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2010年4月、メキシコ湾の海底油田の掘削施設ディープウォーター・ホライズンが爆発し、井戸がふさがるまでの87日間に、海の歴史で最大となる量の原油が流れ出ました。海面の油膜や海岸の汚れは何年もかけて目立たなくなりましたが、光の届かない水深数百メートルの生き物がどうなったかは、長く分かっていませんでした。米国のノバサウスイースタン大学の Tracey Sutton らの研究グループが、事故直後から13年分の調査をまとめ、深い海の生き物の数が事故のあとに急に減り、そのまま戻っていないことを報告しました。論文は2026年10月19日に PNAS に載っています。
メキシコ湾の体積の9割を占める「中深層」
海の生き物というと海面近くや海底を思い浮かべますが、その間に広がる水の層にも、たくさんの生き物が暮らしています。水深200メートルより深く、海底には触れない層を中深層・漸深層と呼び、ここに住む魚やエビ、イカをまとめて深海の遊泳生物と呼びます。メキシコ湾では、この層が海水の体積の90.4%を占めます。
この層の住人の多くは、夜になると海面近くまで数百メートル浮かび上がって餌をとり、夜明け前に深みへ戻ります。この毎日の上下運動は、海面近くの炭素を深い海へ運ぶポンプの役を果たしています。マグロやクジラなど大型の捕食者の餌でもあり、漁業や観光が成り立つ土台の一部でもあります。
研究グループは、事故の翌年にあたる2011年から中深層の生き物を網で採り始め、2015年から2023年まで調査を続けました。採集した網は合わせて2,000回を超えます。網だけでなく、音波で水中の生き物の密度を測る音響の観測も行い、優占する種については遺伝的な多様性も調べました。

3年半で6〜8割減り、そのまま戻らない
結果ははっきりしていました。2011年から3年半のあいだに、深海の遊泳生物の数は分類群によって60〜85%減りました。魚全体では63.5%、甲殻類は62%、イカなどの頭足類は59.7%の減少です。とりわけ減ったのが、この層の生態系を支える土台にあたる生き物で、オキアミは72.8%、ハダカイワシ類は62.9%、ヨコエソ属の小さな魚は69%減りました。
減り方の速さも異例でした。比べられる唯一の長期データであるカリフォルニア海流域の60年分の記録を見ても、これほど大きな減少が3年半で起きた例はありません。研究グループは、地球で最も大きな生態系の型である深海の遊泳層で報告された中で、最も速く最も深刻な減少だと書いています。
この減少は網の採集と音響観測の両方で確かめられ、別々の方法が同じ答えを出しました。優占種の遺伝的な多様性も下がっていて、個体数の減少を裏づけると同時に、その結果でもあります。そして2023年の最後の調査まで、数が回復に向かう兆しは見えませんでした。
気温でも酸素でも餌でもなかった
なぜ減ったのか。研究グループはまず、自然に起こりうる原因を一つずつ当たりました。水温、酸素の量、餌の供給。どれも減少と連動して変化してはいませんでした。Sutton は AP 通信の取材に、調べた自然の変数のどれも減少と一致せず、時期が一致した出来事は原油の流出だけだったと話しています。
流出では原油そのものに加え、油を細かく砕く分散剤が約77万ガロン(約290万リットル)、井戸の出口付近に注入されました。海面に油膜を広げないための措置でしたが、油も分散剤も海の生き物には有毒で、食物連鎖の土台にあたる動物プランクトンには、両方が合わさるとさらに強い害を与えることが分かっています。油の残りは海底にまで達していて、汚染は衛星画像で見えた範囲よりずっと広かったことも分かっています。
研究グループは、流出が原因だと証明したわけではありません。論文の言い方は「最も節約的な説明」、つまり分かっている事実を最も少ない仮定で説明できるのが流出だ、というものです。自然の要因が消去され、減少の始まりが流出の直後だった以上、人の活動が直接の原因だと考えるのが筋が通る、という判断です。

深海は広いが、もろかった
影響は深みにとどまっていないようです。メキシコ湾の資源管理の担当者たちは、深海の生き物を餌にする管理対象種や保護種でも同じ傾向が見られると報告しています。その中には絶滅危惧種のアカボウクジラ類やライスクジラも含まれます。調査船の研究者からは痩せたクジラの目撃や、以前は行動が読めたマッコウクジラが餌を求めて湾内を不規則に動き回っているという報告もあります。
フロリダ国際大学の Pedro Peres は、今回減った種は数が多く広く分布し、これまで脆弱とは考えられてこなかった種ばかりだと指摘しています。数が多く見える種でも、観測を続けていなければ気づかれないまま大きく変わりうる、ということです。
研究グループの結論は、深海の遊泳層はその途方もない広さにもかかわらず、人の起こした撹乱に弱く、回復する力も限られている、というものです。海の体積の大半を占めるこの層で何が起きているかは、網を下ろし続けなければ見えません。16年前の事故の影響がまだ続いているという今回の報告は、見えない場所を測り続けることの意味を示しています。
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出典
- Tracey T. Sutton, Rosanna J. Milligan et al., “Immense but not immutable: A sudden and sustained decline in deep-pelagic life in a large oceanic ecosystem”, PNAS 123(43)(2026年10月19日):https://doi.org/10.1073/pnas.2616554123
- ScienceAlert “16 Years After Deepwater Horizon Spill, Deep Sea Life in The Gulf of Mexico Shows No Sign of Recovery”(2026年10月23日、Jess Cockerill):https://www.sciencealert.com/16-years-after-deepwater-horizon-spill-deep-sea-life-in-the-gulf-of-mexico-shows-no-sign-of-recovery


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