1675年の「気圧計の中の光」の謎——水銀が生む静電気の正体

科学
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1675年のある晩、フランスの天文学者ジャン・ピカールが水銀気圧計を運んでいたとき、妙なことに気づきました。ガラス管の中、水銀の液面のすぐ上あたりが、暗がりでぼうっと光っていたのです。歩くたびに水銀が揺れて、そのたびに淡い光がちらつく。ピカールはこれを仲間の学者たちに報告し、この不思議な光は「気圧計の光(バロメトリック・ライト)」と呼ばれるようになりました。

それから300年以上たった今も、この現象そのものは変わらず起きます。仕組みは電気と真空管の物理でだいたい説明がついていて、最近ではその中身を実際に手を動かして確かめる人も出てきました。今回はこの古くて面白い光の話を、電子工作系メディアのHackadayが取り上げた再現実験もまじえて紹介します。

光の正体は「こすれて生まれた静電気」

まず、気圧計の管の上のほうがどうなっているかを押さえておきます。水銀を詰めたガラス管を逆さに立てると、水銀は途中まで下がって止まり、その上に何もない空間ができます。ここは空気を抜いたのに近い状態で、わずかな水銀の蒸気と、ごく少量の気体しか残っていません。

ここで管を揺らすと、水銀がガラスの内壁をこすりながら動きます。このとき、水銀とガラスのあいだで電子のやりとりが起きて、静電気がたまります。下敷きを髪の毛でこすると静電気が起きるのと、根っこは同じ現象です。たまった電気がすき間の気体に向かって一気に流れる(放電する)と、気体の分子がはじかれて光る。これが、あの淡い光の正体です。

光り方には水銀そのものも関わっています。よけいな気体を足していない場合、光はおもに水銀の蒸気が電気で励起されて出るものです。じつはこれ、蛍光灯が光る仕組みや、昔の「水銀整流器」が青白く光るのと同じ理屈で、水銀の蒸気に電気を流すと紫外線や光を出すという、電気を使った照明のいちばん古い形のひとつでもあります。

現代のガレージで再現してみる

この光を実際に作って観察したのが、YouTuberのStyropyro(Drake Anthony)氏です。Hackadayが紹介したその手順は、意外なほど素朴でした。フラスコに細いガラスの首をつけ、中に水銀を入れて、真空ポンプで空気を抜いてから封じる。これを暗い部屋で振ると、たしかに淡い光が出ました。ただし本当に暗くしないと見えないくらい、弱い光です。

ところが、同じフラスコにネオンをほんの少し(約40ミリトルという、ごく低い圧力)足してやると、様子が一変します。軽く振っただけで、水銀の液面のすぐ上にオレンジがかった赤い光がはっきり灯ったのです。ネオンサインが赤く光るのと同じ色で、封じ込める気体を変えると色も変わります。クリプトンを入れた管は青く光りましたが、明るさはネオンほどではなかったそうです。管をジグザグに曲げて水銀が引っかかる場所を作ると、そこがより強く光る、といった細かな挙動も観察されています。テスラコイルを近づけると、気体を足さなくても強く光ったといいます。

面白いのは、この光が水銀だけの特権ではないという点です。仕組みが「こすれて静電気がたまる」ことにあるので、ほかの素材でも起こります。実験ではテフロンの破片で弱い光、銅の玉ではもう少し明るい光が確認できました。一方で、水銀の代わりになりそうなガリンスタン(毒性の低い液体金属)は、ガラスをぬらして張りついてしまうため電気がうまくたまらず、この用途には向かなかったとのことです。

身近な明かりへの入り口だった

ピカールの気づきは、その後の科学者たちにも受け継がれました。数学者ヨハン・ベルヌーイがこの光を調べ、1700年にはフランスの学士院で実演しています。イギリスのフランシス・ホークスビーも熱心に研究しました。真空に近い管の中で気体が電気で光る——という観察は、のちの放電管やネオン管、そして蛍光灯へとつながる系譜の、ずいぶん早い時期の一歩でもありました。何気ない移動中の発見が、電気の明かりの歴史に地続きになっているわけです。

留意点

いくつか、そのまま鵜呑みにしないでほしい点を書いておきます。まず、これは新しい大発見というより、350年前から知られていた現象を現代の道具であらためて確かめてみた、という位置づけの話です。仕組み自体は以前から電気と真空管の物理で説明されてきました。

そして、いちばん大事なこと。ここで使われている水銀は、蒸気を吸い込むだけでも神経などに害がある強い毒物です。「面白そうだから自分でも」と気軽にまねできる実験ではありません。ガラスが割れれば飛び散った水銀と蒸気の処理はきわめて厄介で、家庭で安全に扱える相手ではないと考えてください。この記事は現象と歴史を楽しむための紹介で、手順の再現をすすめるものではありません。

光り方は、水銀の純度やガラスの汚れ、残っている気体の種類や圧力にも左右されます。同じことをしても必ず同じように光るとは限らない、繊細な現象だという点も付け加えておきます。

元記事はHackadayの「A Sloshing-Mercury-Powered Neon Light」で読めます。再現実験の動画へのリンクもそちらにあります。

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