90歳を超えても元気な人が多い地域と、そのすぐ近くにある別の農村。住んでいる高齢者を比べたところ、はっきり差が出たのは食べているものでも運動量でもありませんでした。新しいことへの好奇心と、余暇に何時間使っているか。差はそこにありました。
イタリアのカリアリ大学のチームが、サルデーニャ島の高齢者125人を調べて報告したものです。2026年7月に査読誌へ掲載され、全文を無料で読むことができます。
ブルーゾーンとサルデーニャ島
ブルーゾーン(Blue Zone)は、90代や100歳超の人がとりわけ多いとされる地域を指す言葉です。イタリアのサルデーニャ島中東部のほか、日本の沖縄、ギリシャのイカリア島、コスタリカのニコヤ半島などが挙げられます。2004年の調査で、研究者が地図に青いペンで印をつけていったことが名前の由来です。

こうした地域の高齢者は、質素だけれどよく体を動かす暮らしをしていることが繰り返し報告されてきました。庭仕事や散歩といった適度な運動を続け、人づきあいが厚く、身の回りのことは自分でこなす。ただし、その長寿に効いているのが遺伝なのか、環境なのか、食事なのか、文化なのか、心のありようなのか。どれがどれだけ寄与しているのかを切り分けるのは難しい、というのが研究者たちの共通認識です。
今回のチームが目をつけたのは、性格でした。ブルーゾーンの高齢者については、レジリエンス(打たれ強さ・立ち直る力)や楽観性といった「そのときの心の状態に近い強み」がこれまでも調べられてきたのに、その土台にあるはずの性格そのものは、ほとんど手つかずだったからです。
隣り合う農村どうしの比較
やり方はシンプルです。サルデーニャのブルーゾーンに住む高齢者55人と、同じサルデーニャのブルーゾーン外にある農村に住む高齢者70人、合わせて125人(71〜101歳、平均80.1歳、女性71人・男性54人)に、いくつかの質問紙へ答えてもらいました。
比較として面白いのは、この二つのグループの条件がかなり近いことです。どちらも農業と牧畜で成り立ってきた伝統的な村で、暮らし向きに大きな差はありません。イタリアの国民保健サービスによって、医療は等しく無料で受けられます。参加者は施設ではなく自宅で暮らしている人に限られ、しかも「二世代以上前からその土地に住んでいる」ことが条件でした。よそから移り住んだ人を除くことで、生活習慣や文化のばらつきを抑えています。年齢や性別の分布もそろえてあり、喫煙や飲酒をする人の割合、庭仕事をしている人の割合にも差はありませんでした。
使ったのは、性格を測るビッグファイブ(外向性・協調性・誠実性・神経症傾向・開放性という5つの軸で性格をとらえる考え方)の簡易版と、健康に関わる生活の質を測るEQ-5D-5L、そして心理的ウェルビーイングの質問紙です。最後のものは、生活への満足感、感情のやりくり(自分の気持ちを理解し、人と分かち合う力)、コーピング(困りごとに向き合って乗り越える力)の3つを測ります。加えて、趣味や活動に週何時間くらい使っているかも聞いています。
質問紙は参加者の自宅の静かな部屋で、検査者が声に出して読み上げ、答えを書き取る形で実施されました。全部で50分ほど。高齢の参加者が途中で疲れてしまわないよう、性格の測定にはわずか10項目の短い尺度が選ばれています。
差が出た三つの項目
年齢の影響を差し引いて二つのグループを比べたところ、統計的にはっきり差が出たのは3つでした。開放性、コーピング、そして感情のやりくり。いずれもブルーゾーン側が高く出ています。
開放性は、ビッグファイブのなかで「新しいものへの好奇心と受け入れやすさ」を表す軸です。知的なこと、創作、美しいものに対して、面白がって近づいていけるかどうか。ブルーゾーンの高齢者は、この傾向が強く出ました。
一方で、健康に関わる生活の質(体の動き、痛み、不安の少なさなどから測ります)には、二つのグループのあいだで差がありませんでした。性格の残り4つの軸にも差はありません。神経症傾向(くよくよしやすさ、気持ちの揺れやすさ)も、どちらのグループも中くらいの水準で並んでいました。
つまり、ブルーゾーンの人たちが「体が丈夫で気楽な人ばかり」だったわけではありません。差がついたのは、新しいものへの構えと、困りごとへの向き合い方、そして気持ちの扱い方でした。
余暇に費やす時間の開き
もう一つ、はっきり差が出たのが活動時間です。頭や体を使う余暇活動に費やす時間は、ブルーゾーンの高齢者が週11.3時間、ブルーゾーン外が週6.8時間でした。1日あたりに直すと、1時間半強と1時間弱の違いになります。この開きは、教育年数や年齢では説明がつきませんでした。

この数字は、125人全体で見た相関の分析ともつながっています。開放性が高い人ほど余暇活動に長い時間を使っていて、心理的ウェルビーイングも高い。誠実性(きちんとしていて、自分を律して物事を進める傾向)が高い人はウェルビーイング全体と生活満足度が高く、協調性が高い人は生活満足度が高い。ただし、事前に予想されていた外向性とウェルビーイングの関係だけは、今回は見られませんでした。
自分の健康感を左右していたもの
研究チームが当初立てていた予想は、「開放性・誠実性・協調性・外向性が高く、神経症傾向が低い人ほど、健康に関わる生活の質も高いはずだ」というものでした。ところが結果は違います。5つの性格特性のうち生活の質と関係していたのは、神経症傾向だけ。くよくよしやすい人ほど自分の生活の質を低く感じている、という一つの関係しか残りませんでした。
代わりに生活の質と結びついていたのは、コーピングでした。ストレスにうまく対処できていると感じている人ほど、自分の健康状態を良いものとして受け止めていたのです。
研究チームはこう解釈しています。人生の後半になると、自分の体の調子をどう感じるかは、生まれ持った性格の傾向よりも、実際の身体の状態や、周りからどれだけ支えられているかに左右されるようになる。そのうえで効いてくるのが、ストレスをさばけているという感覚のほうだ、と。性格そのものよりも、日々の困りごとにどう向き合っているかが、自分の健康感を決めていた。そういう話になります。
活動的な暮らしという手がかり
この結果を、研究チームは老年学の二つの考え方に結びつけています。
一つは活動理論。年をとっても活動を続けていることが、心の健康を保つという見方です。頭と体を使う時間が長いブルーゾーンの高齢者は、まさにこれを地でいっています。
もう一つは「補償を伴う選択的最適化」と呼ばれるモデルで、こちらのほうが今回の結果をよく説明します。年をとれば、できることは確実に減っていく。そのとき、自分の限界を正しく把握したうえで、まだうまくできて、しかもやっていて嬉しいことに絞り込む。減った分は、人に助けを求めるなど別のやり方で補う。そうやって残った力を、地域のなかで人と関わり続けることに使う。ブルーゾーンの高齢者は、この動き方をしているように見える、というわけです。
もう一つ、興味深い指摘があります。神経症傾向は、両グループとも中くらいの水準にありました。ブルーゾーンの人たちは、その「気にしやすさ」を、高い好奇心と、感情の扱いのうまさと、人に助けを求めることをためらわない対処のしかたと同時に持っている。これは「健康な神経症傾向」と呼ばれる状態かもしれない、とチームは述べています。心配性が悪いほうへ転ばず、健康に気を配ったり、早めに手を打ったりする方向へ働いている、という見立てです。
応用として引き出せることは、意外と地味です。人生の最後の数十年で心の健康と自分の健康感を保つうえで、活動的な暮らしを保つことが効いている。サルデーニャのブルーゾーンでは、高齢者が人と一緒に頭と体を使う機会が日常のなかにあり、地域のなかで役割と目的を持ち続けている。それが効いているのではないか、と研究チームは書いています。
解釈上の留意点
ここは慎重に見ておきたいところです。まず、これはある一時点で調べた横断研究です。研究チーム自身が最初に断っているとおり、この設計では原因と結果の向きを決められません。好奇心があるから活動的に過ごせているのか、活動的に過ごせるだけ元気だから好奇心を保てているのか、区別がつかない。論文のなかで「促す」「守る」といった言葉が出てきても、それは関連があるという意味であって因果関係ではない、とわざわざ明記されています。
人数も125人と多くはなく、募集のしかたも知人づてでした。対象はサルデーニャの農村に限られ、しかも施設に入っておらず、認知機能が保たれた人だけが参加しています。ここに見えているのは元気な高齢者の姿であって、都市部の人、体が弱っている人、他の地域のブルーゾーンの人に、そのまま当てはめられるものではありません。
測定が本人の申告に頼っている点も残ります。実際に体がどれくらい動くか、痛みや気分の落ち込みが臨床的にどの程度かは測られていません。性格の測定に使った尺度も、1つの特性を2項目で測るごく短いものなので、本当はあった関係を拾い損ねている可能性がある、とチームは自ら書いています。
グループの条件そのものにも、細かな凸凹はあります。認知機能を幅広く測る検査では二つのグループに差がなかった一方、簡易的なスクリーニング検査ではブルーゾーン側がやや高い点数でした。教育年数も、ブルーゾーン側が平均7.9年、ブルーゾーン外が6.0年とわずかに長めです。学校に長く通ったことが、好奇心や対処のうまさに影響した可能性は残ります。ただしイタリアのこの世代では両群とも「教育年数が短い」区分に収まり、教育年数を統計的に考慮しても結果は変わらなかった、と説明されています。
長寿地域という前提への疑問
もう少し根っこの話もしておきます。ブルーゾーンという概念そのものに、近年強い批判が向けられています。
人口統計の研究者であるソール・ニューマン氏は、極端に長生きした人の記録が集中する地域には、貧困、出生証明書の不備、記録の質の低さといった条件が重なっていると指摘しました。年齢が正しく記録されていない、あるいは年金の不正受給のために死亡が届け出られていない。そうした事情で「100歳超」が実際より多く数えられているのではないか、という主張です。この研究は2024年のイグ・ノーベル賞(人々を笑わせ、そして考えさせる研究に贈られる賞)の人口統計学部門を受賞していますが、2026年時点でも査読前のプレプリントのままです。
ブルーゾーンの提唱者側からは反論も出ています。批判が対象にしているのは110歳を超える超長寿者の記録であって、自分たちが扱ってきたのは90歳以上の人たちだ、地域の範囲の取り方も違う、という主張です。決着はついていません。
今回の研究は、この論争のやや外側にあります。調べているのは「その地域に本当に長寿者が多いのか」ではなく、「そこに住んでいる高齢者の心理的な特徴はどうか」だからです。とはいえ、ブルーゾーンという枠組みを前提にしている以上、こうした背景があることは知っておいて損はありません。
出典
この研究は査読誌『International Journal of Applied Positive Psychology』に掲載され、オープンアクセスで全文が公開されています。
Super-agers share traits linked to living healthier for longer(Refractor)
ブルーゾーン概念への批判と、それへの反論はこちらです。
Are Supercentenarian Claims Based on Age Exaggeration?(Blue Zones/提唱者側の反論)


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