「男には豆、女にはブロッコリー」。2026年7月、西オーストラリアのエディス・コーワン大学(ECU)がこんな見出しのプレスリリースを出しました。原文は “Beans for blokes, broccoli for women”。blokes は「男たち」を指すオーストラリアの俗語で、韻を踏んだ、狙って作ったフレーズです。筆頭著者のニール・マクナマラ氏のコメントとして、ただ緑の野菜を積み上げればいいという話ではなく、男性には豆、女性にはブロッコリーがはっきり勝者だった、という趣旨の一文も添えられています。
もとになった論文は、栄養学と心臓病の専門誌『Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases』の2026年8月号に載ったものです。この見出しはよく広まり、8月にはニュースサイト New Atlas も記事にしました。ところがその New Atlas の記事で、論文の責任著者テレーズ・オサリバン准教授は、大学の見出しとはずいぶん温度の違うことを言っています。
今回はこの研究を、見出しの側からではなく、著者本人が付けた「留保」の側から読んでみます。健康ニュースの数字の読み方として、かなりよい教材になっている研究だからです。
638人の22歳を対象にした研究の中身
データの出どころは「レイン研究(Raine Study)」という、西オーストラリアで1989年から続く長期追跡調査です。当時妊娠していた約2,900人の女性を登録し、生まれた子どもたちを大人になるまで定期的に調べ続けています。今回使われたのは、その子どもたちが22歳になった2012〜2014年の健診と食事調査で、条件のそろった638人(女性53%、男性47%)が解析の対象になりました。
食事は、過去1年間に何をどのくらい食べたかを121項目で尋ねるアンケートで調べています。そのうち野菜を5つのグループに分けました。
- 豆類:グリーンピース、さやいんげん、ベイクドビーンズ(トマトソースで煮た白いんげん)、もやし、大豆、その他の豆
- アブラナ科:キャベツ、芽キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー
- 緑の葉野菜:ほうれん草、レタスなどのサラダ菜
- ネギ属:タマネギ、リーキ、ニンニク
- 黄・橙・赤の野菜:トマト、ピーマン、ニンジン、カボチャ
一方の健康側は、血圧、腹囲、空腹時血糖、中性脂肪、HDL(善玉)コレステロールの5項目です。メタボリックシンドロームの診断で使われる基準値をそれぞれ超えているかを見て、2項目以上が基準を超えた人を「高リスク群」、1項目以下を「低リスク群」としました。ふつうメタボの診断は3項目以上ですが、22歳では3項目そろう人が少なすぎて統計が組めなかったため、2項目に下げています。
それでも、638人のうち120人、およそ19%が高リスク群に入りました。22歳の5人に1人です。この数字はあとでもう一度出てきます。
そのうえで、収入、学歴、喫煙、運動量、飲酒、総摂取エネルギー、飽和脂肪酸、そして「その野菜以外の野菜の量」まで統計的に調整して、野菜グループごとに高リスク群に入る確率を比べました。結果、男女それぞれで1グループだけが残りました。
- 男性(300人):豆類が1日1皿(75g)多いごとに、高リスク群に入るオッズが72.2%低い
- 女性(338人):アブラナ科の野菜が1日1皿(75g)多いごとに、高リスク群に入るオッズが84.9%低い
75gは、ゆでた豆やブロッコリーで小鉢1杯、およそ半カップです。

「豆類」の中身と、途中で消えた葉野菜
ここで見出しの言葉と論文の中身のずれを2つ確認しておきます。
まず「豆」。日本語で豆類と聞くと大豆や小豆、納豆や煮豆を思い浮かべますが、この研究の豆類グループには、さやいんげん、グリーンピース、もやしが入っています。オーストラリアの食卓では、豆類の主役はむしろ缶詰のベイクドビーンズや付け合わせのさやいんげんです。「男は納豆を食べろ」と読み替えると、もとの研究とはだいぶ違うものになります。
次に、消えたグループ。女性では最初の単純な比較で、アブラナ科だけでなく緑の葉野菜も低リスク群のほうが多く食べていました。ところが収入や喫煙などを調整すると、葉野菜の差は統計的に有意ではなくなり、アブラナ科だけが残りました。また、野菜の総量はどちらの性別でもリスクと関係がありませんでした。ネギ属も黄・橙・赤の野菜も同様です。そして男性ではアブラナ科に、女性では豆類に、まったく関連が出ていません。
つまり見出しの「男は豆、女はブロッコリー」は、いくつも試した組み合わせのうち、調整後に基準をぎりぎり超えて残った2つを取り出したものです。ここが次の話につながります。
研究者本人がかけたブレーキ
New Atlas の記者ポール・マクルーア氏の取材に対して、オサリバン准教授はまずこう答えています。結果は興味深いが、観察研究という設計上、男女に本当の違いがある証拠だと解釈するのは慎重になりたい。サンプルサイズは控えめで、これは「仮説を生み出す段階」の研究であって、決定的な証拠ではない、と。
続けて、報道で一人歩きしやすい「72%」「85%」という数字についても、本人が釘を刺しています。この論文が報告しているのはオッズ比であって、個人の将来の病気のリスクが何%減るという話ではない。豆を1皿足せば男性の心臓病リスクが72%下がる、という意味ではない。そして信頼区間が広く、オッズ比の数値そのものには相当な不確かさがある、と。
この「信頼区間が広い」を、論文の数字で確かめてみます。
オッズ比と信頼区間の読み方
オッズ比は、ここでは「高リスク群に入りやすさの比」です。豆類を1皿多く食べる男性は、そうでない男性に比べて、高リスク群に入る「なりやすさ」が0.278倍だった。1から0.278を引いて72.2%低い、という言い方になります。比べているのは「今の時点で危険信号が2つ以上重なっているか」であって、「将来心臓病になるか」ではありません。この研究では病気の発症は一件も調べていません。
そしてもう一つ、論文には0.278の横に「95%信頼区間 0.088〜0.883」と書かれています。データのばらつきを考えると、本当のオッズ比はこの範囲のどこかにありそうだ、という幅です。男性の豆類は、いちばん控えめに見ても0.883、つまり12%ほど低い、いちばん強く見ると91%低い。幅は広いですが、範囲の上端が1を下回っているので「関連がある」とは言えます。
女性のアブラナ科はどうか。オッズ比0.151、信頼区間は0.023〜0.999です。上端の0.999は、1(=関連なし)まであと0.001しかありません。有意かどうかの目安になるp値も0.049で、境目の0.05をわずかに下回っただけです。「84.9%低い」という見出しの数字は、この幅の真ん中を取ったものにすぎず、本当の値は「ほとんどゼロ」から「9割以上」までのどこかにある、というのが論文の書いていることです。
大学のプレスリリースには、そもそもこの%の数字も、信頼区間も、p値も出てきません。「有意に少なかった」「1日1皿で大きくリスクが下がることと関連」とだけ書かれています。New Atlas の記事は論文からオッズ比を拾い、著者に直接聞いて幅があることまで書いています。同じ研究でも、どこまで書くかで受け取る印象がまるで変わります。
著者自身が挙げた、ほかの落とし穴
オサリバン准教授はほかにもいくつか、自分の研究の限界を挙げています。
一つは、この研究が「横断研究」だということ。食事も血液検査も同じ時期に一度だけ測っているので、野菜を食べたから健康になったのか、健康的な生活をしている人がたまたま特定の野菜をよく食べているのか、区別がつきません。論文本文にも「逆の因果の可能性がある」と明記されています。
もう一つは、調整しきれない要因。野菜をよく食べる人は、よく眠り、定期的に健診を受けている可能性も高い。遺伝の影響もある。多くの要因を調整したとはいえ、全部を取り除けたとは言えない、と本人が話しています。
そして、性差の理由として論文が提案している「豆類の成分は男性ホルモンに、アブラナ科の成分は女性ホルモンに強く働くのかもしれない」という説明についても、もっともらしいと思うが、直接の証拠はない、と言い切っています。腸内細菌の関与も候補に挙げつつ、あくまで今後調べるべき方向として。
研究者が自分の論文の結果について、これだけ並べて留保を付けるのは珍しいことではありません。ただ、大学の広報が韻を踏んだ見出しを付けて売り出したあとに、当の責任著者が取材で一つずつブレーキを踏んでいる構図は、健康ニュースがどう作られるかを見せてくれる貴重な例です。
この研究から持ち帰れること
では、この研究は何の役にも立たないのか。そうでもありません。
まず、いちばん固い数字は野菜の話ではなく、22歳の約19%が、すでに血圧・腹囲・血糖・脂質の危険信号を2つ以上抱えていたことです。これは食事アンケートの精度に左右されない、健診の実測値です。オサリバン准教授も、心臓や代謝の病気のリスクは中年になって突然始まるものではなく、もっと早い段階から進んでいる、と強調しています。
次に、野菜を食べること自体を疑う理由は何もありません。この研究で言えるのは「野菜の総量とは関係が出なかった」ことまでで、野菜が無意味だという話ではありません。また、豆類やアブラナ科の野菜が健康によいことは、もっと大きな研究で繰り返し示されてきています。この論文の新しさは「若い人でも」「男女で違うかもしれない」という部分で、そこがまだ仮説だ、というだけです。
研究チームが次に必要だと書いているのは、同じ人たちを追跡して22歳のときの関連があとまで続くかを見ること、そして実際に特定の野菜を増やしてもらって数値が変わるかを試すランダム化試験です。それが出てくるまで、「男は豆、女はブロッコリー」は面白い仮説として覚えておけば十分です。
健康研究のニュースを見たら、記事にある「〇〇%低下」のそばに、対象人数、横断か追跡か、そして信頼区間の幅が書かれているかを探してみてください。書かれていなければ、元論文を開く。この論文はオープンアクセスで、誰でも無料で全文が読めます。今回の数字も、すべてそこから拾ったものです。
出典
McNamara N, Blekkenhorst LC, Mori TA, Beilin LJ, O’Sullivan TA. “Higher legume and cruciferous vegetable intakes are associated with lower cardiometabolic risk in young adults: a cross-sectional study.” Nutrition, Metabolism and Cardiovascular Diseases, Vol. 36, Issue 8, 104709(2026年8月、オンライン公開2026年3月20日、オープンアクセス)
https://doi.org/10.1016/j.numecd.2026.104709
Paul McClure, “Broccoli for women, beans for men? Study reveals sex split over healthy diets,” New Atlas, 2026年8月23日
https://newatlas.com/diet-nutrition/study-reveals-sex-split-healthy-diets/
Edith Cowan University プレスリリース “Beans for blokes, broccoli for women: Which veggies protect young hearts?”(EurekAlert! 経由、2026年7月8日)
https://www.eurekalert.org/news-releases/1136157


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