海底に置き去りにされた石油・ガスのパイプが、いまも毎年トン単位でマイクロプラスチックを出している

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マイクロプラスチックの出どころと聞いて思い浮かぶのは、レジ袋やペットボトルの破片、洗濯で出る化学繊維、化粧品のスクラブ剤あたりだと思います。ところが、そのどれでもない発生源が海の底にありました。使い終わって海底に置き去りにされた、石油・ガス田のパイプラインです。英プリマス大学の研究チームが、英国近海の海底に残された設備から、いまも年間4.5〜500トンのマイクロプラスチックが放出されていると推定しました。論文は学術誌 Journal of Hazardous Materials に掲載されています。

海底に置き去りにされる設備

海底の油田・ガス田では、パイプラインのほかに「アンビリカル」と呼ばれる設備も使われます。海底の機器を動かすための電線や細い配管を、1本のケーブルに束ねたものです。パイプラインは腐食を防ぐためにプラスチックでコーティングされ、アンビリカルにもプラスチックの被覆や部材がふんだんに使われています。

油田やガス田が寿命を迎えると、設備を撤去する「廃止措置(デコミッショニング)」という工程に入ります。ここで意外なのは、海底のパイプラインやアンビリカルは、必ずしも回収されないということです。深い海の底から長大なパイプを引き揚げるには大きな費用と危険が伴うため、洗浄して海底にそのまま残す、という選択が広く行われてきました。

英国の大陸棚——陸から続く浅い海底の領域で、北海を中心に北大西洋やアイリッシュ海なども含みます——では、1960年代から石油・ガスの採掘が続いてきました。つまり半世紀以上ぶんの設備が、順番に寿命を迎え、その多くが海底に残されていく局面にあります。残されたプラスチックがその後どうなるのかは、これまでほとんど見積もられてきませんでした。今回の研究は、その量を初めて計算したものです。

22年間海底にあったパイプの表面

研究チームはまず、北海の管理当局(北海移行庁)の記録をもとに、英国大陸棚に設置されたパイプラインとアンビリカルの台帳を作りました。記録からは、パイプの寸法、どんな種類のプラスチックがどれだけ使われているか、海底に残されたのか回収されたのかが、おおまかに読み取れます。

もうひとつの材料が、実物のサンプルです。シェトランド諸島沖のブレント油田には、シェルUK社のパイプラインとアンビリカルが22年間沈んだままになっていて、2024年に回収されました。チームがその表面を電子顕微鏡で調べると、海にじかにさらされていた部分には、無数のひび割れと細かい断片化の痕が刻まれていました。海底の砂による摩耗、海流、表面に住みついた生き物たち。22年かけて、プラスチックは少しずつ削られ続けていたわけです。一方、コンクリートの重しで覆われていた部分は、傷みがずっと軽いことも分かりました。むき出しかどうかで、削られる速さが大きく変わるのです。

台帳の量と、実物から得た劣化の様子。この2つを組み合わせてモデル計算した結果が、冒頭の数字になります。

川からの流入に匹敵する放出量

まず全体の量から。英国大陸棚のパイプラインとアンビリカルの被覆に使われたプラスチックは、合計で約22万トンと見積もられました。そして、その半分以上にあたる約12万トンが、廃止措置のあとも海に残り続ける可能性が高いと推定されています。

この12万トンが海底で削られて出てくるマイクロプラスチック——5ミリ以下に砕けたプラスチック片——が、年間4.5〜500トン。幅が100倍以上あるのは、海流の強さや砂の動きといった環境条件によって、削られる速さが大きく変わるためです。どちらか一方だけを取り出すと実態を見誤るので、幅ごと受け取る必要があります。

ただ、この幅の意味は、比べるものを置くとはっきりします。英国の川から北海に流れ込むプラスチックは、年間4〜16.5トンと推定されています。つまり今回の推定は、最も控えめなシナリオでも、川からの流入と同じ規模。そして上限の500トンは、英国で禁止される前に化粧品のマイクロビーズが北海に放出されていた量の7倍を超えます。レジ袋や洗顔料が問題視され、規制までされてきた一方で、それに匹敵するかもしれない発生源が、誰にも数えられないまま海底にあったことになります。

例外ではなく標準としての残置

「置き去りにされたパイプ」と聞くと、一部の困った事例を想像するかもしれません。しかし数字が示すのは逆です。研究チームによれば、英国の台帳にある設備のうち55%は回収されない可能性があります。さらに米国では、1960年代以降に廃止されたパイプラインの97%超が、海底に置かれたままです。回収されるほうが例外で、残すのが標準。それがこの業界の実情でした。

この研究が対象にしたのは英国大陸棚だけですが、石油・ガスの採掘は世界中の海で行われ、同じように設備が残されてきました。英国の一角だけで12万トンなら、世界全体で海底に眠るプラスチックの量は相当なものになるはずです。

設置の前に決めておくべき終わらせ方

いくつか、押さえておきたい限界があります。今回の数字は、海からマイクロプラスチックを拾い集めて測ったものではなく、設備の台帳と劣化サンプルからモデルで計算した推定値です。また、この研究はマイクロプラスチックが魚や人の健康にどう影響するかは調べていません。チームは濃度の予測から「最も控えめなシナリオでも、広い範囲で海の生き物に悪影響が及びうる」としていますが、実際に何が起きているかの検証はこれからです。

研究チームの提言は、責任追及ではなく仕組みの話に向かっています。海底に残されたプラスチックの環境影響を、廃止措置の意思決定に正式に組み込むこと。そして新しい設備を海に設置するときの計画段階から、それを考慮に入れることです。プリマス大学で海洋プラスチック研究を率いるリチャード・トンプソン教授は、廃止のプロセスは設備を設置する前にきちんと検討しておく必要がある、と指摘しています。

パイプラインは現役の間、確かに役に立ちます。しかし放棄されたあとの影響は、役目を終えてから何十年も続く。作るときに、終わらせ方まで決めておく——海底に沈む12万トンは、その順番を間違えてきた結果なのかもしれません。

出典

プリマス大学のプレスリリース:Are subsea oil and gas pipelines a previously unrecognised source of ocean microplastics?(2026年8月19日)

論文:Mendrik, Gall et al. “Legacy subsea plastics from the oil and gas industry: Environmental risks of decommissioning in situ” Journal of Hazardous Materials

紹介記事:ScienceAlert(2026年8月30日)

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