この記事には広告(Amazon アソシエイトのリンク)を含みます。
宇宙の物質の約6分の5は、光を出さず、重力でしか存在が分からない暗黒物質だと考えられています。正体の候補は山ほどあって、その中には「ブラックホール」もあります。重くて見えにくいので、暗黒物質の条件には合っています。では、どのくらいの重さのブラックホールなら候補として残るのか。ドイツのマインツ理論物理学研究所の Christopher Gerlach らの研究グループが、太陽の1,000億倍を超える「途方もなく大きいブラックホール」について、この問いに答えを出しました。そのような天体は、暗黒物質の主要な成分ではありえない、というものです。論文は Physical Review Letters に掲載予定で、プレプリントは2025年8月から公開されています。
銀河より重いブラックホールという候補
ブラックホールの中には、宇宙の初期に生まれたと考えられる「原始ブラックホール」という仮説上の種類があります。星が死んでできるのではなく、ビッグバン直後の密度のむらが潰れてできるもので、重さは理論上いくらでもありえます。暗黒物質の候補として長く議論されてきたのは、小惑星くらいの軽いものから、太陽の何十倍かのものまでさまざまです。
今回の対象は、その中でもけた外れに重い範囲です。太陽の1,000億倍を超える質量のブラックホールは「途方もなく大きいブラックホール」と呼ばれ、さらに太陽の1,000兆倍から1京倍にもなれば、銀河1つより重くなります。現在知られている最も重いブラックホールでも太陽の約360億倍なので、この範囲のものはまだ1つも見つかっていません。
たくさんの銀河を調べても見つからない以上、暗黒物質の全部がこの天体だということはありえません。けれども「一部」なら残っていました。見つかっていないだけで、少数が宇宙に散らばっていて、暗黒物質のかなりの割合を担っている可能性は、きちんと否定されていなかったのです。

暗黒物質が「塊」なら、宇宙は粒状になる
研究グループが使ったのは、宇宙で最も古い光です。ビッグバンから38万年のあいだ、宇宙は熱いプラズマで満たされ、光は自由に進めませんでした。やがて宇宙が膨張して冷え、原子ができると、光は解き放たれました。その光は今も全天から届いていて、宇宙マイクロ波背景放射と呼ばれます。生まれたばかりの宇宙を写した、空全体の写真のようなものです。
この背景放射の温度は、場所によって10万分の1ほどのわずかなむらがあります。そのむらの模様は、当時の物質がどう分布していたかを教えてくれます。研究グループの考え方はこうです。暗黒物質がふつう想定されるように細かい塵のように広がっているなら、むらは滑らかになります。ところが、暗黒物質がごく少数の途方もなく重い塊に詰め込まれているなら、宇宙は大きな尺度で「粒状」になり、その粒の粗さが背景放射のむらに刻まれるはずです。Gerlach は Space.com に、それは確かめられる、と話しています。
専門的には、この粒状のむらは「等曲率ゆらぎ」と呼ばれる種類の揺らぎを生みます。ふつうの密度のむらとは性質が違い、背景放射の模様に特有の痕跡を残します。研究グループが計算すると、途方もなく大きいブラックホールが暗黒物質のかなりの部分を占める場合に生じる等曲率ゆらぎは、欧州宇宙機関のプランク衛星が測った背景放射の上限を超えてしまいました。つまり、実際の宇宙は、そこまで粒状にはなっていません。
消えた候補と、残った候補
結論は明快です。太陽の1,000億倍を超えるブラックホールは、暗黒物質の主要な成分ではありえません。これは、見つからないから除外する、という消極的な理由ではなく、もし存在すれば背景放射に残るはずの痕跡が無い、という積極的な理由による除外です。
ただし研究グループは、こうした巨大な天体が存在しないと言っているわけではない、と念を押しています。否定されたのは、暗黒物質の大きな割合を占めるという役回りだけです。少数が存在する可能性は残ります。

一方で、重さの物差しの反対側には、まだ候補が残っています。小惑星ほどの質量しかない小さなブラックホールです。この範囲は、これまでの観測でも除外しきれていません。研究グループは次に、この小さなブラックホールを同じように排除できるかどうかを調べています。
暗黒物質の正体探しは、見つける作業であると同時に、候補を一つずつ消していく作業でもあります。今回の研究は、重さの物差しの最も重い端を、宇宙最古の光を使って閉じました。残った範囲がどこまで狭まるかが、この先の見どころです。
関連する商品
この記事に関連する本や商品は、Amazon で探せます。
上のリンクから購入されると、このブログに紹介料が入ることがあります。
出典
- Christopher Gerlach, Yann Gouttenoire, Antonio J. Iovino, Nicholas Leister, “Closing the Mass Window for Stupendously Large Black Holes”, Physical Review Letters(掲載予定):https://doi.org/10.1103/qlf9-thf4/プレプリント(2025年8月11日):https://arxiv.org/abs/2508.08238
- Space.com “‘Stupendously large black holes’ aren’t a major component of dark matter, study finds”(2026年10月23日、Charles Q. Choi):https://www.space.com/astronomy/dark-universe/stupendously-large-black-holes-arent-a-major-component-of-dark-matter-study-finds


コメント