Gemini 4 Argonの数字と、社内から出た慎重論

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Googleが2026年9月30日(米国時間)に、新しい最上位モデル「Gemini 4 Argon(アルゴン)」を発表しました。Gemini 3が出たのが2025年11月なので、世代が上がるのはおよそ10か月ぶりです。ただ、今回いちばん目を引くのは性能の数字ではなく、配り方のほうでした。発表はされたのに、一般のユーザーも開発者もまだ触れません。最初に渡されたのは、サイバーセキュリティで「守る側」にいる限られた組織だけです。

先にうちの立場を書いておきます。このブログの記事はAnthropicのClaudeを使って書いていますし、ローカルで動くAIアプリを作って配布もしています。Googleのモデルの話を書くうえで、競合の道具を使っている人間が書いている、という点は差し引いて読んでください。数字は公式発表と独立評価サイトのものに限り、どちらの出どころかが分かるように書きます。

Flash系が続いた空白期間

Gemini 3以降、Googleの新モデルは3.1 Pro Previewのあと、3.8 Flash、3.8 Flash Cyber、3.8 Liveと、軽量・高速の「Flash」系が続いていました。独立評価サイトのArtificial Analysisの整理では、Flashより上の級のモデルが出るのは7か月ぶりです。Bloombergの報道によると、6月に予告されていたGemini 3.5 Proは結局取りやめになり、資源を3.8 Flashに寄せたうえで、世代ごと飛ばして4に来た形になります。

その間にOpenAIはGPT-6系を、Anthropicは5.5系を出していて、最上位モデルの競争ではGoogleが一歩引いて見えていた時期でした。発表文の筆者はGoogle DeepMindのSVP、Koray Kavukcuoglu氏で、「次の時代のフロンティア知能」という強い言い方をしています。ただ、同氏は先週の時点で「年内のかなり前にGemini 4を出したい」と話していたので、予定どおりではあります。

1回の出力が100万トークン

仕様で分かりやすく変わったのは出力の上限です。これまでの6万4,000トークンから100万トークンに引き上げられました。入力の文脈窓も100万トークンです。要するに、長い作業を途中で区切らずに、考えて書き切るところまで一度に回せるようにした、ということです。長い応答を一時停止して次の呼び出しで再開する「Long Decode Continuation」という仕組みもAPIに追加されていて、タイムアウトを避けながら最後まで走らせられます。

Googleが挙げている数字をいくつか拾います。実務に近い長いソフトウェア開発タスクを測るDeepSWE v1.1で77.9%、金融・法務・税務・コーディングの経済的な価値で重みづけしたVals Indexで1位、Zapierの業務自動化ベンチマークAutomationBenchで51.3%の1位、長い動画の理解を測るLVBenchで91.7%。社内でも数千人のGoogle社員がすでに日常の開発や調査に使っているそうです。

社内事例として目立つのは2つで、ひとつはデータセンターのメモリ最適化です。Argonのエージェント群がGoogle全体のプロファイリングデータを解析して、最適化を自分で見つけて適用し、展開後に300TiB以上のメモリを空けたとしています(最終的な見込みは500TiBから1PiB)。もうひとつはC/C++からRustへの移植で、動画デコーダのlibgav1では、すでにあったRust移植版の3万2,000行ぶんのSIMDコードを、安全なRustで書き直してコンパイラに自動ベクトル化させ、Rust版より2.7倍速くしたと説明しています。800K行を超えるFuchsiaのZirconカーネルの移植も進行中とのことです。

上の画像は想像図です。実際のグラフや表は、記事末尾のGoogleの発表ページで見られます。

先に渡されたのは「守る側」

ここからが今回の発表の本筋です。Argonはまず、Google DeepMindの「Fairwind Program」を通じて、信頼できるサイバー防御の担当者だけに渡されています。Fairwindは政府や国のサイバー当局、病院・通信・電力といった重要インフラの運営者、多くの人が依存する基盤ソフトの開発元などを優先して、新しいモデルを先に使ってもらう枠組みで、現時点で650を超える組織が参加しているとされています。応募には身元や倫理面の審査があり、アクセスの転売や共有は禁止です。

しかもこの枠では、Argonは「サイバー関連のガードレールを外した状態」で提供されます。脆弱性を見つけて、実際に突けることを確かめて、修正まで自動で行う。この能力は、守る側が使えば点検の道具ですが、攻める側が持てば攻撃の道具そのものです。Google自身がFairwindの説明の中で、同じ能力が悪い手に渡れば同じだけ強力な脅威になる、と書いています。つまり一般公開を遅らせている理由は、モデルが弱いからではなく、強すぎる方向が一つあるからです。

その能力の中身も具体的に出ています。セキュリティ企業のWizは、公共インフラを無償で点検する「Scan for Good」という活動でArgonを使い、世界中の病院が使う医療ソフトに個人情報が漏れる重大な脆弱性を見つけました。Googleによれば、これは以前の最上位モデルでは見逃されていたものです。脆弱性の修正能力を測るCWE-bench v1では68%で、Grok 4.7、GPT-6 Astraと並んで首位タイ(Claude Opus 5.5は67%)。ソースコードなしで稼働中のWebシステムを調べるWizの侵入テストのベンチマークでは、前作の3.8 Flash Cyberの58.2%に対して70.9%でした。

公開前に固めているという安全策も4つ挙がっています。化学・生物・放射性・核に関わる悪用の拒否、間接的なプロンプトインジェクション(文書やWebページに仕込まれた命令でモデルを乗っ取る攻撃)への耐性、モデルが利用者の意図を超えて動き出していないかを思考過程と行動から監視して必要なら止める仕組み、そして高リスクの訓練や評価を密閉した環境で行うこと。このうち監視については、監視で見つかった内容を訓練に戻さない、という注意書きがついています。戻してしまうと、モデルが監視をすり抜ける方向に学習しかねないからです。米国政府の公開前モデルアクセスの自主的な手続きにも参加中とのことです。

ベンチマークの外で見えること

発表当日、Bloombergは別の角度の記事を出しています。Googleの社内には、Argonはベンチマークの成績は良いが実際の仕事に使うと期待ほどではなく、コーディングでもつまずく場面がある、と見る社員がいるという内容です。Googleはこれに対して、コーディングなどで性能が劣るというのは不正確だと答え、ある社員は社内では最前線のモデルだという「大きな合意」があると話しています。社内の温度差が報じられるのは珍しいことではありませんが、Flashだけで10か月つないだあとの最上位モデルということもあって、注目の集まり方は少し違います。

第三者の数字も出始めています。Artificial Analysisの総合指標では、最高の推論設定で53点。GPT-6 Astraと同点で、GPT-6.1 Solより1点上です。Googleの前のPro級モデル(3.1 Pro Preview、30点)からは23点の上積みで、同サイトはGoogleが知能の面で上位3社に戻ったと評しています。

ただし項目を分けて見ると、ばらつきがあります。端末上の作業をこなすTerminal Bench 4は57%で、3.1 Pro Previewから53ポイント伸びたものの、Claude Sonnet 5.5の64%、Claude Opus 5.5の60%、GPT-6 Astraの59%には届いていません。業務自動化のAutomationBench-AAでは78%で首位です。もうひとつ面白いのが幻覚(事実でないことを自信を持って答えること)の割合で、同サイトのAA-Omniscienceでは15%と、総合45点以上のモデルの中でいちばん低い値でした。GPT-6 Astraは51%、GPT-6.1 Solは54%です。その代わり正答率は50%で、3.1 Pro Previewより5ポイント下がり、GPT-6 Astraの63%より13ポイント低い。知らないことは知らないと言う方向に寄せた結果、正答そのものは少し減った、と読めます。

コストの見え方も補足しておきます。Artificial Analysisの「1タスクあたりの費用」は割引価格で1.99ドルで、GPT-6 Astraの3.26ドルの約6割ですが、これは単価が安いからであって、使うトークンが少ないからではありません。Argonは1タスクに平均6万2,000トークンの出力を使い、GPT-6 Astraの2万7,000トークンの2倍以上です。割引が終わると1タスク3.98ドルに上がり、GPT-6 Astraをやや上回ります。

いつ、いくらで使えるか

一般向けの順番は、Fairwindの防御担当者の次が有料のAPI利用者とGoogle AI Ultraの加入者で、そのあとに開発者・企業・一般ユーザーへ広げるとされています。具体的な日付は出ていません。

価格は導入時の割引で、入力100万トークンあたり2ドル、出力100万トークンあたり10ドル。キャッシュされた入力は95%引きです。割引期間の終了日は未定で、終わると入力4ドル、出力20ドルになります。出力上限が100万トークンに増えたということは、一度の呼び出しで使う量もそれだけ増やせるということなので、長い作業を任せる使い方では単価より総量を意識することになりそうです。

まとめると、Gemini 4 Argonは「長い作業を一度に書き切る」「金融・法務のような業務の評価で上位」「脆弱性を見つけて直す」の3点で前に出てきたモデルで、そのうち3点目が強いために、まず守る側だけに渡す形で世に出ました。ベンチマークの一部では競合に届いておらず、社内にも慎重な声があると報じられています。実際に手元で使える段階になってから、長い作業でどこまで任せられるかを確かめるのがよさそうです。

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出典

Google公式ブログ(Koray Kavukcuoglu、2026年9月30日):Gemini 4 Argon: our next era of frontier intelligence

Google Japan Blog(日本語版):Gemini 4 Argon:フロンティア知能の新時代

Google DeepMind:Fairwind Program

Artificial Analysis(2026年9月30日):Gemini 4 Argon: Google is back as one of the top three labs in intelligence achieved

The Next Web(Ana Maria Constantin、2026年9月30日。Bloombergの社内懐疑論報道の要約を含む):Google unveils Gemini 4 Argon, and cyber defenders get it first

CNBC(2026年9月30日):Google rolls out Gemini 4 Argon, its most advanced AI model

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