【第四紀の生物】イチョウ – 種子をつくる木の中で、精子が泳いでいた

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【第四紀の生物】イチョウ - 種子をつくる木の中で、精子が泳いでいた
名前イチョウ(Ginkgo biloba)。種小名の「ビロバ」は「2つに分かれた」の意味で、葉の切れ込みを指す
分類裸子植物 イチョウ目 イチョウ科 イチョウ属
時代イチョウ目はペルム紀前期(約2億9000万年前)から。イチョウ属の確かな化石はジュラ紀中期の中国から出ている。現生
分布野生の集団が残るのは中国の一部だけ。植えられた木は日本を含む世界各地にある
高さ大きな木で20〜30mほど。東京の小石川植物園にある樹齢約300年とされる木は高さ約22m

イチョウは、扇形の葉をもつ裸子植物の高木です。かつて世界中に広がったイチョウ目のなかで、今も生き残っているのはこの1種だけで、「生きている化石」と呼ばれます。種子をつくる植物でありながら、受精のときには精子が泳いで卵にたどり着きます。

姿と暮らし

イチョウの葉は、細い柄の先に扇を開いたような形で、葉脈が根元から何度も二股に分かれながら縁まで広がっています。真ん中に切れ込みが入って2つに分かれた葉も多く、学名の種小名はこの形から付きました。秋には葉が黄色くなって一斉に落ちます。

木には雄と雌があります。雄の木は春に、小さな房のような花粉の器官をつけ、風で花粉を飛ばします。雌の木の枝先には、むき出しの胚珠が2つずつ付きます。花粉は胚珠の中に取り込まれ、そこで夏のあいだに精子ができ、受精が起こります。胚珠は秋に黄色い種子になり、外側の果肉のような層は強いにおいを出します。日本では、この種子の中身を「ぎんなん」として食べます。

イチョウ目の化石は、ペルム紀前期のフランス南部のトリコピティスまでさかのぼります。三畳紀からジュラ紀にかけて種類が大きく増え、葉の形も生殖器官の形も地質時代の中でいちばん多様になりました。中国河南省のジュラ紀中期の地層からは、胚珠をつけた器官ごと残ったイチョウ属の化石が見つかり、1989年にイチョウ・イマエンシスとして記載されています。白亜紀の終わりからイチョウ目は急に数を減らし、北米と、のちにヨーロッパからも姿を消しました。東アジアでいちばん新しい化石は、日本の鮮新世から更新世の地層から出ています。

野生のイチョウは一時、絶滅したとも考えられていました。2019年、中国の研究チームは、世界9か国の51の集団から545本のイチョウのゲノムを読み、中国の南西部、東部、南部の3か所に、氷期を生き延びた避難場所があったことを示しました。日本や朝鮮半島のイチョウは、ヨーロッパや北米より早く、中国から人の手で持ち込まれたと推定されています。ヨーロッパと北米で植えられるようになったのは18世紀からです。

種子植物の中を泳ぐ精子

19世紀の植物学では、種子をつくる植物の受精は、花粉から伸びた管が卵まで届き、その中の動かない精細胞が卵と合わさるものと考えられていました。泳ぐ精子をもつのはコケやシダのなかまで、種子植物は水の中を泳ぐ受精から離れた植物とされていました。

1896年、帝国大学理科大学(現在の東京大学理学部)の植物学教室の助手だった平瀬作五郎は、イチョウの胚珠の中で、花粉管の中から動く精子を見つけました。平瀬は福井の出身で、1888年に植物学教室に植物図を描く画工として雇われ、図を描くかたわら、自分で顕微鏡の標本をつくって観察を続けていました。この観察に使われたイチョウの木は、今も東京の小石川植物園に立っています。

同じ1896年、平瀬に助言をしていた帝国大学の池野成一郎も、ソテツで泳ぐ精子を見つけました。種子植物の中に、コケやシダと同じように泳ぐ精子をもつものがあると分かったこの2つの発見は、日本の近代生物学が世界に向けて示した最初の貢献とされています。平瀬と池野は1912年、そろって帝国学士院恩賜賞を受けました。平瀬は発見の翌年に大学を辞め、その後は滋賀県と京都の中学校で教えています。

イチョウの精子は、1つの細胞におよそ千本のべん毛がらせん状に並んだ、大きな精子です。春に胚珠に入った花粉は、およそ4か月かけて花粉管の中に精子をつくります。精子は胚珠の中の液の中に放たれ、卵が出す化学的な合図をたどって泳ぎます。高い木の上の小さな胚珠の中で起きていることですが、仕組みは、陸の植物の祖先が水の中で精子を泳がせていたころの名残と考えられています。現在、泳ぐ精子をもつ種子植物は、イチョウとソテツのなかまだけです。

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出典

Zhao, Y.-P. et al. (2019). Resequencing 545 ginkgo genomes across the world reveals the evolutionary history of the living fossil. Nature Communications 10, 4201. https://doi.org/10.1038/s41467-019-12133-5

Zhou, Z.-Y. (2009). An overview of fossil Ginkgoales. Palaeoworld 18, 1–22. https://doi.org/10.1016/j.palwor.2009.01.001

International Organisation of Palaeobotany. Ginkgo biloba, its ancestors and allies(Zhou, Z.-Y. による解説). https://palaeobotany.org/index.php/living-fossils/gingko-biloba-its-ancestors-and-allies/

Nagata, T. (1997). Scientific contributions of Sakugoro Hirase. In Ginkgo Biloba A Global Treasure, 413–416. Springer. https://doi.org/10.1007/978-4-431-68416-9_30

Friedman, W. E. (2015). The swimming of the ginkgo sperm. Arnold Arboretum of Harvard University. https://arboretum.harvard.edu/stories/the-swimming-of-the-ginkgo-sperm/

コトバンク「平瀬作五郎」(日本大百科全書・世界大百科事典ほか). https://kotobank.jp/word/%E5%B9%B3%E7%80%AC%E4%BD%9C%E4%BA%94%E9%83%8E-1103981

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