芝浦工業大学が、レーザープリンタで印刷できるタッチ入力シートを開発した

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下敷きで髪をこすると、髪が逆立ちます。この静電気を機械への入力に使う研究が、芝浦工業大学から発表されました。材料は透明な塩ビ(ポリ塩化ビニル)のシートと、オフィスに置いてあるふつうのレーザープリンタだけです。シートにトナーで模様を印刷し、その上を指でなぞると、なぞり方に応じた電気信号が出ます。

論文は学術誌『Nano Energy』の156巻に、2026年9月1日付で掲載されました(オンライン公開は6月27日)。筆頭著者は修士課程のHaruki Higoshi氏で、研究を率いたのは工学部電気工学科の重宗宏毅(しげむね ひろき)准教授です。

こすると電気が出る現象の利用

違う素材どうしが触れて離れると、電子が片方からもう片方へ移ります。これが摩擦帯電(まさつたいでん)で、下敷きの静電気も、冬にドアノブでパチッとくるのも同じ現象です。

素材には電子を受け取りやすいものと手放しやすいものがあり、塩ビは受け取りやすい側の代表格、人の肌は手放しやすい側にいます。相性が両極端なので、指で塩ビをなぞると、はっきり測れる大きさの電圧の変化が出ます。

スマートフォンなどのタッチパネルは、これとはまったく違う作りです。ガラスの下に透明な電極を格子状に敷きつめ、指が近づいたときの電気的な変化を電源を入れたまま見張り続けています。電極も配線も電源も欠かせません。今回のシートは、触る面の側にそのどれも要りません。指でこすれば、信号のもとになる電気は勝手に生まれるからです。

トナーの模様が決める電圧の波形

ただし、何も印刷していない塩ビを好きなようになぞっても、出てくる波形は毎回ばらばらで、入力としては使えません。そこでトナーの出番になります。

トナーは電気を通さない樹脂の粉で、レーザープリンタはこれを熱で溶かしてシートに定着させます。印刷された部分には薄い絶縁の膜ができ、そこでは指が塩ビにじかに触れません。印刷していない部分では触れます。縞模様を印刷したシートの上で指を滑らせると、「触れる」と「触れない」が交互に切り替わり、そのたびに電圧の山が1つずつ立ちます。

塩ビが露出している部分の幅を広げれば山の幅が変わり、間隔を空ければ山と山の間が空き、縞の本数を増やせば山の数が増えます。つまり、どんな波形を出させるかを、印刷する模様で決められます。重宗准教授はプレスリリースの中で、トナーの模様を、肌が塩ビに触れる場所を決める「幾何学的なマスク」と呼び、これによって電圧の応答が出るタイミングと極性(プラスかマイナスか)を制御できると説明しています。

二進数の入力と26文字の識別

波形が模様で決まるなら、あとは読み取るだけです。チームはまず、指がどちら向きに滑ったかを波形から判定し、滑らせた速さも誤差3.5%以下で求めました。

次に、縞の並びを0と1に対応させた二進数の入力です。「1010」にあたる模様をなぞると、システムがそれを読み取って十進数の10に変換する、という実演をしています。

もっと込み入った入力は、機械学習に波形を見分けさせました。7種類の模様の識別で正解率97.1%、アルファベット26文字の識別で89.2%です。耐久性については、1,000回こすったあとでもトナーの膜に目に見える摩耗はなく、波形の形や強さにも目立った変化は出ませんでした。

なぞり方の癖による個人の識別

実験の中で、同じ模様を同じようになぞっても、人によって波形が少しずつ違うことがわかりました。指を押しつける強さ、滑らせる速さ、指の角度、接触の安定ぐあいが、そのまま波形に出ます。

入力装置として考えれば、これは困ったばらつきです。誰がなぞっても同じ信号が出てくれたほうが、読み取りは楽に決まっています。ところがチームは、この違いのほうを読み取りにいきました。7人の参加者に同じシートをなぞってもらい、波形から「誰がなぞったか」を機械学習に当てさせたところ、正解率は97.1%でした。

印刷しただけの塩ビ1枚が、操作ボタンと本人確認を兼ねられるかもしれない、ということになります。プレスリリースも、用途のひとつにユーザー認証を挙げています。もっとも、試したのは7人です。人数が数十人、数百人と増えたときに同じ精度が出るかどうかは、まだわかっていません。

スマートフォンの画面との違い

「タッチ入力」と聞くとスマートフォンの画面を思い浮かべますが、これはその置き換えではありません。スマートフォンは、画面のどこを触ったかを好きな位置で検出できます。今回のシートが読めるのは、印刷した模様で決まる、限られた種類のなぞり方だけです。New Atlasの記事は、設定を書き換えられるゲームパッドや操作用の帯に近いものだと書いています。

「配線がいらない」も、正確にはシートの側の話です。出てきた信号を拾って、処理して、意味を判定する電子回路は別に必要です。プレスリリースはこの方式を、電極が1つで済む「シングル電極」型と説明しています。

条件の面でも、まだ実験室の中の成果です。1,000回の耐久試験は出発点としては十分でも、毎日触る操作部なら数万回はこすられます。汗ばんだ指、汚れた指、濡れた指ではどうなるのかも未検証です。静電気は湿度の影響を強く受けるので、梅雨どきと真冬で同じ波形が出るのかは気になるところです。研究チーム自身も、より厳しい実環境での性能を今後調べるとしています。

印刷し直すだけで変わる機能

それでも、この研究には手堅いおもしろさがあります。ふつう、入力装置の機能を変えようと思ったら、電極の配置や配線から設計し直すことになります。このシートの場合、変えるのはプリンタに送る画像データだけです。別の模様を刷れば、同じ塩ビが別の入力装置になります。重宗准教授は、印刷パターンを変えるだけで入力機能を変えられる、低コストで配線のいらない基盤だと述べています。

想定されている使い道は、服や体に貼りつけるウェアラブル機器の操作部、IoT機器、キーボード、ゲームコントローラなどです。使い捨てにできるほど安く、曲げられて、いくらでも刷り直せる、という性質が生きる場所でしょう。

重宗准教授の研究室は以前にも、インクジェットプリンタで印刷した紙がひとりでに折れ曲がってロボットになる、という研究を発表しています。どこにでもあるプリンタを、ものづくりの道具として使う。今回の塩ビシートも、その路線の上にある研究です。

出典

Haruki Higoshi, Satoshi Ueno, Keisuke Yamashita, Hiroki Shigemune, “Toner-printed pattern recognition system based on triboelectricity of human body for human-computer interaction”, Nano Energy, Volume 156, 112165 (2026)
DOI: 10.1016/j.nanoen.2026.112165

プレスリリース(英語・無料で読めます):Laser-Printed Touch Interface Turns Finger Motion into Digital Inputs(芝浦工業大学、2026年9月2日)

解説記事:Super-simple interface replaces a touchscreen with PVC and printer toner(New Atlas、2026年9月19日)

研究室の紹介:医療に宇宙に、幅広い応用が期待できる「ペーパーメカトロニクス」(TDK Techno Magazine)

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