文明を1,000年走らせたら10通り中7通りが毎回崩れた——差を生んだのは消費の速さと立ち直る力

スポンサーリンク

宇宙はこれだけ広くて古いのに、ほかの文明からの信号がひとつも見つからない。「フェルミのパラドックス」と呼ばれるこの問いには、大きく分けて2つの答え方があります。ひとつは、知的生命そのものがめったに生まれないという説。もうひとつは、生まれはするけれど技術文明は長続きせず、環境の破壊や争いで自滅してしまうという説です。

スペインの宇宙生物学センター(CAB、CSIC-INTA)と米ブルー・マーブル宇宙科学研究所に所属するセリア・ブランコ氏らは、後者の「短命説」に含まれている思い込みに目を向けました。文明は一度崩れたらそれで終わり、という前提です。地球の歴史を見ても、文明は数百年単位で興っては衰え、また別の形で立ち上がってきました。それなら技術文明も、点いたり消えたりをくり返すものとして扱ったほうが実態に近いのではないか。この考えを、地球の今後1,000年を題材にした計算モデルで確かめたのが、今年4月にarXivで公開された論文です。まだ査読を受けていないプレプリントで、9月にScienceAlertが取り上げました。

10通りの未来と1,000年の試算

土台になっているのは、共著者のジェイコブ・ハック゠ミスラ氏らが2025年に発表した「1,000年後の地球文明」の10通りのシナリオです。資源が足りているか、統治は一人・少数・全員のどれか、社会の構造は階層型か分散型か。この組み合わせで未来を描き分けたもので、監視社会の「ビッグ・ブラザー」、規制のない競争社会「ワイルド・ウェスト」、高度な技術と高いリスクが同居する「ダモクレスの剣」、資源が豊富で平等な「黄金時代」、人と機械と自然が調和する「エデンの外へ」などが並びます。

今回の論文は、この物語に数字を与えました。モデルの部品は多くありません。文明は「技術の水準」と「資源の蓄え」の2つの量で表され、1年ごとに技術は少しずつ伸び、資源は一定のペースで減っていきます。資源がゼロになるか、毎年一定の確率で起きる外からの災厄(環境の破局や技術の暴走など)に当たると、文明は崩壊します。崩壊すると技術の一部が失われ、しばらく休眠したあと、資源が元の何割かまで戻って再出発する。この一巡が1,000年のあいだに何度でも起こりえます。

研究チームは、シナリオごとに数値を少しずつ揺らしながら200回ずつ計算を走らせ、「デューティ・サイクル」を求めました。1,000年のうち、文明が資源を保って技術的に動いていた時間の割合のことです。

毎回崩れた7通り、崩れなかった2通り

結果は、はっきり2つのグループに分かれました。10通りのうち7通りは、200回の計算のすべてで少なくとも一度は崩壊しています。一方、「黄金時代」と「エデンの外へ」は一度も崩れず、デューティ・サイクルは100%でした。残る1通り、人と技術が融合した「トランスヒューマニズム」は、およそ3回に2回は崩壊なしで1,000年を走り切り、稼働率は約99%です。

崩れた7通りの中身はかなり違います。「ビッグ・ブラザー」と「ダモクレスの剣」は、平均して200年前後で最初の崩壊を迎えました。前者は1,000年のあいだに10回近く崩れています。崩壊後の世界を立て直す途中という設定の「復興」は約7.5回崩れて、稼働率は57%。技術の拡大に突き進む「デウス・エクス・マキナ」は最初の崩壊こそ平均689年目と遅いものの、その後は途切れがちで91%でした。

いちばん低かったのは、自然の制約のなかで暮らす「大地とともに生きる」の約38%です。名前からは長持ちしそうに見えますが、モデル上の設定は、資源の蓄えが600、消費が年2.5、崩壊後の休眠が100年、戻ってくる資源は元の1割というものでした。基準値どおりに単純計算すると、最初の240年で蓄えを使い切り、100年休んでも戻るのは60だけ。それも24年で尽きて、また100年の休眠に入ります。動いている時間より止まっている時間のほうが長い文明です。

対照的なのが、拡大と崩壊と再生をくり返す「ウロボロス」です。崩壊は平均2回ほどで、稼働率は87%を保ちました。こちらは消費が年1.3、崩壊後に戻る資源が元の35%という設定で、同じ計算をすると最初の一区切りが600年あまり続き、70年の休眠のあとも200年以上動けます。崩れはするけれど、崩れ方に余裕があるわけです。

崩れなかった2通りの内訳

ここで「10通りのうち7通りは必ず崩れた」という数字を、少し引いて見ておく必要があります。崩れなかった「黄金時代」と「エデンの外へ」は、論文の設定表を見ると、資源の消費がゼロ、外からの災厄の確率もゼロです。著者ら自身が「崩壊しない条件を反映した理想化」と注記しています。つまり、計算してみたら生き残ったのではなく、崩れようのない設定を入れたら崩れなかった、という結果です。ほかのシナリオの数値も、実測データから決めたものではなく、各シナリオの物語と矛盾しないように著者らが割り当てた仮定だと明記されています。

ですから「7割の確率で文明は崩壊する」という読み方はできません。この研究で意味があるのは、崩れる・崩れないの内訳よりも、崩れる7通りのなかで何が稼働率の差を生んだのか、のほうです。

効いたのは消費の速さと回復の割合

研究チームは崩れる7通りについて、人の手で変えられそうな数値をひとつずつ動かし、結果がどれだけ変わるかを調べました。動かしたのは、資源を使う速さ、崩壊後に資源が戻る割合、休眠の長さ、外からの災厄の確率の4つです。

どのシナリオでもほぼ一貫して効いたのは、消費の速さと回復の割合でした。例外は「ダモクレスの剣」だけで、ここは災厄の確率(年あたり0.5%)がもともと高く設定されているため、それを下げるのがいちばん効きます。著者らはこの結果から、資源の消費を抑えることは、破局的な災厄のリスクを減らすことと少なくとも同じくらい重要かもしれない、と述べています。

もうひとつの発見は、効き方がなだらかではなかったことです。消費の速さも回復の割合も、ある値のあたりで稼働率が急に切り替わり、そこから離れたところでは数値を動かしてもほとんど変わりません。「ウロボロス」の基準値は、1,000年で2回崩れる領域と3回崩れる領域のちょうど境目近くにありました。回復の割合を15%以下にすると3回、20〜50%で2回、60%まで上げると1回。境目の近くにいる文明にとっては、わずかな改善が長期の行方を大きく変えることになります。

意外なところでは、崩壊のときに技術がどれだけ生き残るかは、結果にほとんど影響しませんでした。このモデルでは文明が動いているかどうかを資源の有無で判定しているので、当然といえば当然の帰結です。著者らは対策として電力網や通信網の分散も挙げていますが、少なくともこのモデルの指標のうえでは、技術を守ることより、資源を使い切らないことと取り戻せることのほうが稼働率を左右しています。

復旧キットという備え

回復の割合を上げる具体策として論文が挙げるのが「復旧キット」です。崩壊後の再建を早めるために、農業、素材、医療、発電、通信といった必要最小限の知識を選んで保管しておくもので、考え方の下敷きとしてルイス・ダートネル氏の著書『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』が引かれています。すでに動いている実例として紹介されているのが、ノルウェーのスヴァールバル世界種子貯蔵庫です。世界のほぼすべての国から集めた100万点を超える種子のサンプルが保管されていて、食料生産をやり直すための元手を崩壊の向こう側へ持ち越す役割を果たします。

ScienceAlertの記事では触れられていませんが、論文はもう一歩踏み込んでいます。キットを残しても、未来の人がそれを読めなければ役に立たない、という問題です。存在に気づいてもらえるのか、書かれた内容を正しく解釈してもらえるのか。これは、核廃棄物の処分場の危険を何千年も先の人にどう伝えるかという研究と同じ種類の難問で、著者らはその知見が使えるとしています。休眠の長さを縮める手立ては、まだほとんど研究されていない領域だとも書かれています。

点滅する文明と宇宙の静けさ

話をフェルミのパラドックスに戻します。銀河系にいる検出可能な文明の数を見積もる「ドレイクの方程式」には、文明が検出可能でいる期間を表す項Lがあります。これまでは、文明が生まれてから終わるまで信号を出し続けるものとして扱われてきました。研究チームは、このLに稼働率を掛けた「実効的な検出可能期間」に置きかえることを提案しています。寿命が同じ1,000年でも、稼働率が38%なら見つけられる期間は380年分しかありません。

さらに、点滅している文明どうしが互いに気づける確率は、両者の稼働率の掛け算になります。仮に38%の文明が2つあれば、同時に動いている割合は約14%です。文明がたくさん生まれていたとしても、その大半が崩れやすい道をたどって消えている時間が長いのなら、宇宙が静かに見えるのは不思議ではない、というのが著者らの見立てです。

ただし論文は、この説明の弱点も自分で指摘しています。技術の痕跡は、それを作った文明より長く残ることがあるからです。大気中のフロン類は数十年から百数十年、人工衛星の軌道上の残骸はもっと長く残ります。そうした痕跡が何千年も消えないのだとすると、宇宙の静けさを文明のもろさだけで説明するのは難しくなります。

解釈上の留意点

この論文は査読前のプレプリントで、内容は今後の査読で変わる可能性があります。

モデルの単純化も大きく、著者ら自身が限界として列挙しています。技術が毎年同じ幅で伸びるという仮定は、汎用AIの登場やエネルギー技術の飛躍のような不連続を扱えません。資源の蓄えは外から与えた固定値ですが、現実には小惑星採掘や核融合のように、技術が進めば使える資源の範囲そのものが広がります。前に触れたとおり、各シナリオの数値は観測にもとづくものではありません。また、シナリオはどれも地球の社会をもとに組み立てられているので、まったく違う成り立ちの地球外文明にそのまま当てはまる保証もありません。

人類が崩壊と再起動をくり返すという予測でもなければ、宇宙人が暗がりに潜んでいる証拠でもありません。どの数値が長期の粘り強さを左右するのかを見比べるための思考の道具、と受け取るのが妥当です。計算に使ったコードはGitHubで公開されているので、設定を変えて確かめることもできます。

論文は、文明の長期的な行方は運よりも設計の問題であるようだ、という趣旨の一文で結ばれています。モデルの設定を決めたのが著者ら自身であることを割り引いても、資源を使うペースと、崩れたあとに取り戻せる量。この2つが結果を分けたという点は、地球の上の話としてそのまま読めます。

出典

元論文(arXiv・査読前のプレプリント、無料で読めます):Celia Blanco, Jacob Haqq-Misra, George Profitiliotis “Projections of Earth’s Technosphere: Civilization Collapse-Recovery Dynamics and Detectability”(2026年4月15日投稿)arXiv:2604.13774

解説記事(ScienceAlert):A 1,000-Year Simulation Reveals What Could Save Civilization From Collapse

コメント

タイトルとURLをコピーしました