車の安全通信「V2X」を自転車に載せたキャニオンの新型eバイク

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車の安全装備は、この十年で確実に増えた。死角モニター、衝突被害軽減ブレーキ、自動緊急ブレーキ……。ところが自転車は、その流れからほとんど取り残されてきた。実際、過去10年ほどで車のドライバーの死者はおおむね減っている一方、自転車利用者の死者は増える傾向にある。ドイツの自転車メーカー、キャニオン(Canyon)が披露した「Roadlite:ON V2X」は、その差を埋めにいく一台だ。持ち込んだのは、なんと自動車の世界で使われている通信技術だった。

車の技術「V2X」を自転車へ

キャニオンが載せたのは「V2X(Vehicle-to-Everything)」という通信の仕組み。登場から20年以上たつ技術だが、市販車ではまだそれほど普及していない。V2Xは、位置・速度・進行方向といった情報を、車どうしがリアルタイムに無線でやり取りするものだ。信号機や道路標識のような、通信機能を持った道路インフラともつながれる。

キャニオン自身も最近、自転車の安全機能に力を入れている。少し前には、AIによる予測型の安全システムを積んだロードバイクのコンセプト「Canyon Predict」を発表したばかり。今回のRoadlite:ON V2Xは、それとは別のアプローチとして、車で使われている安全通信のハードを街乗り用のeバイクに持ち込んだ形になる。

カメラやセンサーではなくV2Xを選んだ理由

「カメラやセンサーで十分では?」という疑問はもっともだ。ただ、カメラやレーダーは基本的に見えている範囲しか捉えられない。建物の陰や見通しの悪い交差点から車が近づいてくる場面では、気づいたときには反応が間に合わないことも多い。V2Xは互いに姿が見えなくても情報を共有できるので、曲がり角の向こうにいる車の存在を早めに知らせられる。米国では、飲酒などの要因を除いた事故の最大8割を防げる可能性があるとされる。ただしこれはV2X全般の試算で、自転車に限った数字ではない点は押さえておきたい。

では、車ですら発展途上のV2Xを、なぜあえて自転車に載せるのか。理由は自転車の物理的な制約にある。自転車は車に比べてスペースも電力も計算能力も限られる。その点V2Xは、自分の位置を周囲の対応車両へ発信しつつ、近づく車の通知を受け取るだけで済む、非常に軽い仕組みだ。カメラやレーダーを積むより、自転車のサイズにずっと収めやすい。

車体とシステムの構成

Roadlite:ON V2Xのベースは、軽量な街乗り用のeバイクだ。車重は13.9kg、カーボンフレームに、シングルスピードのベルトドライブ、ボッシュ製のリアハブモーターとバッテリーを組み合わせ、航続はおよそ90km。日常の通勤・通学に使える現実的な一台になっている。

設計でいちばん苦労したのが、GPSとV2Xのアンテナの置き場所だという。ダウンチューブに小型のV2Xモジュールを収め、通信用のアンテナはヘッドチューブの中に仕込んだ。システム一式でおよそ230g、消費するのはバッテリー容量の1%未満にとどまる。モーター用の電力が尽きても、V2Xの通信に回す予備電力は残るように設計されているため、走行支援が止まっても自分の存在を発信し続けられる。

ハンドルの振動で危険を伝える仕組み

通信できる範囲は全方位で、前方は最大300m、後方は150mをカバーする。対応車両が近づくと、システムはハンドルグリップの振動でライダーに知らせる。たとえば見通しの悪い右の角から車が来れば、右のグリップがすぐ振動する——視線を前に向けたまま危険に気づける、という発想だ。通知はスマホやスマートウォッチ、サイクルコンピューターにも送れる。

普及という最大の壁

キャニオンはこの技術をフォルクスワーゲンと組んで試しており、車と自転車が互いを検知して安全情報をやり取りできることは確認済みだという。残る最大の課題はハードではなく、普及のほうにある。いわゆる「鶏が先か卵が先か」の問題だ。対応する車が少なければ、自転車側が警告を受け取る場面はほとんどない。すると自転車メーカーは、コストを上乗せしてまで積む理由を見いだしにくい。逆に対応する自転車が少なければ、自動車メーカーも、自転車を守るための機能を優先しづらくなる。

だからこそ今回の発表は、ふつうの新製品発表というより「業界へのメッセージ」に近い。Roadlite:ON V2Xは量産できる水準まで仕上げたコンセプト機で、市販の時期や価格は現時点で公表されていない。それでも、自動車並みの安全技術が二輪でも成立することを実物で示し、ほかのメーカーや自動車業界に「一緒にやろう」と呼びかける。キャニオンが投げたのは、そういうボールだ。二輪の安全をどう底上げするか——その問いに対する、いまのところ一番わかりやすい答えのひとつだと思う。

参考:Canyon’s new ebike puts serious V2X safety smarts on 2 wheels(New Atlas)

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