川がオレンジ色に変わった——融けた永久凍土が金属を70倍、100km先まで運んでいた

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アラスカ北部のブルックス山脈には、道路も鉱山もない、ヘリコプターでしか入れない川がいくつも流れている。その川の一部が、ここ数年でオレンジ色に変わった。鉄さびを溶かしたような濁った水が支流から流れ込み、本流の青い流れを染めていく。カリフォルニア大学デービス校の研究チームがこの水を調べたところ、金属の濃度は平常時の最大70倍、場所によっては金属鉱山の排水より酸性で金属が濃い水だった。論文は2026年9月、科学誌AGU Advancesに掲載された。

原因は採掘ではない。永久凍土(えいきゅうとうど)が融けたことだ。

国立公園の川に現れた鉱山排水

ブルックス山脈はアラスカを東西に横切る山脈で、ゲーツ・オブ・ジ・アークティック国立公園をはじめ、いくつもの国立公園や保護区を抱えている。人の手が入っていないという意味では、北米でも指折りの場所だ。

その川でオレンジ色の濁りが目立ちはじめたのは2018年ごろだった。国立公園局の生態学者ジョン・オドネルさんは、ヘリで飛び回るほど次々とオレンジ色の川が見つかり、中には「薄めたオレンジジュース」のような色の場所もあったと振り返っている。

この色に見覚えがあったのが、環境毒性学者のブレット・プーランさんだった。金属鉱山から流れ出す酸性の排水とそっくりだったのだ。鉱山では、掘り出された岩に含まれる硫化鉱物が空気と水に触れて酸化し、硫酸と金属が溶け出して川を汚す。「酸性鉱山排水」と呼ばれる古典的な公害で、鉱山跡の川がオレンジや赤に染まるのはこのせいだ。ただ、ブルックス山脈の川の上流には鉱山がない。

プーランさんたちは2024年に、この現象が永久凍土の融解で起きているとする最初の論文を出していた。今回の研究はその続きで、プーランさんの研究室の博士課程に在籍するテイラー・エヴィンガーさんが筆頭著者として、影響の大きさを数字で押さえにいったものだ。

凍った地面がふたをしていた鉱物

永久凍土は、2年以上つづけて凍ったままの地面のことだ。北極圏の地面の多くはこの状態で、夏に表面がいくらか融けても、その下は何千年も凍りっぱなしになっている。

凍った地面は、水を通さない。雨や雪解け水は地面の浅いところを流れるだけで、深くまでしみ込まない。だから、その下にある岩は空気にも水にもほとんど触れずにきた。ブルックス山脈の岩盤には黄鉄鉱(おうてっこう)をはじめとする硫化鉱物が多く含まれている。鉄と硫黄が結びついた鉱物で、空気と水に触れると酸化して、硫酸と鉄、それに鉱物に混じっていた亜鉛やニッケル、カドミウムといった金属を放出する。鉱山の排水をつくるのと同じ反応だ。永久凍土はこの反応に対して、何千年ものあいだ、ふたの役目を果たしてきた。

温暖化でそのふたが緩む。地面が深くまで融けると、水が岩盤までしみ込み、眠っていた硫化鉱物が一斉に酸化しはじめる。溶け出した鉄分は川に出て酸素に触れると固まり、オレンジ色の細かい粒になって水を濁らせる。川の色は、この反応が地下で進んでいることを示す目印だった。

対照の川の70倍、100km先まで

研究チームは2022年から2024年の夏、ブルックス山脈西部の6つの流域で水を採取した。本流、支流、そして斜面からしみ出す湧き水まで、ひとつの流域の中で場所を変えて測り、酸性の水が川の化学組成をどう変えるかを追った。

基準になるのは、酸性の流入がない本流の水だ。23種類の金属を合計した濃度の中央値は1リットルあたり99マイクログラムで、pHは8.3。弱いアルカリ性の澄んだ水である。これに対して斜面の湧き水や、湧き水の混じった支流は強い酸性で、金属の濃度も桁違いだった。鉱山の排水と比べても、同等かそれ以上という値だ。

その水が本流に流れ込むと、硫酸イオンの濃度が最大で962%、およそ10倍に跳ね上がる。鉄、アルミニウム、マンガン、亜鉛、ニッケル、コバルト、カドミウム、銅、そして希土類元素も同じように増えていた。サーモン川の流域では、金属の濃度が平常時の約70倍に達し、しかもその高い値が流入点から100km以上下流まで続いていた。流れに乗った金属は、思っていたよりはるかに遠くまで運ばれる。

ここで、この川の意外な性質も分かった。本流そのものは酸性にならなかったのだ。ブルックス山脈には炭酸塩岩、つまり石灰岩のたぐいが多く、川の水がもともと酸を中和する力を持っている。酸性の支流が混じってもpHは下がらず、プーランさんはこれを「この系に多少の回復力がある」しるしだと見ている。ただし、中和されるのは酸のほうで、金属は水に残る。酸は消えて金属だけが残り、100km先まで届く。それが今回見えてきた構図だった。

引き金は雪の多い冬

オレンジ色の川が2018年ごろから目立ちはじめたことは分かっていた。チームはさらに、国立公園局が長年続けてきた水質の記録をさかのぼって、変化がいつ始まったのかを突き止めようとした。

答えは2019年だった。この年、6つの流域で硫酸イオンと亜鉛の濃度がほぼ同時に急上昇し、その後の数年でゆっくり下がっていた。離れた流域が足並みをそろえて反応したということは、個別の事情ではなく、地域全体にかかった共通の原因があったことになる。

2019年の夏は、アラスカの観測史上もっとも暑い夏だった。ここまでは予想どおりだ。だが、エヴィンガーさんたちが引き金として指摘したのは、暑さだけではなかった。その暑い夏のあとに来たのが、異常に雪の多い冬だったのだ。

雪が多ければ地面は冷えそうなものだが、実際は逆に働く。厚く積もった雪は毛布のように地面を覆い、冬の冷気を遮る。夏に融けた地面が、冬に再び凍り直す機会を奪われるのだ。暑い夏で例年より深く融けた地面が、雪に守られて凍らないまま次の春を迎える。エヴィンガーさんは、こうして水がいつもより深くまで入り込み、鉱物に触れて、すべての流域がほぼ同時に動き出したのだと考えている。

温暖化と聞くと気温の話だと思いがちだが、川を染めたのは気温そのものではない。暑い夏と雪の冬という組み合わせが、何千年も閉じていたふたを一冬で開けた。

北米の200を超える川で

ブルックス山脈で起きていることは、この地域だけの話ではなくなっている。これまでの調査で、北米の永久凍土帯では200を超える川や小川に同じ酸性排水の流入が確認されている。カナダの北方林や北極圏でも「さびる川」が報告されていて、永久凍土のある地域なら世界のどこでも起こりうる現象として見られはじめた。

プーランさんが強調するのは、この現象が温暖化の将来予測のどこにも入っていなかったことだ。永久凍土が融けると炭素が出て温暖化が進む、という話は長く議論されてきたが、融けた地面から金属が溶け出して川を汚すというシナリオは、予測にも評価にも含まれていなかった。それが今、北極圏の川で実際に起きている。

生き物への影響については、分かっていることと分かっていないことがはっきり分かれている。2024年の論文では、酸性の湧き水の下流で植生が黒く枯れた場所や、支流が1年のうちにオレンジ色に変わったあと、そこにいたオショロコマとカジカが完全にいなくなり、川底の小さな生き物も激減した例が記録されている。カドミウムやニッケル、マンガンの濃度が、米環境保護庁やWHOの飲み水の基準を超えていた地点もあった。一方で、今回調べた6つの流域では、魚の大量死は確認されていない。周辺の村の飲み水に問題が出ているという報告も、いまのところないという。

これらの川の下流には、川の魚を主な食料にしているアラスカ先住民の集落がある。シロザケやシロマス、オショロコマは、この地域の暮らしを支える魚だ。金属が100km先まで運ばれるという今回の結果は、上流の人里離れた川で起きたことが、下流の暮らしとつながっていることを示している。影響がどこまで及ぶのかを調べる研究は続いている。

エヴィンガーさんの言葉を借りれば、取り組みの要点は「懸念と希望」の両方にある。本流が酸性化を免れているのは希望の側だ。それでも、まったく手つかずの川で何百という流域に酸性の水が流れ込んでいるという事実は、変わらない。これが気候変動の新しい現実なのだと、エヴィンガーさんは話している。

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出典

Taylor Evinger et al., “Acid Rock Drainage in a Warming Arctic: Abrupt Onset and Persistent Downstream Effects in Rivers Across Alaska’s Brooks Range,” AGU Advances (2026). DOI: 10.1029/2026AV002407

カリフォルニア大学デービス校プレスリリース:Alaska’s Orange Rivers More Metallic Than Acid Mine Drainage(2026年9月24日)

ScienceAlert:Melting Permafrost Is Poisoning Rivers With Metal Levels 70 Times Higher Than Normal(2026年9月30日)

先行研究(2024年):Jonathan A. O’Donnell et al., “Metal mobilization from thawing permafrost to aquatic ecosystems is driving rusting of Arctic streams,” Communications Earth & Environment (2024). DOI: 10.1038/s43247-024-01446-z

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