細い脚をゆらゆらと動かす、あの地味な虫。日本ではザトウムシと呼ばれ、英語では「daddy longlegs」や「harvestmen」と呼ばれる生き物です。落ち葉の上をのんびり歩いている姿からは、とても捕食者には見えません。ところが南米の熱帯雨林で、このザトウムシが自分より大きな生きたカエルを捕らえて食べている様子が、写真とともに報告されました。
しかも、毒はいっさい使っていません。報告は査読誌Ecology and Evolutionに掲載された研究(Calvache ほか、2026年)で、地味な見た目とのギャップに、研究者自身も驚いたといいます。

そもそもザトウムシは「クモ」ではない
まず押さえておきたいのが、ザトウムシはクモではないという点です。脚が8本あって、なんとなくクモの仲間に見えますが、分類上はオピリオネス(Opiliones)という別のグループで、どちらかといえばサソリやダニに近い間柄です。
見分け方はいくつかあります。クモは頭胸部と腹部のあいだにくびれ(いわゆる「くびれ」)がありますが、ザトウムシは体がひとつの丸い塊に見えます。目もクモのように複数あるわけではなく、多くの種は2つだけ。そして糸を出さず、網も張りません。毒腺も持っていません。世界で6,600種あまりが知られていますが、その生態はまだよく分かっていない部分が多い生き物です。
「文献ではよく、ザトウムシは雑食で、動きが遅く、力も弱いと書かれている」——研究に関わった研究者のひとり、ウルグアイ共和国大学のルイス・フェルナンド・ガルシア氏はそう語っています。つまり、これまでは「他の動物に食べられる側」だと思われてきたわけです。
自分より大きなカエルを、毒なしで
今回の研究チームは、南米の森でザトウムシ(Cranaidae科)がカエルを捕食していた4つの事例を検討しました。舞台となったのはエクアドルやコロンビアの熱帯林で、標本を採集したわけではなく、証拠はすべて現地で撮影された写真にもとづいています。
驚くのはカエルのサイズです。獲物のカエルは、捕らえているザトウムシと同じくらい、種によっては体サイズの1.3倍近くにもなっていました。捕食者より大きい獲物を、毒も使わずに押さえ込んでいたことになります。
さらに、写真のなかにはカエルがまだ動いている、つまり生きたまま食べられているとみられるものもありました。これがもし死んだカエルをあさっていた(スカベンジ)だけなら、それほど不思議ではありません。しかし生きたカエルを取り押さえていたとなると、ザトウムシは能動的に「狩り」をしている可能性が出てきます。無脊椎動物が自分より大きな脊椎動物を狩る——教科書の食物連鎖のイメージとは、上下が逆転した構図です。
どうやって捕まえているのかは、まだ謎
いちばんの謎は、毒も持たず、動きもすばしっこくないザトウムシが、どうやって跳ねて逃げるカエルを捕まえているのか、という点です。
研究チームが有力視しているのは、口の近くにある「触肢(しょくし/ペディパルプ)」です。この種のザトウムシの触肢はトゲが並んだ鉤爪のようになっていて、カエルの体をがっちり挟み込んで押さえつける道具として働いているのではないか、というわけです。カエルの動きを封じる急所のような部位を狙っている可能性も指摘されています。
もっとも、捕まえられたカエルの側の事情もはっきりしません。眠っていた、弱っていた、あるいは怪我をしていたカエルが狙われた可能性もあります。ガルシア氏自身、「カエルが抵抗しなかったのが、押さえ込まれたせいなのか、もともと弱っていたせいなのか、その両方なのかは判断できない」と慎重に述べています。
留意点
おもしろい報告ですが、受け取り方には少し注意が必要です。
まず、証拠は写真によるもので、事例の数もまだ多くありません。「ザトウムシは日常的にカエルを狩る捕食者だ」と言い切れる段階ではなく、あくまで「こういうことも起きている」という観察の積み重ねです。どのくらいの頻度で起きているのか、種によってどう違うのかも、これからの課題です。
また、捕まえる仕組みについては前述のとおり仮説の段階で、確かめられたわけではありません。ザトウムシは夜行性で、真夜中すぎに活発になることもあり、人の目に触れにくいぶん、こうした行動はまだ観察されていないだけで、実はもっとありふれているのかもしれません。
なお、今回登場したカエルのなかには絶滅が危惧されている種も含まれていました。地味に見える生き物どうしの関係が、じつは生態系や保全を考えるうえでのヒントになることもある、という点も研究チームは指摘しています。
足元をのんびり歩いているザトウムシが、条件次第では自分より大きな相手を仕留めている。見た目だけでは、生き物の中身はなかなか分からないものです。研究の元になった論文は、Ecology and Evolution 誌のページで公開されています。


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