深海採鉱の試験中、海底の微生物の働きが入れ替わった。南シナ海の水深1,300m で、窒素を供給する遺伝子が減り、酸素のいらない代謝の遺伝子が増えた

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深海の海底には、コバルトやニッケルなどの金属を含む岩や団塊が広がっていて、それを掘り上げる深海採鉱の計画が各国で進んでいます。本格的な商業採鉱はまだ始まっていませんが、試験的な採鉱はすでに行われています。中国科学院の Hao Liu さんたちは、2020年に南シナ海で行われたコバルトリッチクラストの採鉱試験の最中に、海底のすぐ上の海水と岩の表面から微生物の遺伝子を採り、採鉱の前と比べました。栄養分を回す微生物の働きが、採鉱の最中に別の向きへ切り替わっていた、という結果です。論文は Total Environment Microbiology の2026年9月号に掲載されました。著者は5人です。

掘っている最中の海底で、何を測ったか

試験の場所は南シナ海の水深およそ1,300メートルの海底です。コバルトリッチクラストは海山の斜面などの岩の表面に、何百万年もかけて薄く積もった金属の皮で、採鉱ではこれを砕いて小さな破片にし、船の上へ運び上げます。その過程で海底の堆積物や細かい粒子が大量に巻き上がり、海底近くの海水が濁ります。

チームは有人潜水船を使って、岩を採っている場所の海底から0メートル、30メートル、50メートル上の3つの高さで海水を採りました。採鉱の前と、採鉱の最中の2回です。海水中の窒素やケイ酸塩などの栄養塩を測るとともに、海水の中と、岩の表面と底面から DNA を取り出して、栄養分の循環に関わる遺伝子がどれだけあるかを調べました。微生物そのものを数えるのではなく、どんな働きをする遺伝子が増えたか減ったかを見る方法です。

窒素を「使える形にする」遺伝子が減った

採鉱の最中、海底から50メートルまでの海水では、窒素とケイ酸塩を中心に栄養塩の分布が変わっていました。そして遺伝子の顔ぶれにも、はっきりした変化が出ていました。

まず減ったのは、窒素固定に関わる遺伝子です。窒素固定とは、海水に溶けている窒素ガスを、生き物が使える形の窒素化合物に変える働きで、海の食物連鎖の土台を支えています。この遺伝子は採鉱前に比べて大きく減り、減り方は海底に近い海水ほど強く出ていました。著者らは、巻き上がった粒子で水が濁り、堆積物が降り積もったことが、この働きを抑えたと見ています。

逆に増えたのが、脱窒と硫酸還元の遺伝子です。脱窒は窒素化合物を気体の窒素に戻してしまう働きで、海水の中でも岩の表面でも増えていました。硫酸還元は硫酸塩を使って呼吸する働きで、どちらも酸素の乏しい環境で進む反応です。著者らの読みは、海底がかき乱されて有機物が増え、酸素が減ったために、酸素のいらない反応を行う微生物が優位になった、というものです。

つまり採鉱の最中、海底近くの海水では、窒素を生き物に供給する側の働きが弱まり、窒素を海水から抜く側と酸素のいらない代謝が強まっていました。栄養分の循環の向きが、短い時間で入れ替わっていたことになります。

「数日」なのか「数時間」なのか

この論文には、はっきりした弱点があります。採鉱前の試料と採鉱中の試料の間に、どれだけの時間が経っていたかが書かれていないのです。変化が「速かった」ことは分かっても、どれほど速かったかは読み取れません。著者らは、過去の深海採鉱研究が主に長期の影響を見てきたのに対し、この結果を「短期的な影響」と位置づけていますが、その「短期」の長さは示されていません。また、採鉱が終わったあとに元へ戻ったかどうかも、この論文の範囲外です。

それでも、実際の採鉱試験の最中に、その場の海水と岩から遺伝子を採った記録は多くありません。深海の微生物は、海底で栄養分とエネルギーを回し、生態系の釣り合いを保っている側です。南シナ海では、深い海から湧き上がる栄養分の多い水が沿岸の漁業を支えていて、その漁業は年間およそ370万人の暮らしに関わっています。海底の微生物の働きの変化が、そこまで及ぶのかどうかは、この研究だけでは分かりません。

国際海底機構は深海の資源探査の契約を31件認めていて、そのうち5件を中国が持っています。採鉱を進めるにしても、進めないにしても、海底で何が起きるかの記録は、判断の材料として要るものです。著者らは、短い時間でもこれだけの変化が出たことを、深海採鉱の影響を調べる研究を急ぐ理由として挙げています。

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