強い風が吹くと、ドローンはたいてい降ろして帰るしかありません。荷物を運ぶ機体でも、空撮用のカメラ機でも、風に揺すられると姿勢を保てなくなるからです。ところが同じ空で、羽ばたきもせずに一点に止まり続ける生き物がいます。風に向かってぴたりとホバリング(羽ばたかずに空中の一か所にとどまる飛び方)するチョウゲンボウ(小型のタカの仲間)です。
オーストラリアのRMIT大学と英ブリストル大学の研究チームが、このチョウゲンボウをそっくり模したロボットを作り、風洞(強い風を人工的に起こす実験装置)の中で飛ばしました。狙いは、鳥が乱れた空気の中で翼と尾をどう使って姿勢を保っているのかを、力の数字として正確に測ること。そこから見えてきたのは、いまのドローンにはまねできない、翼と尾の巧みな連携でした。生き物のしくみを設計に取り込むバイオミメティクス(生物に学んだものづくり)の一例です。

ドローンが風に弱い理由
ドローンが風で落ち着きを失うのは、ちょっとした不便では済みません。設計上の根本的な壁だと研究チームは指摘します。やっかいなのは、横からの風より「下から突き上げる/上へ抜ける」タイプの縦方向の突風です。論文によれば、同じ強さでも縦方向の突風は、小さな翼に横方向の25〜100倍もの揚力(翼が生む上向きの力)の変動を生みます。翼の形にもよりますが、桁が二つ変わることもあるわけです。
しかもこの縦の乱れは、地面に近い低空でいちばん多く起きます。まさに小型の無人機、いわゆるsUAV(小型無人航空機。空撮・捜索救助・農業の監視・荷物配送などに使われる小さなドローン)が飛ぶ高さです。気候変動でこうした大気の乱れは今後さらに増えると見られていて、放っておける問題ではありません。
チョウゲンボウとドローンの差
自然界は、この問題を何百万年もかけて解いてきました。チョウゲンボウは風に向かって静止する飛び方の名手です。研究チームはまず、RMITの風洞の中でモーションキャプチャ(体の動きを立体的に記録する技術)を使い、生きたチョウゲンボウが本物の乱気流の中でどう動くかを細かく記録しました。
すると、鳥と機械の差はかなり大きいことが分かります。チョウゲンボウが飛行中に姿勢を微調整できる方向の数は22以上。いっぽう典型的なドローンはたったの4です。おまけにチョウゲンボウは、重さの置き場所がうまい。体の重量が胴体に集まっているため、突風を受けたときに体をひねって立て直す速さが、同じくらいの大きさのドローンのおよそ2倍にもなります。ドローンは機体のあちこちに重さが散っていて、回すのに手間取る——というわけです。
翼と尾の連携という答え
ここからが本題です。研究チームは観察だけで終わらせず、実際に働く力を測るために、本物の個体をCTスキャン(体の内部を輪切りに撮影する検査)した形をもとに、精巧なロボットのレプリカを組み上げました。翼の動き(手首と肘の伸ばし)と尾の動きを再現し、風速7メートル毎秒(時速にすると約25キロ、自転車で少し飛ばしたくらいの風)の風洞に立てて測定します。生きた鳥ではできない「どの動きがどれだけ安定に効いているか」を、ロボットなら数字で切り分けられるのが強みです。
鍵は、翼と尾を「別々」ではなく「いっしょに」動かすことにありました。実際の鳥がホバリング中にやるように、翼と尾を同時に広げると、生まれる揚力は二つの動きを単純に足した以上に大きくなります。しかも、それぞれが引き起こす機首の上下の傾き(ピッチング)は、たがいに打ち消し合う。つまりチョウゲンボウは、飛ぶ姿勢をまったく変えないまま、縦の突風に対抗する揚力だけを手に入れているのです。ふつうのドローンがモーターの出力や舵(かじ)の角度をいじって揚力を増やそうとすれば、その反動で必ずどこかへ傾いてしまうのとは対照的です。
尾は「安定度のダイヤル」としても働いていました。扇のように大きく広げると、機首を上下に振ろうとする突風に強く逆らい、乱れをほぼ自動で打ち消します。逆にたたむと機体はほぼ中立になり、自己修正の力は弱まるかわりに、鋭く向きを変えやすくなる。チョウゲンボウはこの二つの設定を、飛びながらリアルタイムで行き来します。位置を保ちたいときは安定寄りに、方向を変えたいときは機動寄りに。いまのドローンには、飛行中にこれをやってのけられるものはありません。
羽に埋め込まれたセンサー
鳥の強みは、翼と尾の動かし方だけではありませんでした。チョウゲンボウの羽は、空気から強い力を受けると自動的に立ち上がり、翼の表面から気流がはがれる(失速につながる)のを防ぎます。さらに、フィロプルーム(毛のように細く、根もとに神経がつながった羽)が、振動や気流のはがれる位置をその場で感じ取る。関節にあるセンサー(機械受容器=力や動きを感じる受容体)は、体にかかる負荷をたえず見張っています。こうした感覚のしくみが体じゅうに散らばって働いているわけで、いまのsUAVには、これに近い分散したフィードバックの仕組みを持つものはありません。
実験室から空までの距離
では、明日にでも風に強いドローンが飛ぶのかというと、そこまで単純ではありません。研究チーム自身が、ラボから空へ至る道は短くないと認めています。チョウゲンボウの安定は、どれか一つの得意技から来るのではなく、ここまで挙げてきたしくみが同時にかみ合って生まれるもの。それを軽くて安価な機体でそっくり再現することこそが、本当の難所だからです。
それでも、進む方向ははっきりしました。チームの次の一手は、チョウゲンボウが周りの空気をどう感じ取っているか——突風がぶつかる前に、その気配を先読みしている可能性——を調べることです。これがつかめれば、乱れが来る前に身構える「予測型」の制御につながるかもしれません。当面は小型の無人機が対象ですが、いずれは得られた知見を整理して、大型の機体にも応用したいとしています。風と戦うのではなく、鳥のように風を乗りこなす小型機。そこへ向けた設計図の一枚が、風洞の中のロボットから引き出された、というわけです。
出典
Mario Martinez Groves-Raines et al., “Stability and control benefits of coupled wing and tail morphing in kestrel wind-hovering flight explored using a robot replica,” Journal of The Royal Society Interface, 2026. DOI: 10.1098/rsif.2025.0930
Matthew Penn et al., “Bridging the Gap: A Review of Gust Mitigation in Birds and Small UAVs,” Journal of The Royal Society Interface, 2026. DOI: 10.1098/rsif.2025.0978
論文(ロボットによる翼と尾の連携の検証/Journal of The Royal Society Interface)
論文(鳥と小型UAVの突風対策レビュー/Journal of The Royal Society Interface)
Robotic bird helps uncover the mysteries of flight turbulence(RMIT大学プレスリリース/EurekAlert!)
Robotic bird targets drones’ biggest aerodynamic shortcoming(New Atlas)


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