80年前に沈んだ艦船の重油の中に、油を食べる細菌の群れが住んでいた。チューク環礁の神国丸と清澄丸で見つかった1,500種

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太平洋の海底には、第二次世界大戦で沈んだ艦船が数多く残っています。油槽船やタンカーだけでも約330隻とされ、燃料を積んだまま80年以上沈んでいる船も珍しくありません。船体がさびて裂けるたびに、タンクに残った重油が海へ漏れ出します。この油の中に何がいるのかを、フィジーの南太平洋大学の Awei Bainivalu らの研究グループが調べました。見つかったのは、油に殺された海ではなく、油の中に根づいた多様な細菌の群れでした。論文は Marine Pollution Bulletin の2027年1月号に載るもので、オンラインで先に公開されています。

チューク環礁に沈む日本の艦船

調査の舞台はミクロネシア連邦のチューク環礁です。かつてトラック諸島と呼ばれたこの環礁には、戦時中に日本海軍の南太平洋での主要な拠点が置かれていました。1944年2月、米軍の大規模な空襲を受けて多くの艦船が沈み、環礁の中には今も数十隻の沈没船が散らばっています。残骸の総量は約20万トンにのぼり、そこから漏れる油が何十年も前から漁場や海の生息環境に影響してきたことが知られています。油は海面でまとまって「タールボール」と呼ばれる塊になり、浅い海のもろい生態系を傷つけます。

研究グループが選んだのは2隻です。1隻は油槽船の神国丸で、中質の燃料油を漏らしています。もう1隻は客貨船から軍に徴用された清澄丸で、こちらはより重い燃料油です。同じ重油でも、含まれる炭化水素の種類や粘り気は違い、それが住みつく細菌の顔ぶれを左右する可能性があります。研究グループは2隻の油に加えて、神国丸では油と海水が接する境目からも試料を採り、実験室に持ち帰りました。

80年前に沈んだ艦船の重油の中に、油を食べる細菌の群れが住んでいた。チューク環礁の神国丸と清澄丸で見つかった1,500種

42門・1,500種の細菌が油の中にいた

油の化学分析の結果は、おおむね予想どおりでした。どちらの燃料も石油由来の炭化水素の複雑な混合物で、海の生き物に有毒な化合物を含みます。神国丸の軽めの油には揮発しやすい芳香族の化合物が多く、清澄丸の重い油には分解されにくい炭化水素が多く含まれていました。

意外だったのは細菌のほうです。DNA を読んで分類すると、試料全体で42門、107綱、249目、432科、1,047属、種のレベルで1,505の分類群が見つかりました。大半を占めたのはプロテオバクテリアです。その中には、ラルストニア属、スフィンゴモナス属、コリネバクテリウム属など、石油の炭化水素を炭素とエネルギーの源として分解できる種を含む仲間がいました。

研究グループは、こうした炭化水素と結びついた分類群がいることは、長い年月の炭化水素への曝露によって組み立てられた群集であることを示す、と書いています。毒であるはずの重油の中に、その毒を食べて生きる仲間を中心とした生態系ができていた、ということです。神国丸の油と海水の境目の群集は、油の中だけの群集とは顔ぶれが違っていて、環境ごとに特定の細菌が選ばれて増えていることもうかがえます。

分解しているかは、まだ確かめていない

ここで注意が要るのは、今回分かったのは「いる」ことまでだという点です。見つかった細菌が実際に油を分解しているかどうかは、この研究では調べていません。炭化水素を分解できる種を含む属がいる、というのと、その場で分解が進んでいる、というのは別の話です。油と海水の境目で群集が変わる理由が炭化水素の代謝にあるのかも、今後の研究で確かめる必要があります。

それでも、この結果には実用上の意味があります。微生物に汚染物質を分解させて環境をきれいにする方法を、バイオレメディエーションと呼びます。研究グループは、第二次世界大戦の沈没船の燃料油が炭化水素を分解する細菌の天然の貯蔵庫になっていることを今回の結果が裏づける、とし、太平洋地域でこの方法を使うための基礎になるデータだと位置づけています。油に長く漬かって選び抜かれた細菌は、同じ油を片づける候補として有望だからです。

80年前に沈んだ艦船の重油の中に、油を食べる細菌の群れが住んでいた。チューク環礁の神国丸と清澄丸で見つかった1,500種

80年前の汚染源は、今も漏れ続ける

沈没船の油は、過去の汚染ではなく現在進行形の汚染源です。海に出た油は広がって薄まりますが、タンクに閉じ込められた油は何十年もそのまま残り、鋼鉄が腐食して新しい穴が開くたびに漏れ出します。船体の劣化が進むほど、漏れは増えると見込まれています。

太平洋に沈む数百隻の船から油を抜き取る作業は、費用も手間も大きく、すべての船で行うのは現実的ではありません。その油の中に、油を食べる細菌がすでに住んでいる。今回の研究は、80年分の汚染に向き合うための、思いがけない味方の目録を作ったことになります。

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