
| 名前 | アランダスピス(学名 Arandaspis prionotolepis)。属名は「アランダの盾」、種小名は「のこぎりの鱗」の意味 |
| 分類 | 脊椎動物 無顎類 翼甲形類 アランダスピス目 アランダスピス科 |
| 時代 | オルドビス紀中期(ダーリウィリアン期、約4億6500万年前) |
| 発見地 | オーストラリア北部準州アリススプリングス近郊、マウント・ワットのステアウェイ砂岩 |
| 全長 | 約12〜16cm(後半身が見つかっていないため推定) |
| 体重 | 数十グラム程度(同じ体長の現生魚からの概算で、研究による推定値はない) |
アランダスピスは、顎を持たない魚「無顎類」のなかまです。頭から胸にかけてを上下2枚の骨の盾で包み、その後ろを細長い鱗で覆っていました。体の形が分かるオルドビス紀の脊椎動物としては最初に見つかったもので、産地は現在のオーストラリア大陸のほぼ中央にある砂漠地帯です。化石には骨がまったく残っておらず、砂岩に押された「型」だけからこの魚の姿が復元されています。
姿と暮らし
頭部の盾は、背中側がやや平たい三角形、腹側が深く丸い舟形で、この2枚が頭と鰓のある部分をすっぽり包んでいました。2枚の盾のあいだには菱形の小さな板が一列に並び、ここが鰓の位置だったと考えられています。目は頭の前方の左右に1つずつあり、背中側の盾の中央には小さな穴が2つ並んでいます。この穴は目ではなく、光を感じる松果体の開口部と解釈されています。盾の側面には溝が走っていて、水の動きを感じ取る側線があった可能性があります。
盾の後ろは、細長い鱗が列をなして体を覆っていました。鱗の後縁には小さな突起が一列に並び、縁がぎざぎざに見えます。種小名の「のこぎりの鱗」はこの形に由来します。属名のほうは、産地一帯に暮らす先住民アランダ(現在の表記ではアレンテ)の人々にちなんだものです。
胸びれや腹びれのような対になったひれはありません。ひれで姿勢を細かく制御することはできず、体をくねらせて進むだけの泳ぎだったとみられます。口は頭の下側に開いており、顎がないので噛むことはできません。海底の泥や有機物の粒を吸い込んで食べていたという見方が有力ですが、確かな証拠は見つかっていません。
当時のオーストラリアはゴンドワナ大陸の北の縁にあたり、大陸の内側まで「ララピンタ海」と呼ばれる浅い海が入り込んでいました。ステアウェイ砂岩はこの海の波打ち際に近い砂底にたまった地層で、三葉虫の這い跡(クルジアナ)や、砂に縦穴を掘って暮らした生物の巣穴が大量に残っています。地層の堆積構造と生痕化石を調べた研究では、アランダスピスのなかまは沖合には出ず、川からの真水や土砂が季節ごとに流れ込むような、ごく浅い海だけに暮らしていたとされています。ボリビアやオマーンの同じなかまの産地でも、結果は同じでした。
骨が一片も残っていない魚
アランダスピスの化石には、骨そのものが残っていません。残っているのは、きめの細かい砂岩の表面に押された盾と鱗の型です。死んだ魚が砂に埋まり、砂が固まったあとで骨の部分だけが溶けて失われ、空洞が残りました。記載論文はこの保存状態を「皮骨の自然の雌型」と表現しています。
盾の骨の厚さは0.1mmほどしかなかったとされます。それでも砂の粒が細かかったため、型には盾の外側と内側の両面が写し取られ、表面の細かな突起の模様、鱗の並び方、目と口の位置まで読み取ることができます。こうした雌型の化石は、ゴムや樹脂で型を取って元の凸面を起こしてから観察するのが一般的です。
最初の標本は1959年にアリススプリングスの近郊で見つかりました。ただし、砂岩に残る模様の正体はすぐには分からず、脊椎動物の化石だと認められたのは1960年代の後半です。オーストラリア博物館のアレックス・リッチーと、連邦の地質調査機関にいたジョイス・ギルバート=トムリンソンが正式に記載したのは1977年で、発見から18年がたっていました。
それまで、オルドビス紀の脊椎動物は北アメリカのハーディング砂岩から出るアストラスピスやエリプティキウスなどが知られていましたが、どれも骨板のばらばらな破片で、生きていたときの体の形は分かっていませんでした。アランダスピスは南半球で最初のオルドビス紀の脊椎動物であり、同時に、この時代の魚の輪郭が初めて分かった例でもありました。記載当時は、体の形が分かる脊椎動物として世界最古でもありました。
ただし、型が残っているのは頭部の盾とそのすぐ後ろの鱗までです。胴の後半と尾はこれまで見つかっておらず、尾びれの形は不明です。図鑑や博物館でよく見るオタマジャクシ形の全身復元は、後半身を近縁のサカバンバスピスから補ったものです。サカバンバスピスは1986年にボリビアから報告された同じ科の魚で、こちらは尾まで関節した全身の標本が約30体まとまって見つかり、骨の組織も保存されていました。全長の推定値が資料によって12cmから16cmまでばらつくのも、後半身の長さが近縁種からの類推で決まるためです。
「最古の魚」の座は、1999年に中国・澄江からカンブリア紀のミロクンミンギアとハイコウイクチスが報告されたことで、約5000万年さかのぼりました。これらは骨を持たない魚で、骨の鎧をまとった魚としては、アランダスピスのなかまが今も最古級に位置づけられています。また、記載時には前期オルドビス紀(アレニグ期)とされていた年代は、その後の層序の見直しで中期オルドビス紀に改められています。




出典
Ritchie, A. & Gilbert-Tomlinson, J. (1977) First Ordovician vertebrates from the Southern Hemisphere. Alcheringa 1(4): 351–368. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/03115517708527770
Davies, N. S. & Sansom, I. J. (2009) Ordovician vertebrate habitats: a Gondwanan perspective. PALAIOS 24(10): 717–722. https://doi.org/10.2110/palo.2009.p09-040r
Davies, N. S., Sansom, I. J., Nicoll, R. S. & Ritchie, A. (2011) Ichnofacies of the Stairway Sandstone fish-fossil beds (Middle Ordovician, Northern Territory, Australia). Alcheringa 35(4): 553–569. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/03115518.2011.557565
Paleobiology Database: Arandaspis prionotolepis(模式標本と模式産地). https://paleobiodb.org/classic/basicTaxonInfo?taxon_no=150088
M. H. Monroe, Arandaspis prionotolepis. Australia: The Land Where Time Began(John A. Long『The Rise of Fishes』1995年 などにもとづく解説). https://austhrutime.com/arandapsis.htm


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