深海3,000mの巨大ウミグモに、小さなヨコエビがしがみついていた

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2024年11月、チリ沖の水深3,155mで、無人探査機のカメラが一匹の巨大なウミグモを捉えました。脚を広げると数十cmにもなる、深海でいちばん大きな種類のウミグモです。そして、その細長い脚には、小さな甲殻類が3匹しがみついていました。

深海の生き物が別の生き物の上に乗っている場面は、それだけなら珍しい偶然で済まされたかもしれません。ところがこの組み合わせは4日後、225kmも離れた別の場所で、もう一度カメラに映りました。チリとポルトガル、ドイツ、アメリカの研究チームがこの2回の出会いを記録した短い論文が、2026年9月に生態学の専門誌 Ecology に載っています。

脚ばかりの巨大ウミグモと、泳ぎの苦手なヨコエビ

乗り物になっていたのは、コロッセンデイス・コロッセア(Colossendeis colossea)というウミグモです。ウミグモは名前に「クモ」とついていますが、陸のクモとは別のグループで、海だけに暮らす節足動物の仲間です。体はごく小さく、ほとんど脚でできているような姿をしていて、消化管や生殖器官の一部が脚の中にまで入り込んでいます。コロッセンデイス・コロッセアはその中でも最大級で、脚を広げた幅は70cmほどに達します。水深420mから5,200mほどの深い海底に、北極海をのぞく世界中の海で見つかっています。

この長い脚は海底を歩くためだけのものではありません。脚を大きく広げて海流に乗り、かなりの距離を漂って移動することも知られています。深海の広さを考えると、これは強みです。

一方、しがみついていたのはメソプレウステス・アビッソルム(Mesopleustes abyssorum)というヨコエビです。ヨコエビは磯の石の下などにいる、体が横に平たい小さな甲殻類の仲間で、深海にも多くの種がいます。

このヨコエビには、以前から首をかしげられてきた点がありました。泳ぎはあまり得意ではなく、海流に乗って遠くへ運ばれる浮遊幼生の時期もありません。つまり自力で遠くへ散らばる手段をほとんど持っていないのに、太平洋・大西洋・インド洋・南極海の水深690mから3,500mほどの範囲で記録されてきたのです。移動の手段と分布の広さが、どうにも釣り合いません。実はよく似た別種がいくつも混ざっているのではないか、という疑いもまだ晴れていません。

4日後、225km離れた海底で繰り返された同じ光景

観察を行ったのは、シュミット海洋研究所の調査船ファルコー(too)と、無人探査機サバスチャンです。2024年10月から12月にかけて、チリ沖の海底渓谷やメタンが湧き出す場所を55日間かけて調べる航海の途中でした。

最初の出会いは11月24日、切り立った岩がちな海底渓谷の水深3,155mでした。ウミグモの脚には3匹のヨコエビがついていて、大きめの2匹は体の前のほうにある感覚用や繁殖用の付属肢に、小さめの1匹は歩くための脚の後ろのほうにいました。

ここで終わっていれば、ちょっと変わった一枚の写真で済んだはずです。ところが4日後、そこから約225km離れた水深2,698mの海底で、別のコロッセンデイスがまた歩いていて、その脚にも2匹のヨコエビが乗っていました。

しかも、乗り方が尋常ではありませんでした。ヨコエビは脚の先にある長い爪のような構造でウミグモの脚を強く握っていて、探査機が採集して船に引き上げたあとも離れなかったそうです。たまたま触れていた、という感じではありません。

さらに興味深いのは、乗っていた顔ぶれです。2回とも、体の前のほうに並んでいた大きめの2匹は、オスとメスのペアでした。1回目の3匹目はメスで、卵を抱えていました。広い深海でこの小さな生き物どうしが出会うのは簡単ではありません。研究チームは、ウミグモが単なる乗り物であるだけでなく、ばらばらに散らばったヨコエビが落ち合って繁殖するための、動く待ち合わせ場所になっている可能性を挙げています。

100年前に一度だけ残されていた記録

じつは、この2種の組み合わせには先例があります。1927年、フランスの甲殻類学者シュヴルーが、このヨコエビがコロッセンデイス・コロッセアにくっついていたと報告していたのです。ただし写真も図もない短い記述だったため、その後ほとんど注目されないまま、ほぼ1世紀が過ぎていました。

今回の観察は、その古い記述を生きたままの姿で、しかも2回、別々の場所で裏付けたことになります。研究チームは、この関係がチリ沖の海域では珍しくなく、広く起きているのかもしれないと考えています。

「便乗」という生き方

ある生き物が別の生き物を乗り物として使う関係には、フォレシー(便乗)という名前がついています。ダニが昆虫の体にしがみついて別の場所へ運ばれる、といった関係がよく知られています。研究チームは、このヨコエビがウミグモに対してやっているのも、これに当たるのではないかと見ています。泳ぎの苦手なヨコエビが海流に乗るウミグモの脚に乗れば、自力ではとても届かない距離を移動できることになります。先ほどの「分布が広すぎる」という謎に、ひとつの答えが見えてきます。

乗る側の利点は移動だけではないかもしれません。食べ物の乏しい深海で、えさのある場所へ連れていってもらえること、海底をうろつく捕食者から離れられること、相手を見つけやすくなることも、研究チームは候補として挙げています。

ただし、観察はまだ2回だけです。論文自身も、偶然の接触である可能性は捨てきれないと認めています。ヨコエビが特にウミグモを選んでいるのか、たまたま近くにあった掴みやすいものに掴まっているだけなのかも、まだ分かりません。チームは今後、海底での観察を積み重ねること、集団の遺伝的なつながりを調べること、そしてヨコエビが何を食べているかを調べることで、この関係の正体に近づけると書いています。

深海の生き物は、食べ物も相手も乏しい場所で暮らしています。そこでは、脚にしがみつくというごく小さな行動が、生き延びるための大きな意味を持っているのかもしれません。

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