太陽の機嫌は、11年ごとに良くなったり悪くなったりします。機嫌が悪い時期には、大きな爆発現象が立て続けに起きて、人工衛星やGPS、ときには地上の電力網にまで影響が及びます。だから「次の周期はどれくらい荒れるのか」を前もって知ることは、宇宙にも地上にも関わる実用的な課題です。ところがこの予測、これまでずっと難しいままでした。
そこに新しい手がかりが見つかりました。太陽の激しい活動が「スッと止まる瞬間」が毎回の周期の中にあり、その瞬間の黒点の数を数えれば、次の周期の強さを最大7年前から見積もれる——。英ウォーリック大学のチームが、そんな予測手法を英国王立天文学会の全国天文学会議(NAM 2026)で発表しました。
11年周期と予測の難しさ
太陽はおよそ11年の周期で活動が満ち引きします。この間に太陽の磁場は南北が入れ替わり、表面に見える黒点(こくてん)の数も増えたり減ったりします。黒点は磁場の活動が特に激しい領域で、ここから太陽フレア(爆発現象)やコロナ質量放出(太陽の大気が電気を帯びたガスのかたまりとして飛び出す現象)が発生します。これが地球に届くと、人工衛星や通信、GPS、電力網に障害を起こすことがあります。いわゆる「宇宙天気」です。
黒点の観測記録は何百年分もあるのに、周期の予測がいまだに難しいのには理由があります。同じ周期が二度と来ないからです。長さも強さも毎回違い、「前回がこうだったから次もこう」が通用しません。従来の予測手法の多くは、太陽がいちばん静かになる「極小期」を待ってから計算する必要があり、予測が出せるのはピークの数年前になってからでした。
激しい活動は「フェードアウト」しない
研究を率いたのは、ウォーリック大学のサンドラ・チャップマン教授です。チャップマン教授は以前から「サンクロック(太陽時計)」という手法を開発してきました。長さがばらばらな太陽周期を、規格化した時計の文字盤に写し取って比べる、という発想です。
この時計の上で過去の周期を並べてみると、意外なことがわかりました。太陽の最も激しい宇宙天気は、周期の終わりに向かってだらだら弱まっていくのではなく、周期ごとの決まった段階で急に止まっていたのです。チャップマン教授はこれを、太陽は「そっと眠りについて、そっと目覚めるわけではない」と表現しています。眠りに落ちる瞬間が、はっきりあるということです。
そして今回の発見の核心はここからです。この「スイッチオフ」の時点で残っている黒点の数が、次の周期のピーク時の黒点数と強く結びついていました。つまり、スイッチが切れた瞬間に黒点を数えれば、次の周期がどれくらい活発になるかを、ピークの6〜7年前という早い段階で見積もれることになります。極小期を待つ従来の方法より、かなり長いリードタイムです。

次の周期「第26期」の見積もり
チームはこの手法を使って、次の太陽周期「サイクル26(第26太陽周期)」の早期見積もりをすでに出しています。結果は、黒点数がおよそ100〜120の「中規模」。現在進行中のサイクル25と同じくらいか、やや弱めになりそう、という数字です。
ちなみにこの手法、実績がひとつあります。サイクル25について、多くの従来予測より活発になると事前に示していたのです。実際サイクル25は予想を上回る活発さで、2024年には20年以上ぶりという強い磁気嵐が発生し、英国ではふだんオーロラが見えない南部の地方まで、広い範囲で夜空が染まりました。日本でも低緯度オーロラが話題になった、あの時期の話です。
なぜ急に「切れる」のか
では、なぜ激しい活動はスイッチを切ったように止まるのでしょうか。鍵は黒点の「引っ越し」にありそうです。
黒点は周期のはじめ、太陽の高緯度(極に近い側)に現れ、周期が進むにつれてだんだん赤道の近くへ移動していきます。この移動を時間軸に沿って図にすると蝶(ちょう)が羽を広げたような形になるため、「バタフライ・パターン」と呼ばれています。
そして太陽には、緯度によって自転の速さが違うという性質があります(差動回転といいます)。速さの違う領域が隣り合っていると、そこから顔を出す磁場はねじられ、エネルギーがたまっていきます。チャップマン教授は、最も強力なコロナ質量放出はこのねじれが駆動していると見ています。ところが、赤道からおよそ15度以内の低緯度では自転速度の差が小さくなり、ほぼ一体となって回る領域ができています。黒点の活動域がこの緯度15度のラインを越えて赤道側に入ると、磁場をねじる仕組みそのものが弱まり、激しい宇宙天気の主エンジンが止まる——というわけです。
この見立てを確かめるため、チームは地球で観測される地磁気活動の指標(aa指数)を、太陽の自転周期にあたる27日のリズムと突き合わせました。すると、スイッチオフ後の磁気嵐は威力が下がり、27日周期のパターンにきれいに乗っていました。これは、爆発的なコロナ質量放出ではなく、太陽と一緒に回る安定した粒子の流れが原因になっていることを示すサインです。スイッチが切れたあとの太陽は、たしかに「別モード」に入っているようです。
オーロラ予報と人工衛星への意味
この話が実用に響くのは、宇宙天気の影響を受けるものが年々増えているからです。通信・測位衛星はもちろん、増え続ける衛星コンステレーション、航空機の運航、送電網。次の周期が活発なら、そうしたインフラの備えを早めに手厚くする判断材料になりますし、逆に穏やかなら、オーロラ観測の遠征計画はサイクル25のうちに立てたほうがいい、という話にもなります。数年単位の見通しが7年前から手に入るのは、備える側にとって大きな違いです。
また、スイッチオフ点は「次の周期を駆動する磁場が形成され始める段階」を指し示している可能性もあり、太陽の磁場を生み出すダイナモ機構という、太陽物理の根本の謎に迫る手がかりとしても期待されています。
解釈上の留意点
いくつか注意点があります。まず、今回の第26期の数字(黒点数100〜120)は、あくまで暫定的な見積もりです。現在のサイクル25はまだスイッチオフ点に達しておらず、その到達はおよそ2年後と見込まれています。いまの予測は「スイッチオフ点がどこに来るか」の推定に基づいており、実際にその点を観測できれば、より正確な予測に更新される予定です。研究チーム自身も、これより強い周期・弱い周期のどちらの可能性も理論上は残る、と明言しています。
また、この成果は学会(英国王立天文学会・全国天文学会議2026)での発表で、今回の発表内容そのものが査読済み論文として確定したものではありません。サンクロック手法自体には積み重ねられてきた先行研究がありますが、第26期の予測値は今後の検証と更新を前提とした数字として受け取るのがよさそうです。
出典
この記事は、英国王立天文学会(RAS)のプレスリリースと、それを報じたScienceDailyの記事をもとに書いています。


コメント