心筋細胞が育った網が、鼓動で電気を起こす。細胞が入り込む極薄の圧電メッシュで、取り出せる電気は従来の10倍

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ペースメーカーや神経刺激装置のような体内の電子機器は、電池で動いています。電池は場所を取り、固く、いつかは切れます。植え込み機器の電池が切れれば、交換のために手術をやり直さなければなりません。体そのものは化学と機械と電気のエネルギーで休みなく動いているのに、その中に置いた機器だけが外から持ち込んだ電池に頼っている、というのが現状です。米国マサチューセッツ大学アマースト校の Jun Yao らの研究グループが、この問題に対して、細胞が中で育つ網を使った新しい発電の方法を報告しました。論文は2026年10月9日に Science Advances に載っています。

体の動きで発電する、これまでのやり方

体の動きから電気を取り出す方法は、以前から研究されています。体と周囲の温度差を使うもの、動きの摩擦で電荷を集める布などがありますが、植え込み機器に向くとされてきたのは圧電の素子です。ある種の材料は、押されたり曲げられたりすると表面に電荷を生じます。肺はふくらんで縮み、心臓は休まず打っているので、体の中には押したり曲げたりする動きがいくらでもあります。動物の心臓の拍動で動くペースメーカーの試作も報告されてきました。

ただし、これまでの圧電の発電器には共通の弱点がありました。ひとまとまりの装置を組織の表面に貼りつける形なので、柔らかい組織と固い装置のあいだに機械的なずれが生じ、なじみにくいのです。接触は表面だけで、細胞一つ一つの動きには届きません。出力を増やそうと装置を大きくしたり数を増やしたりすれば、かさばって動きを妨げます。

心筋細胞が育った網が、鼓動で電気を起こす。細胞が入り込む極薄の圧電メッシュで、取り出せる電気は従来の10倍

細胞が網の中に入り込む

研究グループが考えたのは、発電器を1か所に置くのではなく、生き物が体中の組織にエネルギーの生産を分散させているように、小さな発電素子を組織の中に散らばらせることでした。まず、センサーや駆動装置によく使われる圧電セラミックのチタン酸ジルコン酸鉛を、ごく細いリボン状に加工して並べます。そのリボンを、極薄で柔らかい高分子の網に組み込み、互いにつながった発電素子のネットワークを作りました。

この網は、ふつうの固い基板と違って目が開いています。生きた細胞はその隙間に入り込み、網の周りに成長できます。研究グループは、この網に人の心筋細胞を播いて育てました。細胞は網の中へ、網の周りへと増え、電子の網は育っていく組織の一部に組み込まれていきました。できあがったものは細胞と一緒に動き、変形します。電子部品が、生きた組織と密着したまま働く状態です。

心筋細胞が収縮すると、埋め込まれたリボンが組織のあちこちで変形し、圧電の効果で電気が生まれます。発電が1か所ではなく、細胞との無数の接点で同時に起きるのが、この方式の要です。研究グループの報告では、実効的なエネルギー密度は、既存の1か所にまとめる方式より1桁以上高くなりました。装置の体積あたりで見て、取り出せる電気が10倍を超えたということです。

薄いから、重ねられる

網は極めて薄く柔らかいので、何層も重ねれば、かさをほとんど増やさずに発電量を増やせます。機器が必要とする電力に合わせて、層の数で発電の能力を調節できる、と研究グループは見ています。想定している用途は、ペースメーカー、心臓の監視装置、神経刺激装置といった、消費電力の小さな体内の電子機器です。皮膚に密着して働くセンサーの電源にも応用できるかもしれません。

Yao は、かさばる電池を伴う装置を体は拒もうとするが、装置が細胞のレベルで存在すれば生体との相性は大きく良くなる、と話しています。電子部品と組織の機械的なずれが小さくなることで、体になじみやすくなる効果も期待しています。

心筋細胞が育った網が、鼓動で電気を起こす。細胞が入り込む極薄の圧電メッシュで、取り出せる電気は従来の10倍

まだ培養皿の中の話

この技術は、まだ初期の段階です。示されたのは、実験室で育てた心筋の組織での発電までで、生きた動物に植え込んだ試験も、実際の医療機器を単独で動かした実証もまだありません。長期間の耐久性、実用に足る電気の出力、そして体との長期の相性には、これから答えを出す必要があります。

材料の面でも課題があります。使っている圧電セラミックには鉛が含まれていて、体内で使うなら周囲の組織から確実に隔離しなければなりません。鉛を含まない圧電材料に置き換えられるかどうかも、実用化に向けた論点になるでしょう。

それでも、発電器を組織の上に「貼る」のではなく、細胞が発電器の網の中で「育つ」という発想の転換は、体内の電子機器の電源の考え方を変えるかもしれません。心臓は1日に約10万回打ちます。その一打ちごとに、組織の中に散らばった無数の小さな素子が電気を生む。そんな電源が、電池の交換手術を要らなくする日が来るかどうかは、生体の中での検証にかかっています。

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