およそ1億年前のオーストラリアで、空を飛ぶ爬虫類を海の爬虫類が食べ、その海の爬虫類をさらに大きな海の爬虫類がかじった——そんな三段の「食べる・食べられる」が、たった一体の化石に丸ごと残っていた。クイーンズランド州の内陸で掘り出された魚竜(ぎょりゅう)の骨格で、胃の中身には翼竜の骨が、骨格の表面には巨大な噛み跡が刻まれている。ニューイングランド大学のマット・ホワイト氏らが、7月27日付で査読誌 Gondwana Research に発表した。
ホワイト氏はこの標本を、海生爬虫類の「事件現場」だと表現している。読み解くのに手間がかかった、とも。
白亜紀オーストラリアを覆っていた内海
いまのクイーンズランド内陸は、平たくて乾いた赤土の大地だ。日陰も水もあまりない。だが白亜紀のある時期、おおよそ1億2000万年前から9500万年前にかけて、この一帯は海の底にあった。オーストラリア大陸の3分の1ほどを覆っていた浅い内海で、エロマンガ海と呼ばれている。
そこには魚やアンモナイト、ベレムナイト(イカに近い頭足類〈とうそくるい〉)がひしめき、上空を翼竜が舞い、水中を大小の海生爬虫類が泳いでいた。今回の化石が出たのはその堆積物であるトゥーレブック層。場所はリッチモンドという町の近くで、ここは一般の人が許可を取って化石を探せる「フォシッキング」の公開地区になっている。
恐竜ではない三者
本題に入る前に、いちばん取り違えられやすいところを整理しておきたい。この話に出てくる三者は、どれも恐竜ではない。
魚竜は、海に戻って泳ぐ形に進化した爬虫類だ。見た目はイルカによく似ていて、細長い口には鋭い歯が並ぶ。今回の主役は Platypterygius australis(プラティプテリギウス・アウストラリス)という種で、全長は約6〜7メートルと見積もられた。
翼竜は、皮膜の翼で空を飛んだ爬虫類。鳥とも恐竜とも別の系統で、白亜紀の海の上を滑空していた。
プリオサウルスは、首長竜(くびながりゅう)の仲間のうち、首が短くて頭が異様に大きいグループの総称。今回関わったとみられるのは Kronosaurus queenslandicus(クロノサウルス・クイーンズランディクス)で、全長10メートル前後、円錐形の太い歯で獲物を噛みくだいた、エロマンガ海の頂点捕食者だ。
つまり、恐竜が主役の話ではない。同じ時代を生きた「恐竜以外の爬虫類」同士のやり取りが、一つの標本に記録されていたことになる。

「骨の袋」から始まった発掘
話は2019年8月にさかのぼる。趣味で化石探しをしていた2組の夫婦——マイク&キャシー・フリーマン、ゲイリー&バーブ・フルーウェリング——が、リッチモンド近郊の公開地区で大きな骨をいくつか掘り当てた。4人はそれを地元の海生化石の博物館クロノサウルス・コーナーに寄贈する。何の骨かはっきりしないまま袋に詰められていたので、館内では「B.O.B.」というあだ名で呼ばれていた。bag of bones、つまり「骨の袋」の略だ。
3年後、同館の学芸員ケヴィン・ピーターセン氏が同じ場所に戻り、残りを掘り出した。出てきたのは、発掘区画の8メートルほどにわたって散らばった巨大な魚竜の骨格だった。関節がつながって残っている部分もあれば、ばらばらになった部分もある。クリーニングには、スタッフとボランティアが延べ600時間以上をかけている。

胃の中から出てきた翼竜の骨
作業が進むなかで研究者の目を引いたのが、頭骨のすぐ後ろにあった丸い塊だった。堆積物の中で鉱物が固まってできた球状の岩の塊で、これが数個まとまって見つかっている。位置が位置だけに、魚竜の消化管の中身がこぼれて固まったものではないか——そう見当をつけたところから、この化石の本当の面白さが始まった。
塊の一つの中に入っていたのは、魚の破片と、ベレムナイトなど頭足類の残り、そして翼竜の骨2点。うち1点は下あごの骨(歯骨)の破片で、既知の標本と比べたところ、オルニトケイルス類という翼竜のグループに属する、まだ名前のついていない種のものとほぼ一致した。
つまりこの魚竜は、死ぬ前の食事に翼竜を含んでいた。魚竜が翼竜を食べたことを示す明確な化石は、世界でこれが最初の例になる。
破壊せずに中身を調べる中性子撮像
丸い塊の中身を確かめるだけなら、岩を削って中身を出すのがふつうのやり方だ。ただ、削れば中の細かい骨も一緒に壊れかねない。翼竜の骨は軽量化のために薄く、もともと壊れやすい。
そこで研究チームは、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)のジョセフ・ベヴィット氏と組んで、中性子トモグラフィーという手法をとった。外から線を当て、透過の具合から内部の断面を組み立てるという発想はX線CTと同じだが、使う「線」が違う。X線が電子のまわりで散乱するのに対し、中性子は原子核と相互作用するので、コントラストのつき方がまったく変わる。鉄分を多く含む緻密な岩のように、X線では中の骨との差が出にくい試料でも、中性子なら見分けられることがある。
おかげで、塊を割らずに、中に何がいくつ入っているかを立体で確かめられた。
脊椎に刻まれた大きな噛み跡
魚竜自身の骨のほうも、ただ事ではない状態だった。背骨(椎体)は割れ、肋骨は失われ、多くの骨に大きな噛み跡が残っている。割れた椎体のうち、片割れが見つからないものもある。
なかでも決め手になったのが、ある椎体だった。折れた縁に肋骨が食い込んだ格好で固まっていたのだ。死んだあとに土砂で押し潰されただけなら、こういう入り方はしない。強い力で顎にかけられた証拠だと研究チームは見ている。
ホワイト氏によれば、エロマンガ海で知られている生き物のうち、これだけの損傷を与えられる相手はクロノサウルスしかいない。骨が10メートル以上にわたって散らばっていたことも、大型の捕食者が死体を振り回して引きちぎった結果と考えれば説明がつく。
行動が化石に残ることの希少さ
化石からわかるのは、たいてい「どんな形をしていたか」までだ。何を食べ、誰に食べられたかという行動は、条件がそろわないかぎり残らない。胃の内容物が保存されていて、なおかつ骨に噛み跡が刻まれていて、その両方が一体の標本に同居している——これはかなり珍しい。
しかも今回はそこに三者が一度に登場する。翼竜がいて、それを食べた魚竜がいて、その魚竜を食べた(あるいは食べ散らかした)クロノサウルスがいる。エロマンガ海の食物網の一部が、推定ではなく直接の物証として押さえられたことになる。プリオサウルスの噛み跡そのものが世界的に数えるほどしか報告されていないことを考えると、記録としての価値はさらに上がる。
解釈上の留意点
面白い化石ほど、話を盛らないように線を引いておきたい。
まず、噛み跡の主がクロノサウルスだという同定は推定だ。論文でも「大きさと形からして最も可能性が高いのは」という言い方をしている。噛み跡から種を直接確定できたわけではない。
次に、魚竜が翼竜をどうやって手に入れたのかはわかっていない。魚を捕ろうと水面に降りてきた翼竜を下から襲ったのかもしれないし、すでに死んで浮いていた個体を拾っただけかもしれない。胃の中の顔ぶれが魚・頭足類・翼竜と幅広いことから、レスター大学のデイヴィッド・アンウィン氏(今回の研究には参加していない)は、この魚竜がえり好みせず海の死骸を片っ端から飲み込む「掃除屋」だった可能性を挙げている。「空中の翼竜を狩っていた」と読むのは、いまの証拠からは行きすぎになる。
クロノサウルスの側も同じで、生きている魚竜を襲ったのか、すでに死んだ体をあさったのかは決められない。発表でも「襲撃、あるいは腐肉あさり」と両にらみの書き方になっている。
そして、これは一体の標本から読み取れたことだ。「魚竜はふだん翼竜を食べていた」という話ではなく、そういう一回があったという記録である。それでも、行動が化石に残ること自体が珍しいのだから、一回で十分に大きい。
出典
論文:White, M. A. et al. “Beneath the waves: Extraordinary dietary insights from a dismembered ichthyosaur from the lower Cretaceous.” Gondwana Research, 2026.
論文ページ(Gondwana Research)(本文は購読が必要)
Phys.org:’Bag of Bones’ preserves rare three-tier prehistoric meal in Outback Queensland


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