氷河期の遺跡から出てくるマンモスの骨は、7割がメスのものだった。ユーラシアから北米まで521頭ぶんの骨からDNAを読み、一頭ずつ性別を判定した結果です。同じ時代でも、人の痕跡がない場所から出てきた骨は、逆に3分の2がオスでした。氷河期の狩人は、メスを選んで仕留めていたことになります。
骨の山をめぐる長年の論争
1800年代から、ヨーロッパ各地でマンモスの骨が大量に積み上がった場所が見つかってきました。数十頭ぶんの骨が一か所にまとまっている遺跡もあります。オーストリアのラングマンナースドルフ、ポーランドのクラクフ・スパジスタ、チェコのドルニ・ヴェストニツェといった、旧石器時代の研究では名の知られた場所です。
問題は、この骨の山がどうやってできたのかでした。人が狩って解体し、資材として運び込んだ結果なのか。それとも、自然に死んだ個体の骨がその場にたまり、あとから人がやってきて使っただけなのか。石器が一緒に出てくる遺跡は多いのですが、それは「人がここにいた」ことを示すだけで、「人が殺した」ことまでは示しません。この論争は百年以上、決め手がないまま続いてきました。

見た目では決められない性別
手がかりになりそうなのが、骨の主の性別です。現在のゾウがそうであるように、マンモスもメスと子どもが群れをつくり、オスは成長すると群れを離れて単独か少数で暮らしていたと考えられています。暮らし方が違えば、死ぬ場所や死に方も変わってくる。骨がどちらに偏っているかが分かれば、その山がどうやってできたかを推し量れるはずです。
ところが、マンモスの骨は見ただけでは性別が判別できません。牙や骨盤の形から推定する方法はありますが、そのためには骨がある程度そろっている必要があります。遺跡から出るのはたいてい割れた断片で、それも解体の過程でばらばらになったものです。判定できるのはごく一部にとどまっていました。
そこで使われたのがDNAです。哺乳類の性別は性染色体の組み合わせで決まり、メスはXが2本、オスはXとYが1本ずつ。ゲノムを浅く読むだけでも、X染色体に由来する断片がどれくらいの割合で出てくるかを数えれば、XXかXYかは見分けられます。骨の形が分からなくても、DNAさえ残っていれば性別は読める、というわけです。
521頭のゲノムが示した対比
研究チームが集めたのは、ユーラシアと北米にまたがる521頭ぶんのケナガマンモスのゲノムデータでした。そのうち448頭は、今回が初めての解読です。マンモスを対象にした遺伝解析としては、これまでで最大の規模になります。
この521頭を二つに分けました。ひとつは、人類の活動と結びついた11か所の遺跡から出た100頭。年代はおよそ3万年前から2万年前です。もうひとつは、人の関与が見られない、自然に堆積した場所から出た421頭。同じマンモスでも、骨がそこにある理由が違う二つのグループです。
結果は、はっきり分かれました。自然堆積の421頭は、オスが66%、メスが34%。オスに大きく偏っています。いっぽう人類の遺跡から出た100頭は、メスが70%。ほぼ真逆でした。
しかも、この偏りは特定の遺跡だけの話ではありませんでした。5個体を超える骨の集積を調べると、場所を問わずすべてメスに寄っていたのです。つまり、あの骨の山をつくったのは人の活動だった——長年の論争に、遺伝データの側から一本の線が引かれた形です。

メスが狙われた理由をめぐる仮説
では、なぜメスだったのか。ここは研究チームもはっきりした答えを出していません。
まず思いつくのは「メスのほうが体が小さいから」という説明でしょう。ただ、筆頭著者のハンナ・ムーツ氏(古遺伝学センター)は、これで片づけるのは早いと見ています。母系の群れは、年長のメスを中心に子どもを囲んで守ります。群れごと相手にするなら、単独のオス1頭より危険な場面もあったはずだからです。
もう少し無理のない説明として挙げられているのが、移動の読みやすさです。現在のゾウでも、メスの群れは決まったルートを季節ごとに行き来しますが、オスの動きはずっとばらばらです。マンモスも同じだったとすれば、狩人はメスの群れのほうに繰り返し出くわしたことになります。ダレーン氏(ストックホルム大学)は、子連れの群れは母親が簡単に逃げようとしないため、追い込みやすかった可能性も指摘しています。
いっぽう、自然堆積の側がオスに偏る理由については、2017年の別の研究以来、群れを離れたオスの行動に原因を求める見方が続いています。単独で動きまわるオスは、陥没穴や薄い氷、崖といった危険な場所に踏み込みやすい。そこで死ねば、遺体は堆積物に埋もれて残りやすくなります。群れで慎重に動くメスには、そうした死に方が起こりにくい。同じような性別の偏りは、ステップバイソンやヒグマの化石でも報告されていて、マンモスだけの現象ではないようです。
絶滅への関与という論点
この結果には、もう一段先の話がついてきます。繁殖を担うのはメスです。メスを選んで獲り続ければ、群れが次の世代を残す力は削られていきます。狩りの規模がどれほどだったにせよ、方向としては個体数を減らす側に働く。
アラスカ大学フェアバンクス校の古生態学者オードリー・ロウ氏は、この研究には加わっていない立場から、それこそが誰もが気づいている論点だと述べています。当時の人々は、自分たちの資源を少しずつ細らせていることに気づいていなかっただろう、とも。
ただし、これは論文が結論として述べていることではありません。研究が示したのは「骨の山は人の活動でできた」「その骨はメスに偏っている」という二点で、マンモスの絶滅原因を論じたものではないからです。気候変動と生息地の縮小がマンモスの衰退に大きく効いたという見方は、いまも研究の主軸にあります。
ウランゲリ島で見つかった性染色体のモザイク
本筋からは外れますが、この解析の過程でもう一つ見つかったものがあります。521頭を調べるなかで、XXでもXYでもない個体が1頭いました。ロシア・ウランゲリ島から出た標本です。
この個体は、細胞によってX染色体を1本だけ持つものと2本持つものが混在していました。X0/XXモザイクと呼ばれる状態で、ヒトで同じことが起きるとターナー症候群と診断されます。絶滅した動物でこの状態が確認されたのは、これが初めてです。ドイツ考古学研究所のユリア・グレスキー氏は、研究外部の立場から驚きを示しつつ、マンモスも同じ哺乳類なのだから遺伝的な変異が起きても不思議はない、と語っています。
解釈上の留意点
いくつか、控えめに読んでおきたい点があります。
まず母数です。自然堆積側の421頭に対し、人類の遺跡側は100頭。決して小さくはありませんが、11か所の遺跡に分けると1遺跡あたりの数はかなり限られます。70%という数字も、この規模の標本から得られたものだという前提で見ておくのが妥当です。
次に、「メスに偏った骨の山ができた」ことと「メスを狩った」ことは、厳密には同じではありません。研究チーム自身も、狩ったのか、すでに死んでいた個体を見つけて利用したのか、その両方を含めた言い方をしています。遺跡に残るのは結果としての骨であって、そこに至る過程まで直接記録されているわけではないためです。
そして、先に触れたとおり、絶滅への関与はこの研究の結論ではありません。狩りがマンモスの個体数にどの程度の影響を与えたのかを見積もるには、当時の人口規模、狩りの頻度、マンモスの個体数といった別の数字が必要になります。今回の研究は、その議論に新しい材料を一つ加えた段階です。
出典・もっと知りたい人へ
論文はオープンアクセス(CC BY 4.0)で、誰でも全文を読めます。
- 元論文(Current Biology, 2026年7月30日オンライン公開):Palaeogenomic sex inference of mammoth remains sheds light on the anthropogenic nature of bone accumulations(DOI: 10.1016/j.cub.2026.07.023)
- アラスカ大学フェアバンクス校 プレスリリース:DNA shows ancient humans killed more female mammoths
- Phys.org の解説:Ancient DNA reveals Ice Age humans targeted female woolly mammoths
- Smithsonian Magazine:Ice Age Humans Mostly Killed Female Woolly Mammoths, Suggests Ancient DNA
- 先行研究(Current Biology, 2017):Pečnerová et al., “Genome-based sexing provides clues about behavior and social structure in the woolly mammoth”, Curr. Biol. 27, 3505–3510


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