鳥の声の「美しさ」は、高さ・静かさ・音域の狭さで半分近く決まっていた。123種を84人に聞かせた実験

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春先の夕方、屋根の上でクロウタドリ(ヨーロッパの街や庭でごくふつうに見られる、黒いツグミの仲間)が長く歌っているのを聞くと、鳥に興味がない人でも足を止めます。いっぽう、夜の納屋から響くメンフクロウのしわがれた叫び声を「美しい」と言う人はまずいません。同じ鳥の声なのに、なぜこれほど印象が違うのか。その鳥を知っているから、鳥が好きだからなのか。それとも、音そのものに「心地よく聞こえる条件」があるのか。

ドイツのテュービンゲン大学のチームが、この素朴な問いを正面から実験にしました。ヨーロッパの鳥123種の声を84人に聞かせ、心地よさを5段階で採点してもらい、その点数を音の物理的な性質と突き合わせたのです。論文は2026年9月2日に Frontiers in Bird Science に載りました。筆頭著者はナディーン・カルブ、最後の著者はクリストフ・ランドラーです。

123種の声を、名前を伏せて採点する

実験は大学の静かなセミナー室で行われました。参加者は4〜6人ずつ、離れて座り、ヘッドホンをつけてタブレットで回答します。流れるのは、ドイツで広く見られる野鳥123種の鳴き声を15秒ずつ切り出した音源で、市販の鳥の声のDVDから取られています。羽音やキツツキのドラミングは除き、成鳥の声だけを使いました。

大事なのは、種名を一切見せなかったことです。音は無作為な順番で流れ、参加者は何の鳥かを知らないまま、「あまり心地よくない」の1から「とても心地よい」の5までで点をつけます。聞き直しは自由で、時間の制限もありません。参加者は19歳から81歳までの84人で、平均は34歳ほど、7割ほどが女性でした。

あわせて、参加者には別の質問にも答えてもらっています。姿や声で何種くらいの鳥を見分けられるか、自分の腕前をどう評価するかという「鳥の知識」と、鳥がどのくらい好きかという「鳥への気持ち」です。この2つを分けて測ったことが、あとで効いてきます。

音のほうは、音響分析ソフトで一つひとつ測りました。音の高さ(音のエネルギーの下限・上限・ピーク)、音域の幅、音の大きさ、そして「要素の種類数」です。要素とは、スペクトログラム(音を時間と高さの図にしたもの)の上で切れ目なくつながった一つのかたまりで、見た目の似たものを同じ種類として数えています。種類が多いほど、いろいろな音を織り交ぜた複雑な歌ということになります。

1位はクロウタドリ、最下位はメンフクロウ

123種の平均点は5点満点で3.13でした。いちばん高かったのはクロウタドリで4.52。いちばん低かったのはメンフクロウで1.32です。スミソニアン誌の報道によれば、上位にはヤナギムシクイ、ズグロムシクイ、ヤドリギツグミといった歌の名手が並び、下位にはエジプトガン、アオサギ、ハヤブサが入りました。シジュウカラ、アオガラ、アオカワラヒワのような庭でよく見る小鳥も高めの点を取っています。

ここまでは、鳥好きの人なら「そうだろうな」と思う結果です。この研究の中身は、ここから先にあります。

高く、静かで、音域が狭い声ほど好まれる

チームは、測った音の性質を3つのまとまりに整理しました。「音の高さ」「音域の幅(と上限の高さ)」「音の大きさ」です。この3つで、種ごとの平均点を説明できるかを調べたところ、種どうしの点数のばらつきのうち約47%を、この3つだけで説明できました。半分近くが、音の物理量で決まっていたことになります。

傾向ははっきりしていました。音が高いほど点が上がり、音域が広いほど下がり、音が大きいほど下がる。つまり、高く、静かで、音の幅が狭く収まっている声が好まれます。クロウタドリの歌はこの条件によく当てはまる、とチームは書いています。

低い音が不快に感じられやすいこと、大きな音が落ち着かなさや攻撃性と結びつきやすいことは、人の聴覚の研究で以前から知られていました。チームはさらに、人の耳がいちばん敏感な2.4〜5.5キロヘルツの帯域の音は実際より大きく強く聞こえ、不快に感じられやすいという先行研究を引いて、評価の高かった声の多くがこの帯域から外れていたと述べています。

単純な繰り返しのほうが心地よい、という予想は外れた

もう一つの軸が、歌の複雑さです。チームは当初、単純で繰り返しの多い音のほうが聞き取りやすく、心地よく感じられるだろうと考えていました。結果は逆でした。要素の種類が多い、つまり複雑な歌ほど点が高かったのです。いっぽうで、15秒のあいだに鳴る要素の総数は点数と関係がありませんでした。たくさん鳴くことではなく、いろいろな音を使い分けることが評価につながっていたわけです。

複雑さの効果は、高さ・幅・大きさの3つと一緒に解析しても残りました。ただし複雑さだけで説明できる部分は小さく、点数のばらつきの1割に届きません。主役はあくまで音の高さと静かさで、複雑さはそこに上乗せされる要素、という位置づけです。

鳥に詳しいかどうかは、関係なかった

では、聞く側の違いはどうだったのか。鳥を何種見分けられるかという「知識」は、心地よさの点数と関係がありませんでした。鳥に詳しい人も、まったく知らない人も、同じ声を同じように採点していたのです。年齢や性別の違いも見られませんでした。

関係があったのは「鳥への気持ち」のほうです。鳥が好きだと答えた人ほど、全体に高い点をつける傾向がありました。知識は評価を変えず、好意は底上げする。カルブはスミソニアン誌の取材に、鳥の声を美しいと感じるのに「鳥の人」である必要はない、と話しています。

チームはもう一つ、別の比較もしています。イギリスで2016年に行われた、鳥の声を聞いて「どのくらい気持ちが回復するか」を尋ねた研究と、今回の結果を共通する21種で照らし合わせたところ、心地よいと評価された種ほど回復の効果も高いという、中程度の相関が見られました。国も参加者も違う2つの研究で、同じ方向の答えが出ています。

どこまで言えて、どこから先が分からないか

限界もはっきり書かれています。参加者はドイツの84人だけで、鳥もドイツの種に限られます。別の文化圏で同じ順位になるかは分かりません。音源は市販DVDで録音条件がそろっていないため、とくに「音の大きさ」の結果は慎重に見る必要があります。複雑さの測り方も、要素の種類を数えるだけの簡略なもので、鳴く頻度は調べていません。

それでも、種名を隠した状態で、音の性質だけから半分近くを説明できたという事実は残ります。チームは、都市の緑地の音環境を考えるとき、鳥の種類や数だけでなく、そこで鳴いている声の「中身」も見てはどうかと提案しています。また、保全活動の顔になる種を選ぶとき、見た目の華やかさに加えて声の心地よさも手がかりになるかもしれない、とも書いています。

この最後の点には、別の見方もあります。スミソニアン誌の取材を受けたウォーリック大学のオルガ・フェヘルは、心地よい声の鳥が優先されると、そうでない声の鳥の保全が後回しになりかねないと懸念を示しました。メンフクロウの叫びは、点数こそ最下位でも、夜の農地の生態系には欠かせない声です。

チーム自身も、心地よい声を聞くことが実際に気分や健康の改善につながるかは、まだ別に確かめる必要があると書いています。鳥の声の「美しさ」を数字で測る試みは、ようやく入り口に立ったところです。

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