骨1個で覆った定説——ニュージーランドの巨大ガチョウは「新参者」だった

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ニュージーランドの化石ガチョウが、新種として名前をもらいました。もとになった骨は、たった1個。多く見積もっても2個です。それだけの材料が、この国の鳥の進化について数十年語られてきた筋書きを、ひとつ引っ込めさせることになりました。

引っ込んだのは、「かつてこの島にいた世界最大のガチョウは、1400万年以上前からずっとここにいた系統だ」という説です。

亜熱帯だったころの巨大湖

舞台は、南島セントラル・オタゴ。いまは乾いた丘陵地帯ですが、1900万年前から1400万年前——中新世(ちゅうしんせい)と呼ばれる時代のはじめから半ばにかけて——この一帯は巨大な湖の底でした。マヌヘリキア湖といいます。広さは5600平方キロメートル。ニュージーランド最大のタウポ湖の10倍です。

当時のニュージーランドは、いまよりずっと暖かい亜熱帯の土地でした。湖のほとりにはワニの仲間がいて、カメがいて、コウモリがいて、ニワシドリがいて、モアやキーウィの初期の親戚もいました。そしてカモやハクチョウのなかまが、とにかくたくさんいました。

この失われた生態系は、現在のセント・バサンズという小さな集落の近くに残る化石層から知られています。中新世の記録としては世界でも屈指の豊かさで、ニュージーランドの「暖かかったころ」をのぞける、ほとんど唯一の窓です。

11個の骨の再検討

今回の研究は、新しい化石を掘り当てた話ではありません。すでに引き出しに入っていた骨を、もう一度ちゃんと見直した話です。

オタゴ大学、ニュージーランド国立博物館テ・パパ・トンガレワ、そしてケンブリッジ大学の共同チームは、セント・バサンズからこれまでに出て「ガチョウのものだ」と分類されてきた骨11点を集め直しました。そのうえで、同じ地層から出ている他の大型のカモ科の骨や、テ・パパが所蔵する現生・化石をあわせた幅広い骨格標本と、一点ずつ突き合わせていきます。

ここが今回のミソです。以前の研究は、比較のもとになる標本が限られていました。手元の少ない見本と似ているかどうかで判断すれば、「似ている」という結論は出やすくなります。比べる相手を大きく増やすと、その「似ている」がどこまで確かなのかが試される。

結果、11点はこう振り分けられました。4点は、この地層ではおなじみのツクシガモの仲間(Miotadorna sanctibathansi)のもの。5点は大型のカモ科の鳥で、おそらくすでに知られている種のもの。そして残る1点、あるいは2点だけが、どれにも当てはまりませんでした。小型のガチョウほどの大きさの、まだ誰も記載していない鳥です。

チームはこれを新属・新種とし、Meterchen luti(メテルヘン・ルティ)と名づけました。属名の Meterchen は古代ギリシャ語で「マザーグース」。種小名の luti はラテン語で「泥の」。マザーグースの童謡になぞらえて、化石層の泥のなかから古いガチョウが起き上がってくる——という命名です。通称は「セント・バサンズ・グース」。これで、この湖から見つかったカモ科の鳥は10種になりました。

巨大ガチョウの祖先をめぐる旧説

ここからが本題です。ニュージーランドには、つい最近まで飛べない巨大なガチョウがいました。Cnemiornis(クネミオルニス)といって、立ち上がれば1メートル、体重は18キログラムに達しました。世界最大のガチョウです。人がこの島に着いたあと、狩猟と、持ち込まれた動物に襲われて、まもなく姿を消しました。

この巨鳥がどこから来たのかについて、以前の研究は、セント・バサンズの骨のいくつかが Cnemiornis の親戚——オーストラリアのハイイロガン(ケープバレン・グース)を含むグループ——に近い、と見ていました。もしそうなら、この系統は1400万年以上前からずっとニュージーランドにいたことになります。古くからの住人だ、という筋書きです。

ところが、この見方はDNAの証拠と食い違っていました。遺伝的な解析は、Cnemiornis の祖先がオーストラリアから渡ってきたのは、せいぜい700万年前ごろだと示していたのです。1400万年と700万年。倍近い開きがあります。旧説を支持する側は、この遺伝的な証拠のほうを採りませんでした。

そこで今回の再検討です。11点の骨を広い比較対象と突き合わせたところ、ハイイロガンのグループとはっきり結びつく特徴を持つ骨は、ひとつも見つかりませんでした。つまり、「この系統は1400万年前からいた」と言うための化石側の根拠が、手元から消えたことになります。残るのは、700万年前に渡ってきたという遺伝の側の答えだけ。化石とDNAが、ようやく同じことを言い始めた、というのが今回の結論です。

では、新種の Meterchen luti 自身はどうなったのか。この鳥の祖先も、たしかに1400万年より前にニュージーランドへたどり着いていました。ただし、その血筋はそこで途絶えています。子孫は残りませんでした。古い住人はいた。でも、いまにつながってはいなかった、ということです。

遅れて来て、急いで大きくなった鳥たち

この話は、ニュージーランドの鳥をどう見るかという、もう少し大きな絵につながっています。

研究チームによれば、大型の鳥のいくつかは、意外なほど最近この島に来ています。タカヘ、イールズハリアー(フォーブスハリアーとも呼ばれます)、そしてあの巨大なハーストイーグル——いずれも、渡ってきたのは400万〜500万年前のことです。地質学の時間感覚では、つい先ごろの出来事といっていい。

誤解のないように書いておくと、ニュージーランドの鳥がみんな新参というわけではありません。モアやキーウィの親戚は、1900万年前の湖のほとりにもうそこにいました。今回わかったのは、あくまで巨大ガチョウという一系統についてです。それでも、ここには考えさせられる含みがあります。

Cnemiornis の祖先が渡ってきたのが700万年前だとすると、飛ぶ力を捨て、体重18キロまで育ち上がるのに使えた時間は、それだけしかなかったことになります。島に閉じ込められた鳥は、驚くほどの速さで姿を変える——その実例が、また一つ増えた。ニュージーランドの巨鳥は、古くからいたから大きくなったのではありませんでした。遅れて着いて、島で急いで大きくなったのです。

この島の鳥相は、太古から手つかずで残された「生きた化石の博物館」ではなく、渡来と絶滅がくり返された入れ替わりの結果だった。研究チームが「思っていたよりずっと動きのある歴史だ」と言うのは、そういう意味です。

解釈上の留意点

盛りすぎないように、限界も書いておきます。

まず、新種 Meterchen luti は骨1点(多くて2点)の断片的な標本にもとづいています。新しい属を立てるには心もとない材料であることは、研究チーム自身も認めているところで、今後もっと骨が出てくれば位置づけが動く余地はあります。

もうひとつ。「ハイイロガンのグループにつながる骨は見つからなかった」というのは、「そういう鳥はいなかった」の証明ではありません。いま手元にある標本のなかに、確かな証拠がない、というところまでです。将来セント・バサンズから別の骨が出れば、話がまた動く可能性はあります。

そのうえで、これは査読を経て学術誌に載った研究で、比較のもとになる標本を大きく広げたぶん、以前の判断より足場が固い。少なくとも、化石とDNAが正面から矛盾していた状態は解消されました。

出典

Alan J. D. Tennyson, Elizabeth M. Steell, Pascale Lubbe ほか、“A review of fossil goose (Aves: Anserinae) records from the Miocene St Bathans deposits, New Zealand, with the description of a new species,” Historical Biology, 2026年2月17日オンライン公開(査読済み)。DOI: 10.1080/08912963.2025.2601236

原論文(Historical Biology)

Meet the ‘Old Mother Goose’ from NZ’s subtropical prehistoric past(The Conversation・研究者本人による解説)

Rare fossil goose rewrites the story of New Zealand’s giant birds(ScienceDaily・オタゴ大学プレスリリース)

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