ロサンゼルスのダウンタウンの下には柔らかい地層が10キロ。住宅街の庭先に置いた273台の地震計が、盆地の形と、その真下で持ち上がる地殻の底まで描き出した

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カリフォルニアで「ビッグ・ワン」と呼ばれる、サンアンドレアス断層の大地震のシミュレーションがあります。ソルトン湖の近くで起きたマグニチュード7.8の地震の波が北西へ走り、ロサンゼルスの街に届く。その計算のなかで、ダウンタウンの地面は何分間もゼリーのように揺れ続けます。震源から200キロ以上も離れているのに、です。

理由は足もとにあります。ロサンゼルスは、柔らかい堆積物がたまった「盆地」の上に建っています。盆地の中の柔らかい地層は地震の波を増幅し、揺れを長引かせる。これは昔から分かっていたことで、冒頭のシミュレーションでダウンタウンが揺れ続けるのも、この盆地の効果です。

ところが、肝心の「盆地がどんな形をしているか」は、意外なほど粗くしか分かっていませんでした。盆地の底、つまり柔らかい堆積物と硬い岩盤の境目を測った過去の調査は、地震計を一直線に並べて断面を1本切ったものがほとんどで、盆地を立体として捉えた地図はなかったのです。カリフォルニア工科大学(Caltech)の大学院生 Valeria Villa さんと、名誉教授の Robert Clayton さんは、その地図を初めて作りました。論文は2026年8月4日に Journal of Geophysical Research: Solid Earth に掲載されています。

住宅街の庭先に置いた273台の地震計

2022年の秋、Caltech のチームは小型の地震計(ノード)273台を、ロサンゼルス一帯に1〜2キロ間隔で設置しました。範囲は北のパサデナから南のロングビーチまで、西のサンタモニカから東のオレンジ郡まで。地面から顔を出す部分は13センチほどの小さな装置で、設置したのは Villa さんをはじめとする大学院生やポスドクのボランティアです。設置場所としては住宅街が向いていることが多く、家の持ち主や借り主に協力をお願いして庭先に置かせてもらったケースが多かったといいます。観測期間は1か月でした。

この地震計が拾うのは、ロサンゼルスの地震ではありません。地球の反対側のような遠くで起きた地震の、人には感じられないほど弱い波です。遠くから来た P 波(最初に届く縦波)が、柔らかい堆積物と硬い岩盤の境目を通り抜けるとき、一部が S 波(横波)に姿を変えます。その変換波が地表に届くまでの遅れを測れば、境目の深さが分かる。レシーバー関数と呼ばれる、地殻の構造を探るときの定番の手法です。チームは、堆積物と岩盤の境目だけでなく、堆積物の中にある地層の境目と、地殻とマントルの境目(モホ面)からの変換波も、同じ記録のなかから拾い出しました。

やっかいなのは、ロサンゼルス盆地では、この定番の手法がそのままでは効かないことでした。今回の設置は、一直線に並べた2本の列に加えて、残りの地震計を広い範囲に散らばせた形です。散らばった地震計どうしは離れているので、隣の記録と見比べて「この波がその境目だ」と確かめるやり方が使えません。おまけに盆地そのものが波をかき乱します。Villa さんは、足りなかったのは地震の波ではなく、盆地が信号をごちゃごちゃにしてしまうことが問題だった、と話しています。

そこでチームが頼ったのが重力でした。柔らかい堆積物は硬い岩盤より軽いので、堆積物が厚い場所ほど、地表で測る重力はわずかに弱くなります。この重力のデータを組み合わせれば、ばらばらに散った地震計の記録のなかから、堆積物の底にあたる変換波を矛盾なく選び出せる。Villa さんが開発したこの方法で、点だった観測を面に広げ、盆地を3次元の地図にしました。

ダウンタウンの下に10キロ、縁は1〜4キロ

できあがった地図に写っていたのは、細長い楕円形の盆地でした。いちばん深いのは中央、ダウンタウンの真下で、柔らかい堆積物の厚さは10キロ近くに達します。一方、盆地の縁は薄く、硬い結晶質の岩盤までの厚さは1〜4キロです。パサデナの東に広がるサンガブリエル谷や、さらに東のサンバーナーディーノ谷の堆積物は、ロサンゼルス盆地よりずっと浅いことも確かめられました。

この盆地は、少なくとも1,500万年かけて土砂がたまってできたものです。最初は海の底で、下のほうの地層は海でたまった堆積物。のちに地殻の動きで陸になり、その上に周りの山から流れ出た土砂が積もりました。形がゆがんでいるのは、そのあいだに断層がずれ、地殻が引き伸ばされたり押し縮められたりしてきたためです。2024年の学会発表の段階でチームは、南側は比較的平らで、北側は大きく湾曲し、東側は切り立ち、西側はなだらかに傾く、と盆地の輪郭を説明しています。

「ダウンタウンの下が深い」こと自体は、新しい発見ではありません。この研究の価値は、縁の形まで含めて、盆地の輪郭がこれまでになく細かく分かったことにあります。論文に関わっていない米国地質調査所(USGS)の地震学者 Elizabeth Cochran さんは Live Science の取材に、盆地の縁の形が詳しく分かった意味は大きい、と話しています。縁がいびつだと、そこで地震の波が集められたり、向きを変えられたりするからです。1994年のノースリッジ地震(マグニチュード6.7)では、サンタモニカで予想以上の揺れの被害が出ました。地震の波が盆地の縁に沿って伝わったせいだと考えられています。

盆地の真下で持ち上がっていた地殻の底

この研究には、もう一つ見どころがあります。地震計の記録には、堆積物の底よりはるかに深い、地殻とマントルの境目(モホ面)からの変換波も写っていました。チームがその深さを調べると、モホ面は盆地の真下で周りより持ち上がっていました。盆地をひっくり返したような形で、地殻の底が上にふくらんでいたのです。

これは、地殻がマントルの上で釣り合っていると考えると筋が通ります。地殻は、より重いマントルの上に浮かぶように載っています。地表の高さが同じなら、地面の下の柱の重さはどこでも同じになるように釣り合うはずです。盆地の中は軽い堆積物が10キロも詰まっているぶん、その下の地殻は薄くなり、重いマントルが浅いところまで来て帳尻を合わせる。チームがこの釣り合いを仮定して見積もったところ、盆地の下のモホ面は、周りの地殻と比べて最大で45%持ち上がっているという結果になりました。

つまり、ダウンタウンの足もとには、上に10キロの柔らかい地層があり、その下の硬い地殻はこの地域でいちばん薄い。盆地の深さを測りに行った調査が、地殻の厚みの地図まで一緒に持ち帰ったわけです。地殻がどれだけ薄くなっているかは、この盆地がどうやってできたのかを組み立て直す手がかりにもなる、とチームは書いています。

揺れの地図ではなく、揺れを計算するための地図

念のために書いておくと、この地図は「どこが一番揺れるか」を直接示すものではありません。実際の揺れは、どの断層が動くか、波がどの向きから来るか、表層の土の性質はどうか、といった多くの条件で変わります。Villa さんも、この地図があれば研究者がシミュレーションを更新して、いろいろなシナリオを試せるようになる、という言い方をしています。盆地の形は、揺れを計算するための土台です。

それでも、この土台が揺れの分布を決める大きな要素であることは変わりません。Clayton さんは、ロサンゼルスを大地震が襲ったとき、ひどく壊れる街区と、ほとんど無事な街区が出る、その分かれ目を作るのが地下の盆地の変化だ、と話しています。堆積物が深いほど、ゆっくりした長い周期の揺れが生まれます。音でいえば低い音で、こちらは高層ビルのような大きな建物を揺らしやすい。浅い堆積物の上で目立つのは短い周期、高い音のような揺れで、一般にこちらは背の低い建物のほうが影響を受けやすいとされています。Cochran さんは、建物の固有の揺れ方と足もとの地層の揺れ方が一致する「共鳴」が起きると被害が大きくなるので、地下の構造が分かっていれば建物の硬さを変えるなどして避けられる、と説明しています。

チームが次に取り組むのは、堆積物と岩盤の境目そのものの性質です。盆地の底が硬いと、下から来た波が跳ね返って地表へ戻ってきます。境目で波の速さがどう変わるかが分かれば、強い揺れのシミュレーションはもっと完全なものになります。その先には、地表から1キロまでの土の違いがあります。Clayton さんによれば、土は街区ごとに大きく違っていて、それが家やビルの揺れに直接効く。もっと密な観測が要るので、USGS の「Did You Feel It?」のように住民が感じた揺れを報告する仕組みも使えるかもしれない、とのことです。

最後にもう一つ。ロサンゼルスの地震というと東のサンアンドレアス断層に目が行きがちですが、Clayton さんは、盆地の中で起きる地震も同じくらい破壊的になりうる、と念を押しています。1933年のロングビーチ地震は、盆地の中を走るニューポート・イングルウッド断層で起きたマグニチュード6.4の地震でした。柔らかい地盤と当時の弱い建物が重なって、大きな被害が出ています。盆地の形を知ることは、どちらの地震に対しても意味がある、ということです。

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出典

  • Villa, V. & Clayton, R. W. (2026) Three-Dimensional Structure of the Los Angeles Basin and Its Underlying Moho. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 131(8). https://doi.org/10.1029/2026JB033837
  • Caltech「New Underground Map of the Los Angeles Region Tracks Seismic Shaking」(2026年8月31日):プレスリリース
  • Villa, V., Clayton, R. W., Lin, F. & Ford, H. A. (2024) The Los Angeles Basin Shape and its Underlying Shallow Moho. 2024 SCEC Annual Meeting ポスター:発表要旨
  • Live Science「We now have an incredibly detailed map to help predict which areas of LA are the most at risk from ‘The Big One’」(2026年9月14日、Stephanie Pappas):記事ページ

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