ご先祖は卵を産んでいた——2億5000万年前の胚化石が示す哺乳類の系統

古生物学
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哺乳類のご先祖は、卵を産んでいた——長いあいだ「たぶんそうだろう」と言われながら、決定的な証拠がなかった話に、ようやく物証が出ました。南アフリカで見つかった約2億5000万年前の小さな化石が、卵の中で丸まったまま死んだ胚だと確認されたのです。哺乳類につながる大きな系統(単弓類)で、卵の中の胚が見つかったのはこれが初めてです。

主役はリストロサウルスという動物。恐竜より前の時代に、史上最悪の大量絶滅を生き延びて、地上にあふれかえった生き物です。

リストロサウルスという生き残り

約2億5200万年前、ペルム紀の終わりに、地球の生き物の大半が死に絶える出来事が起きました。ペルム紀末の大量絶滅、いわゆる「大絶滅」です。その荒れ果てた世界で、なぜか爆発的に増えたのがリストロサウルスでした。

見た目は、ずんぐりした胴体に、樽のような体つき。歯はほとんどなく、口の先はくちばし状で、上あごから牙が2本だけ突き出しています。植物を食べる動物で、体の大きさの見積もりは研究によって幅があり、体重にして9キロ弱とするものから50キロとするものまであります。豚くらい、と思っておけばだいたい合っています。南アフリカのカルー盆地では、三畳紀初期の地層を掘ると、とにかくこの動物ばかりが出てきます。

ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。リストロサウルスは「哺乳類の直接の祖先」ではありません。哺乳類につながる系統(単弓類)の中で、途中で枝分かれした親戚筋にあたります。ただし、哺乳類が生まれるよりずっと手前で分かれた枝なので、「哺乳類の仲間のうち、かなり古い段階の姿」を教えてくれる存在ではあります。そこが今回の発見の値打ちにつながります。

およそ180年見つからなかった卵

単弓類が卵を産んでいたはずだ、というのは、ずっと言われてきました。根拠は現生のカモノハシとハリモグラ(単孔類)です。この2グループは哺乳類でありながら卵を産みます。哺乳類の中に卵生が残っているなら、その前の段階の単弓類も卵生だったと考えるのが自然、というわけです。

ところが、証拠となる卵の化石がまったく出てこなかった。南アフリカのカルー盆地では、19世紀から180年近くにわたって単弓類の化石が掘り続けられ、大量の骨が見つかっています。同じ南アフリカの地層からは、恐竜の卵は胚が入った状態で見つかっている。それなのに、単弓類の卵だけが1個も出ない。

20世紀を代表する南アフリカの化石ハンター、ジェームズ・キッチングは、この状況に首をかしげました。1964年には「そもそも当時の単弓類は、卵を産んでいなかったのではないか」——つまり、すでに胎生(子を産む形)だったのではないか、という疑いまで口にしています。

もっとも、卵が出ない理由には見当がついていました。初期の卵は、殻が硬く石灰化しておらず、革のようにやわらかかったと考えられています。やわらかい殻は化石に残りにくい。だから、単弓類の繁殖のしかたは、ずっと「たぶん卵生」という状態のままでした。

胚と判断した根拠

今回の研究チームは、これまで見つかったリストロサウルスの中でとりわけ小さい3体を選び、CTとシンクロトロン放射光による高精細なスキャンにかけました。シンクロトロンは、非常に明るいX線を使って、石の中の骨を壊さずに細部まで写し取れる装置です。この3体の頭骨の長さは、34.5ミリ、43.0ミリ、44.0ミリ。いずれも生まれる前後の段階とみられます。

このうち最も小さいNMQR 3636という標本が、団子のようにきつく丸まった姿勢のまま、細長い塊の中に収まっていました。ただし、丸まっているだけでは決め手になりません。カルー盆地では、成体でも丸まった姿で埋まっている化石がざらに出るからです。

決め手になったのは、下あごでした。下あごは左右2本の骨からできていて、その先端どうしがくっついて(癒合して)はじめて、あごとして機能します。NMQR 3636では、そのつなぎ目に大きなすき間が空いたままだったのです。しかもシンクロトロンの画像で見ると、すき間のふちはなめらかで、化石になったあとに壊れたり削れたりした跡ではないことがはっきりしました。生きていたときから、そこは骨になっていなかった。

くちばしを持つ現生の動物——鳥やカメ——では、この下あごのつなぎ目は、卵の中にいる段階、それも発生の終盤で必ず閉じます。ケヅメリクガメでは、胚の45〜55日目のあいだに完全に癒合することが分かっています。つまり、つなぎ目が開いたままの個体は、まだ卵から出ていない。

ほかの特徴も同じ方向を指していました。上あごの牙が入る穴は空っぽで、牙の芽すらできていない(ほかの2体には芽がある)。腕や脚の骨の端は骨になりきっておらず、手首の骨は丸いまま。骨盤や仙椎はばらばらで、体重を支えられる状態ではありませんでした。もしこの状態で孵化していたら、あごが弱すぎて硬いものを噛めず、自力では食べられなかったはずです。つまりこの個体は、卵から出る前に死んだ胚だった——それが、丸まった姿勢の意味でした。

卵のサイズから読める繁殖戦略

骨が丸まってつくる輪郭から、卵の大きさも見積もれます。楕円体として計算すると体積はおよそ115立方センチ、重さにして約115グラム。鶏の卵(60グラム前後)の2倍近くあります。しかもこの数字は、骨格が不完全でつぶれていることを踏まえた「最低でもこれくらい」という控えめな見積もりです。

この卵は、体の大きさに対してかなり大きい部類に入ります。現生の動物では、卵が大きいことは、中身の黄身(卵黄)が多いことを意味します。栄養をたっぷり抱えて育った子は、孵化した時点でしっかり動けて、自分で餌を食べられる。こういう生まれ方を早成性(そうせいせい)と呼びます。ニワトリのヒヨコが生まれてすぐ歩き回るのに対し、スズメのヒナは裸で目も開かない——あの違いです。リストロサウルスは前者だったことになります。

これは、大絶滅のあとの世界では強みでした。乾ききった環境では、卵は水分を失いやすい。大きい卵は体積のわりに表面積が小さいので、乾きにくい。しかも当時のカルーには、リストロサウルスを襲えるような大型の捕食者がほとんどおらず、餌を奪い合う相手もいなかった。子どもの数を減らしてでも、一つひとつを大きく丈夫に産む戦略が通用する状況だったわけです。

授乳の起源との関係

ここから話は、哺乳類の看板ともいえる「母乳」につながります。

母乳は、最初から子に栄養を与えるために生まれたのではない、と考えられています。有力なのは、皮膚からの分泌物が起源だという説です。やわらかい殻の卵は乾燥に弱く、カビや細菌にもやられやすい。親が卵を湿らせ、守るために出していた分泌物が、やがて栄養を含むようになり、母乳になった——という筋書きです。

この説は、「哺乳類の祖先の系統は卵を産んでいた」という前提の上に成り立っています。もし単弓類がもともと卵生でなく、カモノハシたちの卵生が後から独立に生じたものだったなら、話は根本から崩れる。だからこそ、卵生の物証が長いあいだ求められていました。

今回の化石は、その土台を直接支えます。さらに卵の大きさから、リストロサウルス自身は母乳を出していなかったこともうかがえます。カモノハシやハリモグラの卵は、体のわりに小さい。黄身が少なくてすむのは、孵化後に母乳で補えるからです。リストロサウルスの卵はそれと逆で、黄身をたっぷり詰めた大きな卵でした。母乳に頼らず、卵の中の栄養だけで子を育てる段階だった、ということになります。

つまり、この化石が示すのは「哺乳類の系統は、まず大きな卵を産み、子は自力で歩き出した」という、母乳が生まれる前の姿です。授乳という仕組みが、どの段階から積み上がっていったのかを測るための、目盛りの原点が一つ手に入った、と言えます。

解釈上の留意点

断っておくと、卵の殻そのものは残っていません。骨の姿勢・未発達な骨の状態・下あごの未癒合という証拠を積み重ねて「卵の中にいたはずだ」と結論している、という構図です。研究チーム自身も、丸まった姿勢だけでは根拠にならないと明記しています。決定的な材料である下あごの未癒合は、鳥とカメでの発生を根拠にした推論であり、単弓類でも同じ順番で骨ができるという前提が置かれています。

標本が1点しかないことも、頭に置いておきたいところです。卵の大きさの見積もりも、成体の体重推定に9キロ弱から50キロまで幅があるため、比較の結果はその幅の中で読む必要があります。今後、同じような胚化石がいくつも出てくれば、話はもっと固まります。

それでも、180年間なかった一枚がようやく埋まったことに変わりはありません。カモノハシが卵を産むのは「哺乳類のくせに変わっている」のではなく、「昔のやり方をそのまま残している」のだと、化石が言っている。私たちの遠い親戚は、卵の中で丸くなって、孵る日を待っていました。

出典

Julien Benoit, Vincent Fernandez, Jennifer Botha, “The first non-mammalian synapsid embryo from the Triassic of South Africa,” PLOS ONE 21(4): e0345016, 2026年4月9日公開(査読済み・オープンアクセス)

The first non-mammalian synapsid embryo from the Triassic of South Africa(PLOS ONE 原論文・全文無料)

Mammal ancestors laid eggs, and this 250-million-year-old fossil finally proves it(ScienceDaily)

Embryo fossil found in South Africa is world’s oldest proof that mammal ancestors laid eggs(Phys.org・研究者自身による解説)

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