、2025年6月・PDF)

ユタ州の計画:Kevin O’Leary’s 9 Gigawatt Utah data center campus approved(Tom’s Hardware)

Colossus 2のガスタービン:Pollution From Musk’s Unpermitted xAI Power Project Hits Hardest in Black Communities(ロイター、2026年7月14日)

ジェットエンジンの転用:From Plane Power to Power Grid: Repurposing Jet Engines for Data Centers(ConstructConnect News)

スリーマイル島1号機の再稼働:Constellation to Launch Crane Clean Energy Center(コンステレーション・エナジー、2024年9月20日)Three Mile Island reactor restart progresses through environmental review, public comments(WITF、2026年7月28日)

日本の需要想定:全国及び供給区域ごとの需要想定(2026年度)(電力広域的運営推進機関、2026年1月21日・PDF)今後の電力需要の見通しについて(資源エネルギー庁・PDF)省エネ・非化石転換法に基づくデータセンター業に係る措置(資源エネルギー庁、2026年4月・PDF)

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