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目に光が届いていても、そのすべてが意識に上るわけではありません。脳はつねに一部の情報だけを「見えている」として扱い、残りは意識されないまま処理しています。では、意識に上る情報と上らない情報は、脳の中でどう分かれているのでしょうか。米国カリフォルニア大学バークレー校の Janis Hesse と Doris Tsao らの研究グループが、サルの脳の記録からこの問いに取り組み、意外な答えを出しました。脳は意識に上る内容と抑え込まれた内容を、毎秒およそ15回のペースで交互に表していたのです。この研究は2026年10月に bioRxiv に投稿された査読前のプレプリントです。
片目ずつ別の顔を見せる
研究グループが使ったのは、両眼フラッシュ抑制と呼ばれる古典的な手法です。赤と青のレンズを使って左右の目に別の画像を見せる仕組みで、まず片方の目に1つの顔を見せ、その顔を出したまま、もう片方の目にもう1つの顔を急に出します。すると人は2つの顔が重なって見えるのではなく、新しく出た顔だけを意識し、先に見ていた顔は意識から消えます。先の顔は目に届き続けているのに、見えなくなるのです。
この手法は、意識される情報と意識されない情報を同じ条件で比べられるので、意識の研究で何十年も使われてきました。研究グループはまず人で、後から出した顔が意識を占めることを確かめました。サルは何が見えているかを言葉で報告できないので、人の実験が、サルの脳の記録を読むときの手がかりになります。

数百個の神経細胞を同時に聞く
サルの脳には、顔に強く反応する神経細胞が集まった「顔領域」が、側頭葉の下部と前頭前野にいくつもあります。研究グループは、Neuropixels という細い電極を複数の顔領域に挿し、マカクザル2頭が競合する2つの顔を見ているあいだ、数百個の神経細胞の活動を同時に記録しました。
記録を解析すると、意識に上っている顔に対応する活動のパターンと、抑え込まれた顔に対応するパターンの2つが見つかりました。ここまでは予想の範囲です。驚いたのはその時間の並び方でした。見せている画像も、意識に上っているはずの顔も変わっていないのに、神経細胞の集団は2つのパターンのあいだを素早く行き来していました。切り替わりは毎秒およそ15回。意識されている顔だけを表し続ける時間帯は無く、抑え込まれたはずの顔が、短い区切りごとに脳の中に浮かび上がっていたのです。
見えていない顔も、脳の中では描かれている
この短い区切りを分けて調べると、はっきりした対称性が現れました。意識に上っている側の区切りでは、神経細胞は意識されている顔にだけ選択的に反応し、その活動から意識されている顔の画像を正確に再構成できました。抑え込まれた側の区切りでは、それがそっくり裏返ります。神経細胞は抑え込まれた顔にだけ反応し、その活動から、見えていないはずの顔の画像を再構成できたのです。
ただし2種類の区切りは、完全に同じではありませんでした。意識に上っている区切りのほうが、顔の特徴に対する反応が鋭く増幅されていました。脳は2つの内容を交互に描きながらも、どちらが意識に上っているかを区別する手がかりを持っているようです。側頭葉の下部だけでなく前頭前野の顔領域でも、同じ型の結果が得られました。

意識は「どこ」ではなく「いつ」で決まるのか
意識の神経科学では長く、意識に上る情報を扱う場所が脳のどこかにあるはずだと考え、その場所を探してきました。高次の視覚野は意識によってわずかにしか変調されないことが分かっていて、意識だけを純粋に映す信号は脳のどこにも見つかっていませんでした。今回の結果は、その信号が確かに存在すること、ただしそれは場所ではなく時間の中に隠れていたことを示しています。意識に上るかどうかは、どの領域が扱うかだけでなく、時間の中のどの区切りが選ばれるかで決まる、というのが研究グループの読みです。
脳がなぜこんなことをしているのかは、この研究では分かりません。研究グループは、いまの行動を変えないまま、別の見え方の候補を裏で検討し続けるための仕組みではないか、と推測しています。見えている世界を保ちながら、見えていない解釈も捨てずに持っておく、ということです。
この研究にはいくつかの限界があります。調べたサルは2頭で、サルの意識の内容は人の実験から推定したものです。記録したのも顔領域だけで、脳全体ではありません。査読もこれからです。それでも、切れ目なく続いているように感じられる私たちの見え方の裏で、脳が毎秒15回も2つの世界を行き来しているらしい、という描像は、意識について考えるときの前提を一つ揺らします。研究グループは、この切り替えを何が指揮し、なぜ一部の区切りだけが意識に上るのかを突き止めることが、次の課題だと書いています。
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出典
- Janis K. Hesse, F. F. Lanfranchi, C. McGrory, Y. Shi, T. A. Engel, Doris Y. Tsao, “Rapid alternation of conscious and suppressed stimulus representations in the primate brain”, bioRxiv(2026年10月16日、査読前):https://doi.org/10.64898/2026.10.15.759299
- ScienceAlert “Your Brain May Be Switching Between Two Versions of Reality 15 Times a Second”(2026年10月23日、Michelle Starr):https://www.sciencealert.com/your-brain-may-be-switching-between-two-versions-of-reality-15-times-a-second


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