
| 名前 | ヴェロキラプトル(Velociraptor)。「すばやい略奪者」の意味 |
| 分類 | 獣脚類・ドロマエオサウルス科 |
| 時代 | 白亜紀後期(約7500万〜7100万年前) |
| 発見地 | モンゴル・ゴビ砂漠、中国・内モンゴル |
| 全長 | 約1.5〜2m |
| 腰の高さ | 約50cm |
| 体重 | 約15〜20kg(推定) |
ヴェロキラプトルは、白亜紀後期のモンゴルにいた小型の肉食恐竜です。後ろあしの第2指に大きく曲がった爪を持つドロマエオサウルス科のなかまで、前あしには羽毛が生えていました。映画に登場する人間の背丈ほどの姿とは異なり、実際の大きさは大型の七面鳥に近く、映画の姿は別の恐竜をもとにしています。
姿と暮らし
全長は成体で2mほどですが、その半分近くは長い尾です。腰の高さは50cmほどで、体重は15〜20kg前後と推定されています。大型犬より軽く、中型犬と同じくらいの重さです。頭骨は長さ25cmほどで、上に向かってわずかに反った細長い吻(ふん、口先の部分)が特徴です。近縁のデイノニクスやドロマエオサウルスの吻はまっすぐか下向きに曲がるため、この反りは属を見分ける手がかりになっています。あごには縁がぎざぎざになった歯が並び、前あしの3本の指と後ろあしには鋭い爪がありました。
いちばんの特徴は後ろあしの第2指の爪です。長さは6.5cmほどで、鎌のように大きく内側へ曲がり、歩くときは地面につかないよう持ち上げられていました。この爪は長く「獲物を切り裂く武器」と考えられてきましたが、2011年にモンタナ州立大学のデンバー・ファウラーらが発表した研究では、現生のタカやワシの足と比較して、切り裂くためではなく、獲物を踏み押さえて逃がさないための爪だという解釈が示されています。タカが足で獲物を押さえ、くちばしで食べ始めるのと同じやり方です。獲物は自分と同じか、それより小さい動物が中心だったと考えられます。
羽毛の直接的な証拠は2007年に見つかりました。アメリカ自然史博物館のアラン・ターナー、マーク・ノレルとフィールド博物館のピーター・マコヴィッキーが、1998年にモンゴルで発掘された前あしの尺骨(前腕の骨)に、6個の小さなこぶが等間隔に並んでいるのを確認しました。これは現生の鳥で翼の羽毛を骨につなぎとめる場所にできる「羽毛こぶ(quill knob)」と同じ構造です。前あしには翼のような列になった羽毛が生えていたことになります。ただしヴェロキラプトルの体格と前あしの長さでは飛ぶことはできず、羽毛は体温の保持や卵を抱くときの覆い、仲間へのディスプレイなどに使われていたと考えられています。
暮らしていた場所は、今のゴビ砂漠にあたる乾いた土地でした。当時は砂丘が広がり、季節的に水が流れる場所に植物が茂る環境でした。同じ地層からは、羊くらいの大きさの角竜プロトケラトプス、卵泥棒の誤解で知られるオヴィラプトル、小型の獣脚類、原始的な哺乳類やトカゲが見つかっています。とくにプロトケラトプスは数が多く、ヴェロキラプトルの主な獲物の候補と見なされてきました。1971年にポーランド・モンゴル合同調査隊がトゥグリキン・シレという場所で発掘した「格闘化石(ファイティング・ダイナソー)」は、この関係を示す最も有名な標本です。ヴェロキラプトルが後ろあしの爪をプロトケラトプスの首に食い込ませ、プロトケラトプスがヴェロキラプトルの右腕をくわえて折ったまま、2体がからみ合った姿で保存されています。砂丘の崩落か砂嵐で一気に埋まったと考えられており、モンゴルの国宝に指定されています。
食べ物については、狩りだけでなく死体も食べていたことが分かっています。1994年にゴビ砂漠で発掘された標本は、胸のあたりに長さ7.5cmの翼竜の骨を飲み込んだまま死んでいました。骨の形から、この翼竜は翼開長2m以上のアズダルコ類と推定されています。体重15kg前後のヴェロキラプトルが生きた翼竜を襲うのは難しく、死体をあさっていたとみられています。この標本はあばら骨に治りかけの骨折もあり、けがを抱えた状態で死んだことも分かりました。
映画の「ラプトル」の正体
ヴェロキラプトルの名前を世界に広めたのは、1993年の映画『ジュラシック・パーク』です。映画では人間より背が高く、ドアを開け、群れで人間を追い詰める恐竜として描かれました。この姿は実際のヴェロキラプトルとは大きさも見た目も異なります。
映画の元になったのは、北アメリカで見つかったデイノニクスという別の属の恐竜です。デイノニクスはヴェロキラプトルと同じドロマエオサウルス科ですが、全長は3mを超え、体重も60〜80kgほどあり、ヴェロキラプトルの3〜4倍の重さになります。1969年にイェール大学のジョン・オストロムが記載した恐竜で、活発に走り回る捕食者としての復元が、恐竜像を大きく変えるきっかけになりました。
ヴェロキラプトルの名前が使われた経緯には、1988年に出版された1冊の本が関わっています。古生物復元画家のグレゴリー・ポールが書いた『Predatory Dinosaurs of the World(世界の肉食恐竜)』です。ポールはこの本で、モンゴルのヴェロキラプトルと北アメリカのデイノニクスの骨格がよく似ていることを理由に、2つを同じ属としてまとめました。学名の規則では先に付けられた名前が優先されるため、1924年命名のヴェロキラプトルが残り、1969年命名のデイノニクスは「ヴェロキラプトル・アンティルロプス」と呼び替えられました。この分類は研究者のあいだでは受け入れられず、ポール自身も後に撤回しています。
原作小説を書いたマイクル・クライトンは、執筆にあたってこの本を参考にしました。小説の「ヴェロキラプトル」は体の大きさや姿がデイノニクスにもとづいており、名前だけがポールの分類にしたがってヴェロキラプトルになっています。映画化に際しては、監督のスティーヴン・スピルバーグの意向で体がさらに大きくされました。結果として、映画のラプトルは本物のヴェロキラプトルの2倍以上の体高になっています。
映画の公開直後、この大きさに近い実在の恐竜が見つかりました。1991年にアメリカ・ユタ州で発掘され、1993年に記載されたユタラプトルです。全長は5〜7mに達し、ドロマエオサウルス科としては最大級になります。映画のラプトルのサイズが偶然にも現実に追い抜かれた形で、映画の宣伝と重なってこの恐竜の知名度を大きく押し上げました。
実際のヴェロキラプトルは、1923年にアメリカ自然史博物館の中央アジア探検隊がモンゴルの炎の崖(バイン・ザク)で見つけた、押しつぶされた頭骨と1本の爪から始まっています。翌1924年、博物館長のヘンリー・フェアフィールド・オズボーンがこの標本にヴェロキラプトル・モンゴリエンシスという名前を付けました。オズボーンはこの爪を手の爪だと考えていましたが、後の発見で後ろあしの第2指の爪だと分かっています。冷戦期にアメリカの調査隊がモンゴルに入れなかったあいだは、ソ連やポーランドの研究者がモンゴルの研究者とともに標本を集め、1990年代以降はアメリカ自然史博物館とモンゴル科学アカデミーの合同調査で、羽毛こぶの見つかった前あしを含む保存のよい骨格が次々に発掘されました。2008年には中国の内モンゴルから2種目となるヴェロキラプトル・オスモルスカエが記載されています。
現在の復元では、ヴェロキラプトルは前あしに翼状の羽毛を持ち、体も羽毛でおおわれた、大きな鳥に近い姿で描かれます。ノレルは2007年の発表で、もしヴェロキラプトルが今も生きていたら、私たちは風変わりな鳥だと思うだろうと述べています。映画の姿と実像のあいだにある大きなずれは、この恐竜を紹介するときに必ず触れられる話題になっています。




出典
Turner, A. H., Makovicky, P. J. & Norell, M. A. (2007). Feather Quill Knobs in the Dinosaur Velociraptor. Science, 317(5845), 1721. https://doi.org/10.1126/science.1145076
American Museum of Natural History (2007). Velociraptor Had Feathers. https://www.amnh.org/research/science-news/2007/velociraptor-had-feathers
Fowler, D. W., Freedman, E. A., Scannella, J. B. & Kambic, R. E. (2011). The Predatory Ecology of Deinonychus and the Origin of Flapping in Birds. PLOS ONE, 6(12), e28964. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0028964
University College Dublin (2012). Ancient fossil remains reveal Velociraptor’s last meal. https://www.ucd.ie/news/2012/03MAR12/080312-Preserved-bone-of-Pterosaur-in–stomach-of-Velociraptor.html
American Museum of Natural History. The Fighting Dinosaurs(Fighting Dinos展). https://amnh.org/exhibitions/fighting-dinos/the-fighting-dinosaurs
Smithsonian Magazine (2008). You say “Velociraptor,” I say “Deinonychus”. https://www.smithsonianmag.com/science-nature/you-say-velociraptor-i-say-deinonychus-33789870/


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