衛星2,149基を束ねると、大気の呼吸が見えてくる

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宇宙天気の情報サイト spaceweather.com のトップページに、2026年から「SATELLITE DRAG」という欄が増えています。中身は数字がひとつだけ。たとえば「30 m/day」。これは、高度480kmを飛ぶ標準的なStarlink衛星が、きょう推進装置を止めたら1日に何メートル高度を失うか、という値です。運営者のTony Phillipsさんは、この数字を毎朝ひとりで計算して掲示しています。使っているのは自分で打ち上げた観測機器ではなく、頭上を飛んでいる1万機以上のStarlink衛星そのものです。

Starlinkは天文観測の邪魔になる、落ちてくるときに金属を大気にまき散らす、低軌道を混雑させる——と、批判される側に立つことが多い衛星群です。Phillipsさん自身も記事の冒頭でそう書いたうえで、こう続けます。それはそれとして、気圧計としてはすごくよくできている、と。

衛星が沈む速さは大気の濃さそのもの

高度400〜500kmといえば宇宙ですが、空気がゼロになるわけではありません。ごく薄い大気が残っていて、衛星は毎秒7.6kmほどの速さでそこを突っ切ります。薄くても、この速さで浴び続ければ抵抗になります。衛星は少しずつ減速し、高度を落としていく。Starlinkはこれを推進装置で押し返しながら軌道を保っています。

この薄い大気の濃さは一定ではありません。太陽から届く紫外線が強まると上層の大気が温まってふくらみ、衛星の高度まで押し上がってきます。磁気嵐が起きればもっと急にふくらみます。大気がふくらめば抵抗が増え、衛星の沈む速さが上がる。つまり、衛星がどれだけ速く沈んでいるかを見れば、そこにある空気の濃さが分かるわけです。

正確に言えば、抵抗から分かるのは気圧ではなく密度です。Phillipsさんはそこも断ったうえで、上層大気が温まるときは気圧も密度も一緒に上がるし、「密度計」と呼ぶより「気圧計」のほうが通りがいい、という理由で気圧計と呼んでいます。

公開データに埋まっていた抵抗の値

観測そのものは、実は別の組織がやってくれています。米宇宙軍の第18宇宙防衛隊がレーダーで軌道上のすべての物体を追跡し、1日に2〜3回、各衛星の軌道要素を公開している。「TLE」と呼ばれる短いテキスト形式で、Space-TrackやCelesTrakといったサイトから誰でも取れます。

そのTLEの中に、B*(ビースター)という項目があります。大気抵抗の強さを表す係数です。ここに仕掛けがあります。TLEを読む軌道モデルは、大気の濃さを固定値として計算します。ところが実際の大気がふくらむと、衛星はモデルの想定より強く減速する。するとレーダーで追った実際の位置と計算がずれるので、つじつまを合わせるためにB*を大きく置き直すことになります。大気がふくらんだ分は、B*の値に押し込まれて残る。Phillipsさんはこれを「B*は空気の密度が最後に行き着く場所」と表現しています。

ただし、衛星1機のB*は当てになりません。値は1〜3日分の追跡をならしたものですし、衛星が軌道を保つために噴射すると数字が狂います。そこでPhillipsさんは、2026年より前に打ち上げられたStarlink 1,000機を固定のサンプルとして選び、1機ごとに「その衛星の静かな日のB*」を基準にして、きょうの値が何倍になっているかを出します。そして1,000機ぶんの中央値を取る。1機のノイズは、数百機を束ねると消えていきます。測定器は個々の衛星ではなく、群れの中央値のほうです。

こうして出るのは「静かな日に比べて空気が何倍濃いか」という比率です。それをメートル毎日に直すには換算係数がひとつ要ります。それを担ったのが、後で出てくるPlanet Labsの衛星でした。

2026年の空気は19.7から127.6まで動いた

この指数で見た2026年の上層大気は、かなり忙しく動いています。もっとも静かだったのは8月10日で、Starlinkが沈む速さは1日19.7m。もっとも激しかったのは1月20日、この年最大の磁気嵐(G4クラス、Ap指数144)の最中で、127.6mでした。6倍以上の差です。Phillipsさんの言い方を借りれば、衛星は何も変わっていない、変わったのは空気のほうです。

1月の嵐のあと、大気が落ち着くまでには2週間かかりました。3月、4月、5月、6月、7月にも中規模の嵐があり、そのたびに鋭いピークが立っています。逆にAp指数45を下回るような弱い嵐は、背景のゆらぎに埋もれて見えません。そして夏、太陽活動が下り坂に入るにつれて空気は薄くなり、8月の最小値に至りました。

数字の感覚をつかむために、Phillipsさんはこんな換算も添えています。1日40mのペースなら、推進装置が死んだ衛星が高度480kmから落ちてくるまでにおよそ4年。1月の嵐のペースが続けば1年ちょっと。実際には空気の濃さが1年間同じということはないので、これは速度の目安であって予測ではありませんが、宇宙天気が衛星の持ち主にとって他人事でない理由はここにあります。

3つの別の衛星群で答え合わせをした

ここまでなら、Starlinkの軌道データから熱圏(ねっけん:高度100km前後から上に広がる大気の層)の様子を読む、という研究者もすでにやってきた話の延長です。この取り組みが面白くなるのはここからで、Phillipsさんは別の会社の衛星群を3つ並べて、答え合わせをしています。

1つめはPlanet Labsの地球観測衛星SuperDove、107機。高度400〜500kmを飛んでいて、推進装置を持っていません。大気に逆らえないので、本当に沈んでいく。2026年は1機あたり1日およそ62mずつ落ち続けていて、1月1日から8月下旬までに中央値で15.5kmも高度を失いました。この「実際に落ちた距離」が、Starlinkの指数を換算する物差しになりました。2026年5月の静かな1週間のSuperDoveの落下量を480km相当に直して、指数1あたり35.7m/日という係数が決まっています。

そのうえで、1月の嵐の週で照らし合わせています。SuperDoveの実際の落下速度は2.74倍に、StarlinkのB*から出した指数は2.71倍になりました。まったく別の方法で出した2つの値が、1%の違いで一致したことになります。

2つめはAmazonのKuiper衛星、391機。高度およそ630kmで、運用しているのはSpaceXとは別の会社です。噴射のタイミングはStarlinkと何の関係もない。それなのに日ごとの動きを比べると、相関係数0.94で足並みがそろっていました。2つの会社の衛星が同時に同じ動きをするなら、それは会社の都合ではなく大気のせいです。

3つめはEutelsatのOneWeb、651機。高度1,200kmで、ここまで来ると空気はほとんどなく、太陽光の圧力のほうが抵抗より効いてきます。つまり「何も起きないはず」の対照群です。実際、1年を通してほぼ平らでした。ただ、1月の嵐のときだけは1.3倍にぴくりと動いています。高度1,200kmの大気でさえ、嵐を感じていたことになります。

高度ごとに見えたふくらみの形

Starlinkには350km、480km、555kmと高度の違う層があり、KuiperとOneWebを足すと、6つの高さにセンサーが並ぶ格好になります。1月の嵐で、それぞれの高度の抵抗が嵐の前の静かな5日間に比べて何倍になったかを見ると、350kmで1.5倍、480kmで2.1倍、555kmで3.0倍、630kmで2.0倍、1,200kmで1.3倍でした。

高度が上がるにつれて反応が強くなり、550km付近で頂点を打って、そこから先は弱まっていく。温められた酸素が上へ上へと広がり、やがて薄まって外気圏(大気のいちばん外側)に溶けていく、という形です。上がっていく部分は教科書に書いてあるとおり。頂点を越えて下がっていく部分は、6つの高さにセンサーがあってはじめて見える形だ、とPhillipsさんは書いています。

もうひとつ、グラフにはSpaceXの動きも写り込んでいました。Starlink群の高度の中央値が1日8m以上下がる、あるいは10m以上跳ね上がる期間を機械的に拾うと、2026年に8回ありました。これはSpaceXが大気に押されて高度を落とし、噴射で持ち上げ直した跡です。その8回は、どれも磁気嵐のピークの上か直後に重なっていました。嵐の日付をソフトに教えたわけではないのに、噴射の記録が勝手に嵐の暦を描き出したわけです。

何のための数字か

熱圏の密度は、衛星の軌道予測や衝突回避でいちばん大きな不確かさになっています。標準的な大気モデルは、ふつうの日で20〜30%、嵐の日にはそれ以上ずれます。毎日測った数字がひとつあれば、モデルをその日ごとに補正できる。Phillipsさんは「毎日出す人がいなかったものを、誰かが出すようになった」ことが新しさだと位置づけています。

Starlinkの軌道が研究に使われたのは初めてではありません。2022年2月には、打ち上げ直後の高度210kmにいたStarlink 38機が磁気嵐で落下する出来事があり、この事例はかなり細かく分析されています。今回の違いは、公開データから毎日更新される指数として走らせ続けていること、そして別会社の衛星群3つで検算していることです。

読むときの注意

いくつか限界もはっきり書かれています。まずこの指数は相対値です。各衛星の静かな日を1として何倍か、を換算係数ひとつでメートルに直しているので、絶対的な密度を知るにはやはりモデルが要ります。TLEの値は1〜3日ぶんをならしたものなので、急な出来事は少し遅れて、少しにじんで出ます。TLEは公開時点で1日ほど古いので、掲示される数字も前日の空気を表しています。

それから、SpaceXは嵐のときに衛星を横向きにして受ける抵抗を減らします。だからStarlinkから読んだ嵐のピークは、実際より低めの値と考えたほうがよい。避けようのないSuperDoveの落下が、その検算役です。測定の記録は2026年1月1日から始まったばかりで、太陽活動が最小のときは1日13m程度、2024年の極大期の静かな日は150m程度だろうという推定も載っていますが、これは太陽放射から逆算した見積もりで測定値ではありません。

そして何より、これは査読を受けた論文ではなく、個人が運営するサイトの報告です。第三者による独立した検証もまだありません。とはいえ、使っているのは誰でも取れる公開データで、手順もこのとおり全部書かれています。2026年の日次データはCSVで配布されているので、疑うならグラフを引き直せる。「観測機器は何も打ち上げていない。群れそのものがセンサーで、公開データから読んでいるだけ」——この一文が、この取り組みの中身をいちばん短く言い当てていると思います。

出典

We’ve Turned Starlink into a Planetary Barometer(Spaceweather.com、Tony Phillips、2026年9月)

Astronomer watches Starlink satellites sinking to build a ‘planetary barometer’(The Register、2026年9月25日)

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